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第八十九話:どうしても伝えないといけない

1

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高橋(たかはし)さんは二段ベッドの下段に座っていた。右足を絶え間なく床に打ちつけていた。腕を胸の前で組み、息を荒くし、身体を震わせていた。そして何より、眉間に皺を寄せていた。


誰かが一歩ずつ、ゆっくりと近づいてきた。しかし、使い古され、歪み、ところどころ腐った床は、軋みながら揺れ、忍び足を許さなかった。


高橋(たかはし)さんは顔を向け、真新しい毛皮の外套を着て、腰に小さな剣を差した王(ワン)さんを見た。


「何、その格好?」


「まだ怒ってる?」


「当たり前でしょ。それで、何、その格好?」


「いろいろ事情があって……」


「そりゃ、事情くらいあるでしょうね。それで、何、その格好?」


「私……いや、『おいはグァングィ、ズィン家ん三番手じゃ』。軍の駐屯地で新たに隊長に任命されたんだ」


「はあぁ?」


高橋(たかはし)さんはそれしか言えなかった。


2

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「分かった」


高橋(たかはし)さんが言った。


「わあぁ、よかった。止められるんじゃないかって心配してたんだ」


王(ワン)さんが安堵したように言った。


「そんな馬鹿なことをしようとするなら、当然止めるわよ」


「分かったって言ったじゃないの?」


「ええ。だからこそよ!」


「陽翔(はると)を探すチャンスなんだよ!」


「自分から無意味な危険に飛び込む言い訳に、彼を使わないで! 駐屯地隊長って? そんな仕事を任されるだけの経験が、あなたにあるの?」


「えっと、柔道も武道の一つだし……」


「ふざけないで!」


「何と言われても、私は行くよ」


「分かってる。だから、私も一緒に行くの」


「無理だよ! 仮に私が許したとしても――許すつもりはないけど――あの人たちが認めるわけないでしょ。それに、私は一人で行くわけじゃない。駐屯地隊長になるんだよ、忘れたの? 部隊全体……ええと、駐屯地にいる兵士たちのこと、何て言うんだっけ? とにかく、訓練された兵士が何十人も、正式に私の指揮下に入ることになるんだから」


「どうして、あなたが派遣されるの?」


3

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「彼らと取引したんだ。正確には、皇帝の相談役とね。この土地の国境付近で起きている騒動について、彼らの調査に協力することになったの。奇妙な現象が報告されてる。奇妙な生き物、奇妙な光。それに、奇妙な……私たち。あの人は、私たちがそれらと関係しているんじゃないかと、かなり疑ってる。正直、完全に間違っているとも思わない。少なくとも、一部はね。彼らの話では、そうした現象のいくつかは、私たちがこの世界に来る前から始まっていたらしい。最後に起きた赤い光の現象も、陽翔(はると)と関係している可能性がある。山の周辺に残っているのは、私たちの中では彼だけだから。私が彼を見つける。それに、もしかしたら、どうすれば家に帰れるのか、その手がかりも見つかるかもしれない」


「その取引には、アリーナでのあの件も含まれてたの?」


「ああ、そうだよ」


「どうして? あんなことをする必要があったの?」


「よく分からない。でも、あの相談役はギャンブラーみたいな人なんだ。私のチームワーク能力を試したいって言ってた。それで、あのボンダマの試合が思ったとおりにいかなかったから、二回目の試験を用意したんだって。でも、どうしても、どっちの試合も仕組まれていて、賭けでもっと金を稼ぐために利用されたんじゃないかって考えちゃうんだよね」


「じゃあ、本当に危険な目に遭ってたわけじゃないの?」


「まあなぁ〜」


「じゃあ、私たちはここで何をしてればいいの?」


「取引には、みんなを客人として扱うことも含まれてるよ」


「私たちは囚人みたいなものじゃない?」


「自由に動き回れるようになるよ。みんなのために、新しい宿泊施設も用意してる。お風呂もね。それに、この街に滞在している限り、彼らが私たちの安全を保障してくれる」


「つまり、ある種の人質ってことね……」


「どちらかというと、私たちは利用価値のある存在だと思われてるんじゃないかな。相談役の推測が正しくて、あの赤い光が本当に私たちと関係しているなら、私たちは大きな力の源になり得る……そして、危険の源にもね」


「じゃあ、この街にいる限り安全を保障するっていうのは、彼らから守るってことなのね。つまり、私たちは……何て言うんだっけ、恐喝の被害者?」


王(ワン)さんは、ふうっと息を吐いた。


4

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「さて、そろそろ行かなきゃ。陽翔(はると)に何か伝言はある? あなたのキスなら、もう預かってるから」


王(ワン)さんは、にやりと笑って言った。


「み……みんなの前で、あんな恥ずかしいこと……」


高橋(たかはし)さんは、トマトのように顔を真っ赤にして言った。


「だって、あなたのキスを彼に届けるには、まず受け取らなきゃいけないでしょ……。それで、ほかに伝言は?」


高橋(たかはし)さんは右手を握りしめ、拳を作った。


王(ワン)さんは身を乗り出し、頬を差し出した。


高橋(たかはし)さんの腕が震えた。彼女は腕を何度か上げては下ろした。


そして――


5

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