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第五十四話:何があっても諦めない (その三)

1

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「32℃!」


高橋(たかはし)さんが、赤外線体温計の表示を二度目に確認して言った。


「でも、震えは弱くなってる……」


(ワン)さんが言い返した。


「青くなってきてない?」


別の女子が気づいた。


「まずい。すごくまずい……誰か、懐炉持ってない?」


高橋(たかはし)さんが言った。


「懐炉? 誰が持ってるっていうの? ほんの数分前まで、うだるような真夏の日だったのよ!」


四人目の女子が叫んだ。


「ねえ!」


(ワン)さんが、その女子を厳しい目で見ながら言った。


「あ……ご、ごめん……」


高橋(たかはし)さんは、棚から持ってきたバッグをいくつか漁った。


2

---------

「見つけた!」


彼女はそう叫び、懐炉のパッドをいくつか取り出した。


包装を破り、パッドを取り出す。それから鈴木(すずき)くんに掛けていたスペースブランケットを外し、シャツのボタンを外して、しばらく裸の胸をさらした。


そして、パッドの裏紙を剥がし、彼の身体のあちこちに貼り付けていった。


終えると服を戻し、ブランケットを再び掛けた。


「心電図を解析しています……」


装置が言った。


「え? あそこで女子たちが何してるの? AED?」


「そこから離れて、こっちに来て」


(ワン)さんが仲間たちに言った。


「ねえ、見て。効いてるみたい。唇の色が普通に戻ってきてる」


女子の一人が言った。


高橋(たかはし)さんは体温計を手に取り、鈴木(すずき)くんへ向けた。


3

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「35℃……」


そう言って、彼女は安堵のため息を漏らした。


「ふーん……」


(ワン)さんは、目を細め、右口角をニヤリと上げながら高橋(たかはし)さんを見た。


「な……何よ、その顔、ジン?」


「おや、さっちゃん。本当に私に言わせるつもり?」


「何を?」


「分かった。そこまで言うなら、言ってあげる。自分の気持ちに正直にならないでいると、誰かに彼を取られちゃうよ」


「と……取られる? 何言ってるの? 頭おかしくなった? いつもそんなくだらないことばっかり言って」


「まあ、ほら……学校の女子の間では特別人気があるわけじゃないけど、彼に目をつけてる女子生徒が二人くらいいるし、それに男子生徒にも一人いるんだよ……」


「えっ、そうなの? 例えば誰?」


4

---------

(ワン)さんは数秒間、黙っていた。


そして、言った。


「例えば……私」


「あなた?」


高橋(たかはし)さんはむせた。


だが、すぐに他の二人の女子と一緒になって笑い始めた。


「そんなにおかしい?」


「もちろん! 学校で一番人気の女子が、こんなクズみたいな奴に目をつけるなんて?」


「クズ、ねえ? じゃあ、私が彼にアプローチしても、本当に気にしない?」


「え? ……う……うん、もちろん!」


「本当に、彼に何も言いたいことはないの?」


「ああ、もちろんあるよ。『こんなに馬鹿で、私を……っていうか、私たちを心配させたんだから、ぶん殴ってやる』って」


「へえ、じゃあ、やっぱり彼のこと心配してるんだ」


「もちろん。このドジな生き物のことは心配するよ」


「へ〜」


高橋(たかはし)さんは目を見開き、顔を赤らめながら言った。


「そ、そういう意味じゃないからね、もちろん」


「もちろん」


5

---------

「36.5℃!」


「これで、また彼を殴れるようになりそうね……」


「うん……」


「それから、キスも……」


「うん……」


「へ〜」


高橋(たかはし)さんは目を見開き、顔を赤らめながら言った。


「もちろん、ほっぺに、だけどね!」


「もちろん」

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