第九十三話:行きたくても残らないといけない
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「アカリ、駐屯地はおはんに任せるど。すぐ戻っでな。ほんのちょっとした偵察行じゃっど」
王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手はそう言い残し、チィの部隊とともに山へ向けて飛び立った。
最良の展開なら、鈴木くんがまだ体育館の周辺にいて、救出任務に切り替わることになる。しかし、おそらく彼はもう別の場所にいるだろう。きっと、高橋さんを探しているはずだ。
では、渡辺くんの遺体をどうするべきか? あそこに残しておくか、それとも連れ帰るか? 連れ帰れば、皆で彼をきちんと弔うことができる。
霊魂は存在するのだろうか? もし存在しないのなら、少なくとも、その存在を信じる生きている人々の心を慰めることにはなる。もし存在するのなら、苦しみの中にある霊魂をそのままさまよわせておくのは、よくないことだろう。
葬儀や法要といったものには、意味があるのだろうか? これも同じだ。もし意味がないとしても、少なくとも、それらに意味があると信じる人々にとって、そして信じていない人々にとってさえ、気持ちや思い出を分かち合う時間にはなる。もし本当に意味があるのなら、そうした儀式を執り行う価値があることは言うまでもない。
もちろん、これは単純な二者択一の問題ではない。そもそも、葬儀に伴う遺体の扱いにも、埋葬や火葬といった違いがあり、追悼の儀式にも神道、仏教、神仏習合、キリスト教、さらにはアイヌや琉球の伝統に基づくもの、あるいは宗教色のないものまで、さまざまな形式がある。
渡辺くんは何の宗教を信仰していたのだろう? 亡くなった本人の信仰に反する形で別れの儀式を行うことは、問題になるのだろうか?
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彼女は目を大きく見開いた。
「い……いない……」
どもりながら言った。
彼女は物置部屋をひっくり返すようにして探した。予想どおり、鈴木くんはいなかった。高橋さんさんが彼を埋めるように隠したEVAマットの山も崩されていた。しかし、渡辺くんの遺体もなかった。
あの生き物たちか、ほかの動物に食べられたのだろうか? しかし、食べ残しは一つもなかった。体育館の床に生き物たちの残骸が残っていたのとは違って。
部屋の扉もなくなっていた。
鈴木くんは、渡辺くんの遺体をどこかへ運んだのだろうか? もしかして、埋葬したのだろうか?
床には、開封された救急キットや救急バッグが散乱していた。そのほか、バッテリー切れのAEDや数本の皮下注射器もあり、そのうち一本は針が溶けていた。
彼女は鈴木くんの行方を示す手がかりを探して外へ出た。しかし、風、そして何より雪崩によって、彼がどちらへ向かったのかを示す痕跡はすべて消し去られていたようだった。
彼女が口笛を吹くと、破壊された体育館の屋根に止まっていたチィが降りてきた。
彼女たちはチィに乗り、最後にもう一度、空から周辺を調べるために飛び立った。
「陽翔……」
彼女はため息をついた。
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「頼んど! そいと、忘れんなよ……」
王さん――いや、グァングィ、ズィン家ん三番手が言いかけた。
「必ず無事に連れ戻してみせもす、隊長殿!」
「それから、身長はこれくらいで、体格は健康的で、筋肉もほどよくついちょって……」
彼女は続けた。
クァリタヲポノは、最も筋肉を強調する蟹のポーズを取った。
「いや、そげな感じじゃなか。おはんと比べれば、細く見えるどころか、痩せこけちょるように見えるはずじゃ。髪は黒くて、真っ直ぐな短髪。顎には、ほとんど目立たん傷跡がある。おそらく、外套の下には、おいが今着ちょるもんと似たようなシャツを着ちょるじゃろ。それに、リュックサックを背負っちょるかもしれん。たぶん、聞いたこともなか言葉を話すはずじゃ……それから、体には生まれつきの痣が……」
彼女は顔を赤らめ、言葉の途中で口をつぐんだ。
「何か問題でもごわすか、おじょ……隊長殿?」
「いや、何でもなか。まあ、そげな男を見つけたら、ここに連れてきてくれ。それと、もう一度言うが、丁重に扱うんじゃど」
「押忍!」
彼は胸を張って答えた。
その後、クァリタヲポノと十数人の戦士たちは、台地近くの前哨基地へ向けて幌馬車で出発した。
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彼女は机の上で、この地域の略図を広げた。
「隊長殿が、あん男は野外での暮らしに慣れちょるちおっしゃった以上、森ん縁にある開けた場所を、あん男が身を隠す場所や野営地に選ぶ可能性が最も高かと思いもす。凍えるごつ冷たか山風から比較的守られっし、焚き火ん燃料も豊富にあっど。それに、食いもんも集められもんそ。たとえ、こん辺りん土地に詳しゅうなかとしても、そうするはずでごわす。おそらく、森ん奥深くまでは入らんはずじゃっど。そげな場所じゃ、今どこにおるか分からんごとなっど。沢や小川も、この時期は凍っちょるか、すっかり干上がっちょる。しかも、たいていは雪ん下に隠れちょいもす」戦士アカリは、左手の人差し指で地図を指しながら説明した。
「なるほどな」と彼女はうなずいた。
「危険についてですが、気候以外で最も警戒すべきは、動物や魔物でごわす。おそらく、我らの兵が戦っちょるあの奇妙な魔物どもが、あの辺りにももっと潜んじょるはずじゃっど。隊長殿は、あやつらがどれほど恐ろしかか、実際に身をもって経験しちょられもす。おいよりも、隊長殿のほうが適切に判断できる立場におられもす。そいで、おいとしては、二、三人ずつの分遣隊にするのがよかと思いもす。機動力と兵の安全の釣り合いが取れ、限られた時間で、より広い範囲ば捜索できもす。チィの連中も十分におるので、ただちに七組から十組の捜索隊ば編成できもす、隊長殿!」
「よし。では、行くど!」
任務に出発する準備ができた彼女は、そう言った
「隊長殿、失礼を承知で申し上げもすが、隊長殿はここに残って、捜索の指揮を執られるのがよかと思いもす。隊長殿ご自身の安全のためだけではありもはん。捜索隊のどれかがあん男を見つけ、ここに連れてきた場合にも、すぐにお分かりになりもす」
彼は異議を唱えた。
「おはんの言うとおりじゃ。なら、おはんを頼りにしちょっど」
彼女は譲歩した。
彼が執務室を出ていくと、彼女は机の後ろの窓辺へ行き、山の台地へ向けて出発する戦士たちを見送った。
「陽翔……」
彼女はため息をついた。
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そして……。
グオオオオオオオオオオオオオオオオ




