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余命1週間

余命宣告を受けた様な気分だった。

1週間後にこの世界から居なくなるのか、元の世界に戻るのかもわからない。

記憶が残った状態であるのかもわからない。

リオナールがそうであった様に、キャラクターデータに変更がかかれば持ち物も当然無くなる。

レベルも下がるのだ。

リオナールは記憶が残った状態でまたこちらの世界に来れた訳だが、またそうなるとも限らない。


1週間後には結果が分かる。

1週間後には全てが終わるのだ。

ギガコマ討伐の不具合ももう発生しない。

仮に元の世界に戻ったとしても、もうこの世界に来る事はないのだ。

この世界の残り1週間を心置きなく過ごそう。


天羽母に断りを入れ、もこもこをリオナールに託し、梅園寺家へ連れて帰って貰う事にした。

この世界の滞在も、もしかしたら存在出来る時間も残り1週間かもしれない。

それは俺だけではなく、もこもこもリオナールも睦月もそうなのだ。

リオナールはまぁ充実してそうだからいいとして、もこもこは居心地が悪そうだからな。

せめて残りの1週間くらいはのびのびとこの世界を堪能してもらうべきだ。


それはそうと、睦月だ。

あいつは未だ塀の中だ。

残りの1週間を塀の中で過ごさせるのはあまりにも可哀想だ。

何とかして外に出してやりたい。

天羽母とどうするべきか相談をしてみた。


「睦月の事なんだが、残りの1週間を警察署の中で過ごさせるのはあまりに不憫だと思うんだ」

「そうね、どう転ぶにせよあのままは可哀想ね……」

「そこでだ、睦月だけ元の世界に先に戻ってもらうというのはどうだろうか」

「リオ君の方法で一旦キャラクターを作り直すって事ね」

「ああ、どちらにせよキャラクターデータは1週間後に元に戻る。その間少しでも気楽に過ごせるならレベルが下がる位いいんじゃないか?」

「そうね……私の可愛い睦月ちゃんを自由にしてあげられるなら私は構わないわ」

「わかった。じゃあ早速警察署に出向いて睦月との面会の日を取り付けてくるよ」

「ありがとう。頼んだわね」


俺も余命1週間だし何も考えずただぼーっとしてこの世界を満喫したい。

だが、自分だけよければそれでいいという考えは良くない。

睦月は仲間だ。

あいつだけのけ者にして自分だけが謳歌してられるわけもない。

やる事をやって、すっきりした状態で残りの時間を目一杯満喫したらいいんだ。


早速俺は、コウタに連絡を取り付けた。

直ぐにコウタから返事は返って来て、1時間後に警察署の前で待ち合わせをする事となった。


「やぁ上杉! 元気かー?」

「ああ、久しぶりだな。色々あったがまぁ元気だ」

「そっかそっかー。それでとうとう睦月さんを送り届けるんだね?」

「ああ、その日程を今日は決めに来たんだ」

「おっけー! 任せてよ!」

「いつもすまないな」


相変わらずコウタは頼りになる奴だ。

この世界に来てから、コウタには随分と世話になった。

残りのわずかな時間でもコウタと1日過ごすのも悪くないな。

恩を返すなんて事は出来ないかもしれないが、せめて友達として1日を過ごしてやりたい。


---


何時ものように権力という名のフィールドに包まれたコウタのオーラに、いち警察官如きではコウタに近付く事すら許されない。

面会の部屋に案内をする女性警察官も、心なしか緊張の面持ちが隠せていない様子であった。

元の世界でいう、次期国王と噂される皇太子の様な存在にすら感じられた。


面会の部屋で待つ事数分。

睦月の担当をしている警察官が現れた。

こちらの用件は既に決まっているものの、話をスムーズに、且つこちらに有利な条件で話が進む様に、コウタに耳打ちをしてコウタの口から提案をさせた。

普段は厳格であろうその警察官も、コウタの言動には気を使う様で、終始低姿勢での受け答えとなっていた。


目論見通り、睦月との面会は明日の予定となった。

睦月を開放してやるのに早いに越した事はない。

更に、こちらには何の不正もない事を証明させる為に、立会いの警察官を2名配置させる様にした。

面会の際に誰も見ていない内に忽然と睦月の姿が消えたとなっては、天羽母に逃走幇助の罪が着せられないとも限らない。

警察官の目の前で消えるのを目の当たりにしたら、流石に天羽母が人を消したと思う奴はいないだろう。

実際は天羽母が睦月を消している事にはなるのだが。


話は付いたので、後は明日天羽母と睦月を面会させるだけになるのだが、この話を本人にはまだ話していなかった。

