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気持ち、そして……

「うー……ん……」


季節は初夏。

目覚めたばかりの朝でも少し蒸し暑く感じる位の陽気の中起き上がる。

今日は休みだけど少し予定があって、いつもより早起きをした。


いつもなら夜更かしをしていて中々起きられず2度寝、3度寝を繰り返し、お母さんに起こされる日々だけど今日は違った。

ここ最近は日課のゲームも出来ず、割かし早めに寝ていたのもあって体は快調だった。


昨日は大規模メンテナンスがあったとかで、今日からまたゲームが出来ると思うとウキウキした気分が止まらなかった。

そんな中、一緒にゲームをしている知り合いから少し会わないかと誘われたのだった。


知り合いは少し年齢が上の、おばさんと呼ぶと怒られる様な人だ。

そんな人でも一緒にゲームをやれるんだから、オンラインゲームは面白い。


この人と出会ったのは数年前の今と同じ位の季節だっただろうか。

お母さんに用事を頼まれて、ゲームをしていた最中だったので急いで済ませて帰ろう思っていた所だった。

近道にと思って通った公園で、ベンチに腰掛けて俯いている人がいた。

いつもなら何も気にせず通り過ぎる所だ。

その人との距離がある程度近付いたかという所で、その人の連れている犬がリードを引きずって走って来た。

ハッとした顔をしたその人と丁度目が合い、犬のリードを掴んで逃亡阻止をしたのがきっかけだったかな。


よくよく話を聞くと旦那さんに先立たれて気力を失っていたんだと言う。

僕はその人に、僕が始めたばかりのゲームを勧めてみた。

最初はゲームなんてと拒否をしてはいたものの、少しだけ、色々教えるから、気分転換にと唆して何とか一緒にやって貰える様になったんだ。


僕も最初は一緒に遊べる人が欲しかっただけなんだ。

同じ年齢位の子はオンラインゲームなんてやってたりしないし、パソコンも持ってなかったりする子もいるし。

年上ならそれ位準備するのは簡単かなってのもあった。

今では簡単を通り越して重課金プレイヤーにまで成り上がっている。

大人はずるい。


---


待ち合わせの場所にやってくると、その人、天羽さんは既に待っていた。

僕に微笑み手を振ると、ファミレスへと連れて行ってくれた。


天羽さんと共通の話題のゲームの話をしていると、ここ最近ログイン出来なかった間の出来事の話になった。

天羽さんはどうやら面白い体験をしていた様だった。

凡そ信じられない様な内容だけど、それを証明する様な物を持っていた。


天羽さんが取り出したのは1冊のノートだった。

天羽さんが娘さんから渡されたノートなのだと言う。


最初の方のページは外国語の様な読めない文字が書かれていた。

ページをめくっていくと、そこには汚い字が徐々に綺麗になって行く様な、言葉を勉強して練習していた様な様々な文字が書いてあった。

どんどんとページをめくって行くと、最後の方のページに誰かに宛てられた手紙の様な文面が書かれていた。


天羽さんに聞いてみた所、読んでいいと言う事だった。

その手紙にはこんな事が書いてあった。


---


俺の中の人へ


突然こんな事を言われても理解に苦しむだろうが、俺はお前だ。

正確には違うんだが、俺はお前がいつもやっているシーナリーリピートというゲームの中で操作している賢二郎 上杉というキャラクターだ。

自分で自分の事をキャラクターというのはおかしい話だが、事実そうらしい。


どういう訳か解らないが、俺はシーナリリピートの世界からこの世界に飛ばされてしまったらしい。

この手紙が俺が存在したと言う証だ。

詳しくは目の前にいる天羽母から聞くといい。


数日後、俺はシーナリーリピートのキャラクターデータ巻き戻しと言う作業により消滅してしまうかもしれない。

その前に俺の気持ちをお前に伝えておく。


お前らから見たら俺達はただのキャラクターなのかもしれないが、俺達からしたらちゃんと生きている。

いつも自分で考え、自分の意思で行動していたつもりだ。

だが、それはどうやら違うらしい。

お前らの意思で動き、お前らの性格が反映されている。

性格が反映されていると言うのは語弊があるな。

そのキャラクターで演じている性格が反映されているんだ。

実際の俺はこういうぶっきら棒な性格だが、お前はどうなんだろうな。


何を言いたいかと言うとだ。


俺は俺でちゃんと生きているが、生かされてもいる。


と言う事だ。


お前達がゲームをやらなくなったり、飽きてキャラクターを削除してしまったりしたらそれまでと言う事だ。


