第七十一話:何も見えなくてもじっとしていられない (その五)
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王さんたちは目を大きく見開き、鼻からは濃い白い息が立ち上っていた。
「紬、ダメ!」
高橋さんは彼女の手をしっかりと握り、もう一人の女子を追って川へ飛び込もうとするのを止めた。
王さんは周囲を見回した。辺り一面が濃い煙に覆われている。そして、再び水面を見下ろした。友人たちの姿は、どこにも見えない。
「いや……いや、いや、いや……」
彼女は呟いた。
「私が行く、私が行く……高橋、お願い、行かせて!」
「ダメ、紬……」
「でも、ひっちゃん……私の大切な陽葵が……」
彼女は泣きながら言った。
「紬……」
しかし、彼女は答えなかった。
「紬……紬……」
高橋さんは繰り返した。
「加藤!」
王さんが叫び、友人たちを我に返らせた。
「私、王静が誓う。私たちは必ず彼女を連れ戻す!」
そう言うと、彼女は声の限り叫んだ。
「女子柔道部のみんな! よく聞きなさい! 緊急事態よ! 吉田陽葵が川に落ちた。山田茉白、山田凛、馬車の後ろにあるランタンから蝋燭を取ってきなさい。佐々木陽菜、山口心陽、物資用の馬車へ行って。馬車の列の一列目、二台目よ。そこにある、編み目をほどいたロープを持ってきなさい。それから、水に沈むような重いものも。大鍋か、何かそういうものを。それと、松本さちこは誰かから毛皮の外套を借りてきて。全員、そのあと私のところへ来なさい。船の左側の手すり、馬車の四列目とだいたい同じ位置よ。気をつけなさい。甲板は滑りやすいし、船も揺れている。これ以上、誰にも水へ落ちてほしくない。自分では無理だと思う人は、叫ぶか、誰かに叫んでもらいなさい……」
誰も叫ばなかった。
「よし。以上!」
彼女は指示を終えた。
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彼女は、どれくらいの時間、水中にいたのだろう?
水面へ出ようとするたびに、あの小さな魚のような生き物たちの動きによって生じた渦が、彼女を再び水中へ引きずり込んだ。
それは単に鬱陶しいだけではなかった。それ自体が危険だった。
鳥のような姿になったときの突っつきについて言えば、一匹一匹の攻撃など、ほとんど何でもなかった。そもそも、歯すら持っていない。
しかし、口の縁にある角化した上皮が、少しずつ皮膚を削り取っていく。数匹程度なら、人間の皮膚の表面にある死んだ細胞を取り除くのに役立つ程度だっただろう。
だが、何千、何万もの生き物がいるとなれば、話は別だった。
そして、それに加えて水の冷たさがあった。
非常に冷たい水だった。
吉田さんの手足は、すでに感覚を失っていた。
頭も、まともに働かなくなっていた。
それでも、身体機能がひどく損なわれながらも、彼女はなお抗おうとしていた。
動かせる限りの力で、腕と脚を激しくばたつかせた。
しかし、その力は少しずつ失われていった。
トンネル状に狭まった視界は、ますます暗くなっていった。
そして――
ドボン!
おそらく、彼女にはその音さえ聞こえなかっただろう。
しかし、何か重いものが、今まさに川へ飛び込んだ。
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王さんには、無数の魚のような生き物たちが入り乱れるその混乱の中で、何も見えなかった。
彼女が着ている毛皮の外套は、蝋燭の脂で油まみれになっており、身体全体も同じように脂で覆われていた。袖口の部分、襟、外套の裾は、ロープから作った紐で固く縛られていた。前合わせも巻き合わせ、端の部分まできつく縛ってある。
決して完全な防水ではなかったが、運がよければ、一時的に冷たい水が胴体へ触れるのを防ぐことはできる。
ただし、そのせいで浮き袋のように作用してしまうという問題があった。だが、脚に吊るした重いハンマーのおかげで、彼女は水中へ潜ることができた。
息を止め、手探りで水中を両腕で探った。
すると、何か硬くて細いものに、かすかに触れた。
小枝?
もう一度、何かに触れた。
王さんは、脚に結びつけたハンマーを引きずりながら、川底からわずか数センチ上を不器用に進んだ。
まるで月面を歩く宇宙飛行士のようだった。
あるいは、東京に現れたゴジラのように。
彼女は、何かに触れた方向へ進んでいった。
冷たい水にさらされていた脚は、次第に感覚を失っていった。
そして、身体に塗った脂は、魚のような生き物たちによって少しずつ剥ぎ取られていた。
そして――
手だった。
間違いなく手だった。
その手は、木の棒を握り、それを水中で振り回していた。
4
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王さんはその手をしっかりとつかみ、自分のほうへ引き寄せた。
かろうじて動いているだけの吉田さんの青ざめた顔が見えた。
王さんはすぐにハンマーをほどき、水面へ浮上した。
二人は川の流れに乗って流され始めたが、魚のような生き物たちの攻撃によって、それさえも妨げられた。
王さんの脚の傷のかさぶたが剥がれ、血が流れ始めた。
それによって、生き物たちの狂乱はさらに激しくなった。
彼女は叫んだ。しかし、何千、何万もの魚のような生き物たちが跳ね上がる騒音に、その声の大部分はかき消された。
その動きによって水中には無数の気泡も生じ、二人の女子は再び沈んでいった。
王さんは、手足の感覚が麻痺しているにもかかわらず、できる限り速く足をばたつかせた。
しかし、二人は船底にぶつかった。
彼女は、もうほとんど息が残っていなかった。
それでも吉田さんを離さず、空いているほうの手を船底へ押しつけ、二人をそこから引きずり出した。
「いた! 二人とも、そこ!」
甲板から加藤さんが叫んだ。
誰かが、二人のいる水面へ棹を差し伸べた。
しかし、またしても魚のような生き物たちの動きによって、水中へ引きずり込まれた。
5
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完全に沈む直前、ほとんど意識を失っていた吉田さんが呟いた。
「消えなさい!……」
二人とも水中へ沈んだ。
そして――