ついでにという名目で、睦月に面会をさせてもらう事にした。

勿論、コウタの権力を使って急遽にだ。


担当警察官は困り顔で部屋を出て行った。

まぁコウタのお願いを拒否する事は、ここのトップである叔父の警察署長でも中々出来る事ではない。

まず間違いなく面会は可能であろう。


待つ事20分、睦月が別の女性警察官に連れられてやって来た。

少々待ち時間が長いかなとも思われたが、急遽の話だ。

仕方あるまい。


睦月は少しやつれたかと思われる様に元気が無かった。

ここ数日狭い部屋に閉じ込められていたのだろう。

無理も無い。

直ぐに救い出してやる。


「よう。元気なさそうだな」

「そんな事はないわよ。少し嫌気が差し始めてた位よ」

「そうか。それで、こないだの話なんだが、考えは纏まったか?」

「ええ……例の話は受けても構わないわ」

「そうか。それを聞いて安心したよ。だが少し話が拗れていてな……」

「どうかしたの?」

「それがな……」


例の如く、コウタに女性警察官の気を引いて貰っている間、巻き戻しの件を睦月に説明した。

睦月にも1週間しか猶予がないと分かったのだろう。

何かの覚悟を決めたかの様に、睦月は口を開いた。


「お願いがあるの」

「なんだ?」

「私の中の人に、私を作り直したらまたギガコマと戦闘をしてこの世界に私を送り込んで貰うように頼んでほしいの」

「またこっちの世界に来たいのか? それとも何か遣り残した事でもあるのか?」

「うん、元の世界に戻れるのは嬉しいんだけど、私1人だけ戻ってレベルも下がっているなら手持ち無沙汰じゃない?」

「まぁそうだな。5日程はぼーっと過ごす感じだな」

「それなら、もう一度こちらの世界に来て、レベルの低い弱回復しか出来ない魔法だとしても役に立ちたいの」

「そうか。睦月も物好きだな」

「ふふっ、そうね」


根っからのヒーラーなんだな睦月は。

少しでも人の役に立って残りの時間を過ごしたいだなんてな。

俺にはそんな考え思い付きもしないだろう。

まぁ、本人がそれが望みならそれを後は中の人に伝えてやるだけだ。

本来は面会するんだから直接言いたいだろうが、目が合うと直ぐに消えてしまうらしいからな。

中の人に自分の気持ちを伝える事も出来ないなんてな。

中の人の気持ちはキャラクターへ注がれているのにな。


用件も終わり、俺とコウタは警察署を後にした。

明日は睦月と天羽母の面会がある為、明後日コウタとまた会う約束を取り付けておいた。

それがきっとコウタとの最後の日になるだろう。


---


天羽母に今日の話と明日の予定をメッセージで送ると、俺は天羽宅に向かった。

思えばあいつにも世話になりっぱなしであった。

なんともだらしない大人の風上にも置けない奴ではあるが、それは個人の自由なのだ。

何だかんだ言って色々と面倒を見てくれたからな。

最後位はちゃんと別れの挨拶位はして置いた方がいいだろう。


少し時間が早かったのか、天羽はまだ家に帰って居なかった。

以前締め出しを食らった時の様に、家の前に座り、天羽の帰りを待った。

前にここで座って待って居た時は、まだ春の陽気に少しなって来た所で、夜は肌寒かった記憶がある。

今はもう既に夜でも暖かい位の陽気だ。

それ位の月日をこの世界で過ごしていたのだ。


中々帰ってこない天羽を待っている間、時間を持て余してしまった為、鞄の中を漁っていた。

鞄の中には、この世界の物と元の世界の物がごちゃまぜに入っていた。

その中からノートと筆記用具を取り出した。

この世界に来たばかりの時に、言葉を覚える為に色々な物を書いては覚えて歩いたものだ。

読み返すと色々な記憶が蘇って来る。

最後の方の残ったページに俺は覚えた文字を書いていった。


ある程度の文字を書き終えた頃に、遠くから陽気な歌声が聞こえて来た。

この界隈で陽気な歌声を響かせて帰って来るのは天羽位しかいない。

今日も外で飲み歩いて酔っ払って帰って来たんだな。

相変わらず駄目な大人だ。


「お~? おう! 賢二郎君じゃないかね。出迎えご苦労!!」

「相変わらずだな、天羽は」

「なんだ~? そっちも相変わらず小生意気ね。ちょっと鍵開けなさい!」

「鞄の中が汚すぎて鍵がどこに入ってるかわからないぞ……」

「そんなのはひっくり返せばすぐ出てくるわよ」


----- ドシャシャッ! -----


「あれ~? 無いわね……」

「本当に鞄の中に入ってるのか?」

「あっ! 賢二郎君いい事言ったね! ポケットの中でした~! ウヒヒ」

「酔っ払いも大概にしろよな……」

「すまんすま~ん!」