俺はもっと人生を楽しみたい。

まぁ、それはこの世界から元の世界にしっかりと戻れたらの話な訳だが


そういう事で、俺が長く生きる為にはお前がゲームを辞めない事が前提なんだ。


飽きて来てゲームをする時間が減ってしまう事があるかもしれない。

そもそも現実が忙しくてゲームをする時間が減ってしまうかもしれない。

気分転換に別のキャラクターを作ってそっちで遊ぶ事もあるかもしれない。


だが、辞めないでくれ。


たまにになってしまってもいい。

ゲームは続けてくれ。


どういう事か、俺達の世界は日付けという概念があまり重要視されていない。

例えば、今日狩りに行って次の日また狩りに行ったとしても、今日が10/30なら次の日が12/14だったりする。

10/30の次の日は10/31のはずなんだが、あまりそういう所は深く考えない様になっているらしい。

狩りに行く日も、3,4日連続で昼夜眠らず平気で狩り続けられる日もある。


数日間、この世界の川の流れを眺めながら考えていた。

行き着いた答えは、恐らくその空白の日付けや連続で狩り続けられる日は、お前らがゲームをやっていない日や、ゲームをし続けている日なのではないか。

そう考えると納得が行く部分があった。

ゲームをしていない日でもゲーム内の日付けは進んでいて、この世界の時間と元の世界の時間は流れる速さが違うのではないかと。


そういう事で、俺達はお前らがゲームをしていない間の日も瞬きをするかの如く一瞬で過ぎ去る。

日にちが空いてしまってもいい。

ゲームを続けてくれるだけでいいんだ。


俺達が存在し続けられる様に……


この手紙を天羽娘に託す。

願わくば、俺の中の人にこの手紙が届く事を切に願う。


賢二郎 上杉


---


「どうかしら? 手紙の内容は」

「どうと言われましても……」

「そうよね~。中々信用出来る様な内容じゃないものね。でも事実よ」

「天羽さんは俺のキャラクターに会ったんですね?」

「ええ、会ったわよ。ゲーム内のけんじろう君そのものだったわ。実際はもっと内気なのにね」

「ゲームの中ではナメられない様に強気な口調にしてますからね……」

「でも上杉君の様にいい子だったわよ。口は悪かったけどね」

「そうですか……」


今日会おうと言われた用件はこれの事だったんだな。

話によるとゲームをする側とゲーム内のキャラクターがお互いを認識してしまうと、キャラクターがこの世界に留まれなくなるとの事。

それで手紙を残して行ったって事なんだろう。


ゲームキャラクターの気持ち……か……


そんな事考えた事も無かったけど、今後はもう少し大事にしてあげようかな。


---


『賢二郎 上杉がログインしました。』


[もこもこ にくうま] お、けんじろ来たにゃー!

[リオナール スラッシュバイト] よう、ケン!

[睦月 ショコラ] こんにちは。

[もこもこ にくうま] けんじろ行くにゃー!

[賢二郎 上杉] なんだ?ログイン早々に。

[もこもこ にくうま] ギガコマにゃ!やりに行くにゃ!

[賢二郎 上杉] またかよ……またイン出来なくなっても知らないからな。

[もこもこ にくうま] もう大丈夫にゃ!問題は解決にゃ!

[賢二郎 上杉] そうなのか?リオナール。

[リオナール スラッシュバイト] ああ、もう大規模メンテで改善されているそうだぞ。

[睦月 ショコラ] 行きましょう、けんじろう君。

[賢二郎 上杉] しかたねーな……

[もこもこ にくうま] よーし!行くにゃーー!!


にゃーー!!


にゃー!


にゃー……




---



----- ピンポーン!ピンピンポーン!ピピピピーーーーンポーーーーン! -----


「はいはいはい! 誰ようるさいわね!」


----- ガチャッ -----


「あ……」

「よう……」

「何であんたここにいるのよ……」

「さぁ、なんでだろうな」

「こないだのメンテナンスってやつで元の世界に戻って行ったんじゃなかったの?」

「戻ったよ。戻ったけどまた飛ばされたんだよ……」

「なにやってるのよもう」

「あのゲームだめだな」

「まぁとりあえず中に入りなさい」

「おう、またしばらく世話になるよ」



fin

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

お読みいただいた感想などをお書き頂けると今後の励みになります。

また、続編等のご希望もありましたら是非そちらもお聞かせください。

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