第八話:計算している時間がないほど早い
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谷へ下る斜面は、それほど険しくは見えなかった。杉林の中を抜ける、比較的なだらかで幅のある坂道だった。
だが、数歩踏み出しただけで、鈴木くんの体は腰まで雪に沈んだ。穴から這い出すまでに何分ももがくことになる。疲労と驚きで心臓は激しく脈打ち、口から吐く白い息もいっそう濃くなっていた。
彼は長いこと坂の下を見つめ、それから体育館へ視線を向けた。
しゃくり上げるように息を漏らすと、彼は倉庫へ戻っていった。
彼は非常用キットの入ったリュックを床に下ろした。右腕を中へ突っ込み、何かを探る。そして、小さな折りたたみナイフを取り出した。
次にバレーボール用具棚へ向かい、ネットを引っ張り出してロープを何本か切り取る。それからテニス用品棚へ移動し、テニスラケットを二本取り出して床に平行に並べた。ネットのロープをそれぞれのテニスラケットに結びつけ、その上に足を乗せ、ロープでラケットを靴に結びつけた。
折りたたみナイフをリュックへ戻し、リュックを背負い直した。
足を引きずるアヒルのような歩き方で、彼は再び坂へ向かった。
2
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さっき自分が沈んだ穴は崩れていたが、場所はまだはっきりとわかった。彼は息を止め、その穴の脇の雪へ慎重に足を踏み出した。
成功だ。即席のかんじきは、一応は機能していた。
……だが、歩こうとした途端、うつ伏せに倒れ込んだ。ラケット同士が重なってしまうのだ。こんな大股で谷まで歩き続けるのは、とても現実的ではなかった。
彼はしゃくり上げた。
そして、ゆっくりと体育館へ視線を戻した。
「あぁ〜あ……」
3
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しばらくすると、彼は再び坂の頂上へ戻っていた。
「うぐっ……」
鈴木くんはうめき声を漏らしながら、坂の頂上の雪の上にドアを落とした。
明るい日差しの下で見ると、ドアの木板にはいくつもの切り傷が刻まれていた。それは歯形には見えない。爪痕でもない……。
剣か。
あの男たちは剣を持っていた。まさか、みんなも襲われたのでは――。
「いや、いや……考えるな……」
彼はドアに固定したロープを固く握り、ドアにまたがると、地面を強く蹴って滑り出した。
「イェーハーッ!」
鈴木くんは右手に持った保温シートを振り回しながら叫んだ。
その直後、赤い閃光。そして地鳴りのような轟音が響いた。
すべてが震えているように思えた。
ゴゴゴドドオオオォォ!
鈴木くんは振り返り、その広い斜面がどうしてできていたのかを一瞬で理解した。
4
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計算は実に単純だった。一年生で習う運動学だけで十分だ。
鈴木くんの滑走速度は時速32.4キロ。雪崩の速度は時速108.9キロ。斜面の全長は5032メートル。彼が滑り切るまで約9.3分。雪崩は約2.8分。
彼が雪崩より先に麓へたどり着くには、この瞬間の彼と雪崩の先頭との距離が11.9キロ以上必要だった。
実際の距離は、1キロにも満たなかった。
これで授業は終わりだ。
5
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ドドオオオオオオオオオオォォォォォォ!