最後まで面倒な大人だ。

鍵を開けドアを開けると天羽は崩れる様に玄関先に倒れ込んでしまった。

これでは別れの会話を嗜む事も出来やしない。

残念な大人は残念な別れ方しか出来ないんだな。


天羽を一先ず引きずって万年床まで連れて行くと、聞いては居ないだろうが勝手に呟いて置いた。


「色々迷惑かけたな。俺はもう直ぐ居なくなるけど、一人になっても元気でな」

「にゃんだと! どこに行く! 食い逃げ犯め~!!」


----- バタッ -----


「なんだよ、寝言かよ。びっくりさせんな! ほんと残念な大人だな」


天羽のお腹に毛布を掛けてやると、そのまま静かに天羽の家を出た。

何か感傷的になってしまって、その場に居るとあまりいい気分ではなくなりそうだったからだ。


そのままの足で、一番最初にこの世界にやって来た時に居た公園へとやって来た。

夜と言う事もあり、誰も居ない公園には薄明かりの電灯が灯って居た。


ベンチに腰掛けると今までの思い出に浸りながら、またノートを開いていた。

暫くの間、ぼーっと川の流れを眺めながら過ごしていると、いつの間にか眠ってしまっていた。


---


「にゃーん」


猫の鳴き声で起こされると既に朝になっていた。

体の節々が痛い。

まともに横にならずに寝たのは久しぶりだった。


元の世界では、ダンジョンの奥地や辺境の地で中々戻るに戻れない場所での狩りの場合は野宿をする。

野宿は野営の為、パーティの1人は必ず見張りを付ける。

寝ている間にパーティが襲われて壊滅なんて洒落にならないからな。

そういう時、見張りなのにこっそり座りながら寝ていたもんだ。

次の見張りの奴によく怒られたりしたっけな。


ここ最近は、この世界のぺったんこだったりふかふかだったりするベッドや布団に包まれて毎日幸せ安眠生活を送っていた。

その為か少し体が訛っていたのだろう。

睦月が居ればヒールでも掛けて貰えるのだが、その睦月を今から元の世界に送り届けてやらねばならないのだった。

体の節々は痛いが、丁度約束の時間位になっている。

肩・首・腰をごきごき言わせながら天羽母宅へと向かう事とした。


---


今日はコウタは居ない。

3回目ともなればコウタが居なくとも約束を破られる事もないだろう。

そうなったらなったでコウタを召喚したらいいまでの事だ。


天羽母を家まで迎えに行き、睦月のいる警察署まで案内役をした。

道中、昨日睦月が言っていたお願い事を天羽母に伝えた。


「そう、そんな事を言ってたのね」

「ああ、元の世界で1人は嫌らしいな」

「そっか。じゃあがんばってまたこっちの世界に連れて来てあげないとね」

「そうだな」


そうこうしている内に警察署へ到着した。

今日は面会の約束を事前に取り付けていただけに、既に部屋に睦月を待たせているとの事だった。

部屋の前まで来ると、一旦天羽母をその場に待たせ、睦月の覚悟を改めて確認する事にした。


「おはよう」

「時間ぴったり、流石けんじろう君ね」

「今日はお前の中の人を連れて来た。もう一度確認するが、覚悟はいいんだな?」

「ええ、お願い。私のお願いもちゃんと伝えてくれたんでしょうね?」

「ああ、それはもう伝え済みだ。安心してまた戻って来い」

「そう、それならもういつでもいいわよ」

「わかった」


睦月の覚悟も確認出来た所で、天羽母を部屋の中へと招き入れた。

天羽母は、事前に情報を知っているだけに、いきなり目を合わせなくてもいい様に俯き加減で部屋に入って来た。


「睦月ちゃん、いいわね?」

「はい、お願いします」

「綺麗な声……私のイメージした声の通りよ」

「そうなんですね。私を産み出してくれてありがとう。この先もよろしくね」

「勿論よ、ちゃんと愛しぬくわ」


----- バチチッ -----


睦月と天羽母の視線が合った瞬間、電撃の様な音が一瞬聞こえた。

その次の瞬間、睦月の体が徐々に透けて行ってしまった。

茉莉華はこの瞬間を目撃していたんだな。


「フフッ、けんじろう君お先に♪」


睦月の姿は、その一言を最後に影も形も無くなってしまった。

一緒に立ち会っていた警察官2名が慌てて部屋の隅々を捜し回っていた。

何があったか分からない様子であったが、一先ず上長に報告をと部屋を出て行ってしまった。


天羽母は薄っすらとした涙で瞳を潤ませ、その後一言も発せず部屋を出て行ってしまった。

俺も既に用事は済んでしまった為、天羽母の後を追い警察署を後にした。

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