第六十八話:何も見えなくてもじっとしていられない (その二)
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王さん、高橋さん、そして二人の友人は、馬車の中で吐いたものを拭くための布を取りに、物資用の馬車へ向かっていた。小さなムクドリのような生き物たちの群れが船を襲い始めたのは、その帰り道の途中だった。
高橋さんは、ほとんど平気だった。しかし、ほかの三人の女子は、絶え間なく突かれ続け、容赦なく苦しめられていた。特に狙われていたのは、森の中の道で馬車へ侵入してきた、あの狼のような生き物に襲われて負った王さんの脚の傷だった。
「痛い、痛い!」
彼女たちは叫んだ。
「なんで、さっちゃんだけ平気なんだ?」
そのうちの一人が尋ねた。
「それより、私たち……痛い……隠れる場所を探さないと……」
すべての馬車は閉じられていた。彼女たちは叫びながら、帆布を手のひらで叩いた。しかし、鳥のような生き物たちの群れが発する騒々しい轟音と、彼ら自身が馬車の覆いにぶつかる音にかき消され、馬車の中にいる人々には、女子たちの訴えが届かなかった。
やがて、彼女たちは舷側へよろめきながら移動した。小さな鳥のような生き物たちが一斉に羽ばたくことで水面が激しくかき乱され、その水しぶきが彼女たちの顔にかかった。
女子の一人が舷側の下段の横木に足をかけたが、王さんが止めた。
「さすがに水が冷たすぎる。自殺行為よ!」
彼女は言った。
しかし、群れの騒音にその声はかき消された。
彼女は女子の耳元に両手を当て、叫んだ。
「ここにいても死んじゃうよ!」
女子は王さんの耳元へ叫び返した。
すると彼女たちは、鳥のような生き物たちが比較的少ないように見える場所を見つけ、そちらへ向かった。
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封鎖されていない馬車へ飛び込むと、彼女たちはすぐに後部の帆布を閉じ、中へ入り込んできた鳥のような生き物たちを排除し始めた。
「おい、気をつけて!」
馬のような生き物たちの食料を壺に入れて水を注いでいた伊藤さんが叫んだ。
「あ、ごめん。物資用の馬車に誰かいるなんて思わなかった。数分前に私たちが出たときは、誰もいなかったから」
王さんも叫び返した。
「馬車を開けたままにしてたの? この鳥たちに襲われなかったの?」
王さんの友人の一人が尋ねた。
「ううん。飛び回って、ときどきぶつかってくるから鬱陶しいけど、襲ってはこない……って、うわ、血が出てる……」
田中さんが答えた。
「じゃあ、二人ともさっちゃんと同じで運がよかったんだ。あいつらに襲われなかったのは、私たちの中では彼女だけだから」
別の女子が言った。
「何してるの?」
王さんが尋ねた。
「ああ、あの鳥たちを追い払うために、煙幕を作ろうとしてるの……」
伊藤さんが答えた。
「ああ、なるほど……」
「ねえ、あなたたちって、体育館の倉庫にいた子たちじゃない? あの男の子を蘇生させようとしてた……あ痛っ!」
女子の一人がそう言いかけたところで、高橋さんに胸の脇を肘で小突かれた。
女子が彼女を見ると、高橋さんはただ首を横に振った。
「あ……ご、ごめん……」
女子はそう言った。
しばらく、彼女たちは黙っていた。
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中で聞こえるのは、鳥のような生き物たちが羽ばたいたり、帆布を突いたりする音だけだった。
「でも、今気づいたんだけど、ここには火を起こすためのものが何もない」
やがて伊藤さんが言った。
「その木の棒は?」
高橋さんが尋ねた。
「えっと……これでどうやって火を起こすのか分からない」
「片方をもう片方に擦りつけるだけじゃないの?」
「理論上は、そうかもしれない。でも、できる?」
「えっと……」
何人かが試してみたが、誰も木の棒に火をつけることはできなかった。
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「もしかしたら、佐藤先生がライターを持ってるかも……」
「先生って、タバコ吸うの?」
「分からない。でも、連絡……あ、先生がどの馬車にいるのか分からない……」
「連絡を取れるかもしれない……」
「どうやって?」
「スマートフォンで……」
「私、持ってない。教室のスクールバッグの中だから」
「私も……」
「甘いな……。私はここに持ってきてる……」
「でも、電波がないよ……」
「Bluetoothなら使える……」
「でも、電波が届く範囲に入るには、馬車の間を通って外へ出ないと……」
「先生からライターを借りるなら、どうせ外に出なきゃいけないよね……」
「先生がライターを持ってれば、だけど……」
「スマートフォン……スマートフォン……」
伊藤さんが呟いた。
そして、スカートのポケットからスマートフォンを取り出した。
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「えっ? 佐藤先生に連絡してみるの?」
高橋さんが尋ねた。
「違う。でも、後ろの帆布を開けられるように準備しておいて」
伊藤さんはそう言いながら、機器の背面パネルを外し、内部の構造を露出させた。
「なるほど」
王さんが言った。
「何をするつもりなのか分かったの?」
田中さんが尋ねた。
「それなら、あそこのハンマーと、その鍋を持ってきたほうがいい」
王さんは高橋さんに言った。
「あ、ありがとう。それがあると本当に助かる」
伊藤さんが言った。




