第九十六話:命を賭けても逃げない (その三)
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右の初列風切羽の大半が失われたり、損傷したりしたことで、無事な左翼がより大きく羽ばたくことで、その損失はある程度補われていたものの、左右の力の不均衡によって、体はロール方向に傾こうとしていた。。尾羽を傾けたり捻ったりすることで、ある程度は打ち消されていたが、その代償として抗力が増していた。その結果、全体的な揚力も低下していた。
要するに、巨大なフクロウのような生き物は、どこか歪んだ姿勢で飛びながら、降下していた。
そして、古代の道沿いに生えていた木々の樹冠に激突した。
衝撃で、王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手は鞍から放り出された。ハーネスのベルトによって、彼女は地上約十メートルの高さでチィからぶら下がった状態になった。
チィに深刻な怪我はなさそうだった。しかし、もし自尊心というものを持っていたなら――大半の戦士たちは、チィにもそれがあると信じていた――、きっとひどく傷ついていただろう。隊長にも確かにその自尊心があり、間違いなく傷ついていた。しかも、こんな滑稽な格好をしているのだから、なおさらだった。
チィは、自分を捕らえている枝から逃れようともがいた。
「暴れるんな!」
彼女は叫んだ。
一瞬、落ち着いたように見えた。しかし、次の瞬間……。
グオオオオオオオオオオオオオオオオ
古代の道沿いにまばらに生えた木々の間から、約八十メートル先にいるゴリラのような生き物が見えた。
イェレンは、かなりの速度で迫ってきていた。
チィは再び激しくもがき始め、ついに彼女のハーネスのベルトが引きちぎれた。
2
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「うぐっ!」
彼女は、下にあった枝に腹からぶつかり、うめき声を漏らした
ゴリラのような生き物は、木々を肩で押しのけながら迫ってきた。
王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手は震えながら両手で枝につかまっていたが、やがて手を離した。地面を覆う雪が着地の衝撃を和らげてくれたものの、痛みがなかったわけではない。
しかし、座り込んでいる時間などなかった。彼女は立ち上がり、逃げるために走り始めた。
イェレンが全速力で走れるほどの空間はなかった。それでも、かなりの速度で進んできた。
一方、雪に覆われた地面は、彼女の走る速度を大幅に落としていた。垂直方向の運動エネルギーの大半は、雪の圧縮や融解に費やされ、そのため、足裏のアーチやアキレス腱に弾性ひずみエネルギーが蓄えられにくくなっていた。本来なら、地面についた足は後方へ動き、その際にアキレス腱などに生じた張力が、足が地面を離れる頃に解放される。その際、足で地面を後方へ強く押すと、その反作用として地面から前方への力を受ける。こうして、弾性構造に蓄えられたエネルギーの一部が、前進するために利用される。
しかし、その瞬間に彼女にできることは、それだけだった。
走ること。できる限り速く走ること。命懸けで走る。実際、命が懸かっていたのだから。
彼女には何か作戦があったのだろうか?
あのゴリラのような生き物をどうやって止めるのか? 駐屯地へ戻らせないためには? あるいは、自分を追いかけてこないようにするには?
3
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彼女とゴリラのような生き物との距離は、65メートルを切っていた。
木々がまばらに生えた狭い道が、同じく木々のまばらな広い空間へと開ける場所に、彼女はたどり着いた。
55メートル未満。
その一帯のほぼ中央には、円錐形の丘があった。高さ72.4メートル、直径1012.4メートル。
45メートル未満。
傾いた木々がその一帯を取り囲み、中央の丘にも生えていた。丘の斜面の一部は崩れ、地下の氷層が露出していた。
35メートル未満。
疲労がますます蓄積し、彼女の走る速度はさらに落ちていった。
20メートル未満。
「畜生! 動け!」
彼女は拳を握って両手で自分の脚を叩きながら叫んだ。
5メートル未満。
生き物が左腕を伸ばし、彼女をつかもうとした。
そのとき――
「放てっ!」
戦士アカリが叫んだ。
炎をまとった矢が雨のように飛び、イェレンの背中に突き刺さった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオ
チィに運ばれてきた戦士が、6人ほどいた。
ゴリラのような生き物が気を取られている隙に、チィの一羽が王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手をつかんだ。
「おはんら全員に、駐屯地へ撤退せよと命じたはずじゃっど!」
彼女は叫んだ。
「隊長殿、失礼を承知で申し上げもすが、命令違反の件は、あとで軍法会議にかけていただいて構いもはん」
騎乗していた戦士もまた、叫びながら答えた。
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一本の木が、まるでミサイルのように彼らのそばを飛んでいった。戦士たちが矢を射続けているにもかかわらず、イェレンの注意は再び隊長へと向けられた。
投げつけられた木は、丘の斜面に露出していた氷に激突し、そこに亀裂を生じさせた。同時に、ゴリラのような生き物が木を引き抜いた際、凍った地面からガスが噴き出した。炎をまとった矢が、漏れ出したガスの中を通過すると、小さな爆発が起きた。
生き物に深刻な怪我を負わせるほどではなかったが、その毛皮を焦がすには十分だった。
「ブドゥ・ムィ、あん丘へ行けっ!」
王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手は叫んで命じた。
「申し訳ございもはん、隊長殿。申し上げたとおり、軍法会議にかけられても構いもはん。じゃっどん、おいどんらは隊長殿を駐屯地の安全な場所までお連れしもす」
騎乗していた戦士も叫んで答えた。
「まず、あん獣が野放しになっちょる限り、安全な場所などなかっ!」
彼女は言い放った。
そして、さらに真剣な口調で続けた。
「命令どおりにせえへんかったら、軍法会議にかけられたほうがマシやったと思うことになるで。知っとるか? 昔、葡萄実っちゅうペットを飼っとったんや……」
騎乗していた戦士は身震いし、顔面が青ざめていた。
「押忍!」
彼は答えた。
手綱を力強く振ると、チィは丘へと進路を変えた。
5
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キィィィィィィィィィィッ
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ




