第八十一話:無茶しても落ちさせない
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「え……えっ、先生? こんなところで何してるんですか?」
震えながら、小林さんが尋ねた。
「ああ、ごめんなさい。ちょうど、この毛布を干す場所を探してたの。吐いたものと汗の匂いがするから」
佐藤先生は、毛布を持った両腕を軽く上げながら答えた。
「ち……近づいて、私を止めようとしないで!」
女子は、寮の屋上の端の一つへ向かった。
「あら、しないわよ。あなたが何をしようとしていても、止めるつもりはないわ。でも、震えてるわね。毛布、いる? まあ、あまりいい匂いはしないけど」
「ち……近づかないで……」
「分かった、分かった……。話でもする?」
先生は毛布を地面に置きながら尋ねた。
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「ち……近づかないで、先生……」
寮の屋上の端に立った小林さんが言った。
「近づかないわ。ただ、話がしたいだけ」
佐藤先生が答えた。
「わ……私、話すことなんてない。もう放っておいて……」
「ねえ、知ってる?」
そう言いながら、先生は別の場所から屋上の端へ向かった。
「ち……近づかないでって言ったでしょ」
「約束は守ってるわ。あなたには近づいてない。でも、知ってる? 私も昔、あなたと同じ立場だったことがあるの」
「う……嘘つき。私と同じように苦しんだなんて、そんなふりしないで……」
「あら、そんなことを言ってるんじゃないわ。ただ、私も昔、恋に破れたことがあるってだけ。ああ、あの人、本当にろくでもない男だったわよ?」
「わ……私はそんなこと知らない。ひな……中村くんは、完璧な紳士だもの……」
「ええ、あなたがそう言うなら信じるわ。でも、だからこそ……」
「だ……だから、何?」
「ううん、何でもない……。ただ、彼はどんなふうに苦しむのかなって思っただけ」
「日向……くん?」
「そう、日向くん……。あなたが望んでるのは、そういうことなんでしょう? あなたを失望させたことの償いを、彼にさせたい……」
「違う……そんなことじゃない。彼は何も悪いことをしてない。わ……私は、彼を苦しませたいわけじゃない……。た……ただ、もう彼の邪魔をしたくないだけ……」
「それがその方法だと思ってるの? 彼はずっと罪悪感を抱えることになるわ……。その罪悪感で、きっとすごく苦しむ……」
「ち……違う、私は彼を苦しませたいわけじゃない……」
「まあ、下がずいぶん人だかりになってきたわね……。ねえ、あそこにいるの、彼じゃない?」
「わ……私は彼を苦しませたいわけじゃない……」
「じゃあ、どうするの?」
先生は屋上の端から離れた。
「ち……近づかないで!」
「近づかないわ……」
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「エマ! エマ〜!」
地上から声が聞こえてきた。
中村くんだった。
「まずい!」
佐藤先生が呟いた。
小林さんの震えが、さらに激しくなった。
「小林さん、私の話を聞いて……」
先生が叫んだ。
「いや……」
「私を見て……」
「いや……」
「エ〜マ〜! お願い、許してくれ!」
そのとき、一人の女子が中村くんに近づき、彼の右腕をつかんだ。
「いやぁぁぁ……」
「小林さん! 私を見て!」
「ねえ、あの子、いつまであれやるつもり?」
階下から誰かが言った。
「さあ。もういっそ、さっさと飛び降りればいいのに」
別の誰かが言った。
女子は前へ身体を傾けた。
身体の重心が、もはや両足の位置と一致しなくなった。そして重力に引かれることで、身体が回転運動を始めた。
先生は二度の大きな跳躍で彼女に追いつき、後ろ襟をつかんだ。
しかし、慣性によって先生自身の身体も前へ動き続けた。
先生は左足を屋上の縁の盛り上がった部分に押しつけることで下半身の動きを止めようとしたが、上半身はそのまま前方へ投げ出され、それによってこちらも回転運動が生じた。
つまり今、寮の屋上から落下しようとしている人間は、二人になっていた。
4
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数学的な意味での「結び目」――つまり、三次元空間内にある、どこにも自己交差を持たない閉じた輪――という定義は、実際に使われる物理的な結び目の大半には当てはまらない。そもそも、実用上の結び目では、端は一般的に自由になっているからだ。
辞書によっては、「結び目」を「紐状のものが結び合わさったところ」と定義しているものもある。これは、多少冗長というか自己言及的であるうえ、そもそもあまり定義らしい定義でもない。そして、それでさえ、多くの「結び目」の例には当てはまらない。
どんな定義であれ――もし、あらゆる場合に普遍的に当てはまる定義が存在するのなら――佐藤先生には、それが一つの「結び目」、いや、実際にはいくつもの「結び目」だったことが、彼女の命を救ったのだとかなり確信できた。毛布を何枚もつないで即席のロープにした、その結び目。彼女はそのロープを自分の腰に結びつけていた。彼女自身の命と、間接的には小林さんの命も。
「ああぁ〜、高橋さん、鈴木さんとキャンプしててくれて、本当によかった!」
屋上からぶら下がったまま、小林さんをしっかりと抱きしめながら、先生が叫んだ。
少女は泣き止まず、先生の胸に顔を埋めていた。
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兵士たちが到着した頃には、すでに危機は収まっていた。
伊藤さんとほかの女子たちは、先生と小林さんを再び屋上へ引き上げた。
全員、顔を赤くし、息を切らし、心臓が激しく鼓動するほどだった。
佐藤先生は小林さんをしっかりと抱きしめた。二人は屋上の床に膝をついた。
すすり泣きが落ち着くと、小林さんは顔を上げ、先生の顔を見た。
「せ……先生……ひっ……先生の……ひっ……おっぱい……ひっ……すごく柔らかい……」




