第七十二話:何も見えなくてもじっとしていられない (その六)
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「いったい、何が起こっているの?」
中村くんが尋ねた。
しかし、誰にも分からなかった。いや、それを引き起こしている当の本人でさえ、分かっていなかった。
船は、もはや小さな魚のような生き物たちの群れが周期的にぶつかってくることで揺れているのではなかった。まるで地震でも起きているかのように、船全体が揺れていた。
2
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「消えろ……!」
半ば意識を失った吉田さんがそう呟いたのは、生き物たちが巻き起こした荒れ狂う水しぶきに、彼女と王さんが飲み込まれる直前のことだった。
彼女はまだ、火を起こそうとした際の摩擦で擦り減った木の棒を握っていた。吉田さんと加藤さんが、鳥のような生き物たちを追い払おうとして、うまくいかなかったときに使った、あの木の棒だ。
その木の棒の先端に、小さな鮮やかな赤い光の球が生まれた。そしてそこから無数の光線が伸び、それぞれの小さな魚のような生き物を貫いた。
船上にいた人々に見えたのは、まるで溶岩に変わったかのように、鮮やかな赤色に輝き、泡立つ水だけだった。
その場にいて、吉田さんの後ろから彼女の身体を支えていた王さんにも、何も見えなかった。最初は、密集した魚のような生き物たちの群れによって。そして次には、目をくらませるほどの赤い光によって。
そして、吉田さん自身も、ほぼ間違いなく何も見えていなかっただろう。最初は、ほとんど意識を失っていたから。そしてその後は、あまりにも強烈な光そのものが、何も見えなくしていた。
3
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赤い光が消えると、川の水はより濃い赤色に染まっていた。それは、水の中にインクを垂らしたように広がっていく。血だった。
「ひっちゃ~ん!」
加藤さんが叫んだ。いや、むしろ絶叫した。泣きながら、何度も繰り返し叫んだ。
そして、彼女は声を失った。震えながら甲板に膝をつき、凍えるように冷たい手すりの棒を両手で強く握りしめた。
「静!」
高橋さんが、目を大きく見開き、涙で潤ませながら叫んだ。
船の左端、四列目の馬車と同じ位置にいた女子柔道部のみんなと、そこにいた何人かの生徒たちは、口を開けたまま完全に沈黙していた。
やがて、水の流れが、インクのような濃い赤色の液体を洗い流していった。
小さな魚のような生き物たちの姿は、もうどこにもなかった。
船は座礁したまま、もう揺れていなかった。
水の流れは、いつものように穏やかだった。あの穏やかで心地よい音。
その瞬間、その穏やかで心地よい音は、誰の心を落ち着かせることも、誰かを心地よくさせることもできなかった。
むしろ、その穏やかさと心地よさそのものが、彼らの心の中にあるはずの恐怖とはあまりにも対照的で、神経を逆撫でするように不快だった。
4
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バシャッ。バシャッ。
ついに沈黙が破られた。
船員たちが何かを指差しながら、慌ただしく動いている。多くの戦士たちが、船員たちのいる場所――船の前方甲板の端、船首の舷側へ向かった。
「アバニ・ダガラガ・ヺル。ナ・ブダダリ・ヺル!」
そのうちの一人が叫んだ。
何人かの生徒たちも、そこへ向かった。
「ねえ、あそこに女の子が二人いる!」
「王さんじゃない?」
佐藤先生も船首の舷側へ向かった。あまり見やすい位置ではなかったが、川岸で二人の女子が陸へ上がろうとしているのが見えた。
「お願いします、あそこへ行く必要があります!」
先生は護衛の戦士の一人に訴えた。
もちろん、聞き入れてもらえるはずもなかった。
それでも、二人の船員が舷梯を伸ばし、何人かの戦士たちが船を下りた。すると、先生も彼らに続いた。
陸へ上がると、先生は二人のもとへ走り、二人を引っ張り上げるのを手伝った。
「王さん、吉田さん? 二人とも大丈夫?」
先生が尋ねた。
しかし、どう見ても大丈夫ではなかった。
吉田さんは意識を失っていた。王さんは意識があり、水を吐きながら震えていた。そして、脚からは血が流れていた。
二人とも顔面蒼白だった。
先生は吉田さんの呼吸を確認し、二人の脈を測った。
見た目ほど悪い状態ではなかった。しかし、安心できるほど良い状態でもなかった。
戦士たちは焚き火を起こし、二人の女子のために乾いた毛皮の外套を二着持ってきた。
温かいスープも作った。
先生と高橋さんは、煮沸した川の水と、戦士たちの多くが抗議する中で酒も使って、王さんの傷を洗い、煮沸した布の切れ端で傷を包んだ。
加藤さんは吉田さんを抱きしめ、友人の額に自分の額を寄せた。
しかし、彼女は何の反応も示さなかった。
5
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船員たちは、再び船を航路へ戻した。
王さんと吉田さんは、鳥のような生き物たちに襲われなかった戦士たちの馬車へ運び込まれた。その馬車の幌は、あの巨大な狼のような生き物に吹き飛ばされたあと、元に戻した際に残った隙間を除けば、ほぼ無傷だった。その隙間は、毛皮の外套と麻袋を何枚か使って塞がれていた。
佐藤先生は、高橋さんと加藤さんの手を借りながら、二人の女子の世話をした。
煙は止められた。しかし、念のため、大鍋と、それに必要な材料はすぐ使えるように準備しておいた。




