第六十九話:何も見えなくてもじっとしていられない (その三)
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「準備はオッケー?」
王さんが尋ねた。
伊藤さんと田中さんは、蓋をした壺を抱えたまま、ただ頷いた。
「せーの」
二人がそう言って、馬車の後部の帆布を開けた。二人が飛び出すと、すぐに後ろの帆布を引き下ろし、再び馬車を密閉した。その間に、王さんと高橋さんは、中へ入り込んできた鳥のような生き物たちを排除した。
伊藤さんと田中さんは落ち着いて歩き、船の中央だと思われる場所まで来ると、壺の蓋を外した。
濃い煙が立ち上った。
酒を染み込ませた穀物に、穴を開けたリチウム電池を使って火をつけた。そして、最初に川から汲んだ水で濡らした穀物は、燃焼によって放出された熱エネルギーの多くを吸収すると同時に、水蒸気を発生させた。これによって燃焼温度が効果的に低下し、穀物の不完全燃焼を引き起こして、煤やタール、灰が生じた。
高温の水蒸気がそれらの粒子状物質を持ち上げ、濃い煙を発生させた。
普通の鳥の場合、煙を視覚や嗅覚で感じることは、本能的に危険と結びついている。自然界では、それはしばしば山火事と関連しているからだ。それに、煙は呼吸器官に生理的な損傷を与えたり、粘膜を刺激したりする傾向がある。そのため、ほとんどの鳥類は煙を避け、その存在を感じると飛び去る傾向がある。
しかし、これは普通の鳥ではなかった。
鳥のようには見える。だが、生徒たちは、それらが魚のような生き物から変化したところを見てはいなかったものの、すでに多くの奇妙なものを目にしていた。
巨大な狼のような生き物。二つの頭を持つイノシシのような生き物。そして、トカゲのような姿をした羽毛のある生き物。
だから、自分たちの世界にいる何かに似た生き物なら、その生き物も同じように行動するはずだ――そんな仮定に基づいた理屈が通用する保証など、どこにもなかった。
「ねえ、うまくいってるみたい!」
伊藤さんが言った。
実際、煙の柱の周囲にいる鳥のような生き物たちの密度は、かなり低くなっていた。
しかし、ムクドリのような生き物たちの群れが発する騒音は、それでも田中さんが友人の言ったことを聞き取れないほど強かった。
それでも、煙が広がっていくにつれて、甲板からムクドリのような生き物たちが次第にいなくなっていった。
「やった!」
二人の女子が叫び、ハイタッチを交わした。
何人かの生徒たちは馬車の後部の帆布を開け、何が起きているのかを見るために顔を出した。
しかし、彼らが笑顔を見せ始めたところで、壺から出ていた煙が途切れ、鳥のような生き物たちはすぐに戻ってきた。
生徒たちは、再び馬車の中へ閉じこもらざるを得なかった。
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伊藤さんは、まるで水平線を見つめているかのように、黙ったまま立っていた。もっとも、あれほど密集した群れの中では、水平線など見えるはずもなかった。
「もっと作ろう! もっと煙を出して!」
田中さんが叫んだ。
「む……無駄……」
彼女は、それだけ呟いた。
残っている飼料用の穀物は、もうあまり多くなかった。多くても、あと十回程度しか繰り返せない。煙を出せるのも、せいぜい三十分ほどだろう。
仮にもっとあったとしても、この先の旅はどうなる? どれだけ時間がかかる? もしあの生き物たちが追い続けてきたら、その後はいったいどうする?
「と……とにかく、戻りましょう!」
田中さんはそう言って、彼女の手をつかんだ。
しかし、伊藤さんは動かなかった。
「な……なんで?」
田中さんが尋ねた。
「なんでって、あっちゃん? あっちゃん? 愛ちゃん。伊藤! 伊藤愛さん!」
彼女はようやく、田中さんのいる方向へ顔を向けた。
しかし、周囲を飛び回る無数の小さな鳥のような生き物たちのせいで、その姿を確認することさえ、ほとんどできなかった。
それでも、伊藤さんは田中さんの手を、さらに強く握り返した。
そして――
誰かが、二人にぶつかった。
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「ねえ、こんなところで何してるの? えっと……」
田中さんが叫んだ。
「私、高橋佐知子。まだちゃんと自己紹介してなかったよね」
「私は田中美智子。それで、この子が伊藤愛。高橋さん」
「佐知子でいいよ」
「じゃあ、佐知子さん? 私のことは美智子って呼んで」
「あれ、二人とも、あの鳥たちに襲われてないんだ……」
「うん。飛び回って、ときどき私たちにぶつかってくるだけ。そっちも同じみたいだね」
「うん。でも、ほかの友達は……」
そして――
「痛い、痛い」
そう言いながら誰かがやって来て、女子たちにぶつかった。
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「静!? こんなところで何してるの?」
高橋さんが叫んだ。
「急に馬車を出ていったから……」
王さんが答えた。
「ここは危ないよ……」
「ああ。平気、平気……痛い!」
「意地張らないで!」
そして――
「痛い、痛い……」
そう叫びながら、二人の人影がぶつかってきた。
「陽葵、紬! あなたたちも?」
高橋さんが叫んだ。
「だって、静が私たちを置いていったんだもん。あんなところでじっとしてるわけには……痛い……いかないよ……」
二人の女子は、同時にそう答えた。
そして、以前、摩擦で火を起こそうとして失敗したときに使った棒切れを手に、鳥のような生き物たちを追い払おうとしていた。
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そして、鳥のような生き物たちは再び散り始めた。
濃い煙が甲板を覆った。




