第八十七話:負けても認めない (その二)
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「おはんがお嬢ちゃんじゃろうが、そうじゃなかろうが、そげなはしたなか手で、おいどんらん神聖な試合ば汚すこつぁ、絶対に許さんど!」
紫チームのキャプテンはそう叫ぶと、王さんに飛びかかった。
彼は彼女を地面に押し倒し、両腕を手で押さえつけて動きを封じた。彼女は必死にもがいたが、どうにもならなかった。力の差は明らかだった。
そして――
2
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「な……何が起きてるの?」
加藤さんが尋ねた。
高橋さんは立ち上がり、息を荒くしながらアリーナへ向かおうとしたが、吉田さんが彼女の肩をつかんだ。
「うっ!」
男は目を大きく見開いた。しかし、瞳孔は収縮していた。顎が落ち、口は「O」の形に開いている。まるで叫ぼうとしているのに、息すら吐き出せないかのようだった。眉は跳ね上がり、額の中央には鋭い皺が深く刻まれていた。
苦痛? 痛み? 恐怖? そのすべて? 少なくとも、そのすべてだったことは間違いない。
男が右側へ石のように倒れ込み、両手で股間を押さえたことで、王さんの膝が上へ曲がっているのが露わになった。
「ファウル!」
審判が叫んだ――が、そこでようやく、試合がとっくに終わっていたことを思い出した。
彼女は立ち上がり、背中と肩についた雪を払い落とした。
紫チームのキャプテンは地面を転がりながら呻き続けた。
その時間、五分四十七秒。
3
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そこは広い執務室だった。寮にいる人々の約四分の一が、楽に収まるほどの広さがある。
大きな両開きの窓が五つあり、それぞれに、凝ったレース模様の半透明な布でできたカーテンと、革で作られた重厚な遮光裏地が取り付けられていた。
窓の向かい側の壁には、血まみれの戦いを描いた大きな絵が飾られている。右側には大きな暖炉があった。
暖炉の近くには、座り心地のよい布張りの椅子が置かれ、その中央には低い木製のテーブルがあった。その一帯には、爪も頭部も残されたままのドッグワムの皮で作られた、豪華なタペストリーが敷かれていた。
中央の窓の真正面には、大きな紫色と黄色の王旗が左右に掲げられ、その間に市長の執務机があった。今では、皇帝の相談役がそれを使っている。
紫色のローブを着た老人は、脚を組み、横向きに座っていた。右肘を机の上につき、頭を右手に預けていた。口髭を指で弄んでいた。
「戦士……えーっと、あんた、名前なんやったっけ?」
「ビナでごわす、アワゾラ様!」
「ビナか? ええ名前やなぁ。昔、ビナっちゅうペットを飼っとったんや。ああ、ビナやのうて、ヴィーナスやったか。まあ、どっちでもええわ。懐かしいなぁ。なんで懐かしいか、分かるか?」
「そ……そいがお好きじゃっで、ですか?」
「ええねぇ。好きやったんは、きっとそれや。せやけど、わいが懐かしんどる理由は、それやない。もうわいのそばにおらへんから、懐かしいんや。ほな、なんでわいのそばにおらへんようになったんか、分かるか?」
「そ……そいが……死んじょっで、ですか?」
「ほな、なんで死んだんか、分かるか?」
紫チームのキャプテンは黙ったままだった。
「それはな、あの子が悪い子やったからや。言うことを聞かへんかったんや。わい自身は、そんなこと別に気にせえへん。せやけど、わいは皇帝陛下の相談役として、その権威を代表しとるんや。分かるか? そして、陛下の権威は絶対や。せやから、それに逆らうことは許されへんのや。」
紫チームのキャプテンは、なおも黙っていた。顔には冷や汗が流れていた。
「審判は、黄色チームの正当な勝利やと言うたんや。あの御仁は、こういうことの専門家や。わいはな、それぞれの専門分野については、専門家の意見を尊重するんや。分かるか? せやから、ゲームのルールに照らせば、黄色チームの勝利は正当なもんやと、わいは理解しとる。そしてこれは、皇帝陛下ご自身の権威なんや。分かるか? まさか、あんたは神聖なる皇帝陛下の、この件についてのお考えに逆らう言うんか?」
紫チームのキャプテンは黙ったまま、汗を流し、震えていた。
「神聖なる皇帝陛下に逆らうもんが、どうなるか知っとるか?」
紫チームのキャプテンは、黙ったまま汗を流し、震えながら、泣き始めた。
そして――
4
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「おい、それはやりすぎじゃない?」
今までただその場の様子を見ていた王さんが抗議した。
「ん?」
髭を弄ぶ手を止め、アワゾラ様が声を上げた。
「泣いてるじゃん!」
「皇帝陛下に逆らうんか?」
「私は、あなたが何をしているのかを問いただしてるの」
「ペットの話、聞いてへんのか?」
「ああ、あのくだらん戯言なら聞いたよ」
「『くだらん戯言』……言うたんか? もうええ! この問題を一回で片付けたいんやったら、ええ方法がある」
5
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「え? なんで私、ここにいるの?」
アリーナの中央で、王さんは自分自身に問いかけるように声に出した。
「それに、なんで私、こんな剣を持ってるの?」
彼女はさらに自分自身に問いかけた。
「うおおおお!」
観客がどよめいた。
「それに、なんで紫チームのキャプテンまで向こう側で剣を持ってるの?」
彼女はなおも自問した。
「あっ、静だ!」
コロッセオの観客席のどこかから、吉田さんが叫んだ。




