第四十七話:腹が立つほどはしたない
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「だから言ってるでしょ、王……ジン。危ないって。あいつが何をしたか見ただろ……」
立ち上がりながら、鈴木くんが言った。
「大きいほうでしょ。こんなに小さなポンちゃんが何かするわけないじゃない。ほら、こんなに可愛い。あっ、くすぐったい……」
彼女は、子イノシシのような生き物が鼻先をすりつけてくるのを笑いながら答えた。
ンラティサさんは槍を床に押しつけ、身体を起こした。
槍先が体育館の床に一部食い込み、ビニールの床材を突き破ってコンクリートの基礎まで達した。
まだ少し震えながら、彼女は完全に立ち上がった。
ゆっくりと、足を引きずりながら王さんのところへ向かい、小さなポンシュルをじっと見つめた。
「ほら、撫でてあげて」
少女はそう言って、その子をンラティサさんに差し出した。
彼女は動かなかった。
だが、王さんは諦めず、小さなイノシシのような獣を抱えた両手をンラティサさんへ突き出した。
おそらく二人とも、ペルシャの礼儀作法である「タアロフ」がどんなものなのか、それどころか、その名前すら知らなかっただろう。
それでも、二人はまさにそれを演じていた。
やがて、ンラティサさんは左手をその子の上へ伸ばした。
だが、彼女が手を下ろすより先に、ポンシュルが頭を持ち上げ、その手のひらに頭をすりつけた。
2
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「はい、渡辺……いや、ケンちゃん」
王さんは「ポンちゃん」を彼にも差し出した。
同じ「タアロフ」のやり取りの末、渡辺くんも結局、その子を撫でることになった。
「うわ〜、意外にふわふわ」
彼は声を上げた。
「でしょ?」
彼女が言った。
ンラティサさんと鈴木くんは、黙ったままだった。
目が合うたび、二人ともすぐに視線をそらし、顔を赤らめた。
「陽翔も」
王さんは鈴木くんにも差し出した。
「え……遠慮しとく」
彼は答えた。
「だめだめ」
彼女はそう言って譲らなかった。
「はいはい」
彼はそう言い、左手をその子へ伸ばした。
そして――
「痛っ!」
子イノシシのような生き物が鈴木くんに噛みついた。
小さな歯だったが、包帯も皮膚も貫いた。
「陽翔、暴れないで。怖がってるでしょ!」
彼女はそう言って「ポンちゃん」を取り戻し、抱きかかえた。
「何? 俺があの怪物を怖がらせてるって?」
「怪物じゃない! こんな大きな生き物たちに囲まれて怯えてる、ただの小さな生き物よ」
彼女は言い返しながら、手のひらに鼻先をすりつけるその子をあやしていた。
3
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「なんだか、鈴木先輩に恨みでもあるみたいですね」
渡辺くんは何気なくそう言いながら、体育館に転がる死骸を一通り見渡し、それから小さなポンシュルへ目を向けた。
「どういうこと?」
王さんが尋ねた。
「いや、別に。ただ、あの大きい二体と最後の小さいやつは、ほとんど鈴木先輩だけを狙って突っ込んでいったみたいだなって。他のやつについては、よく分からないけど」
彼は答えた。
「うーん……」
王さんとンラティサさんが同時に唸った。
「他のやつもよ。森にいたときもそう。どの姿のポンシュルも、私が攻撃したときを除けば、みんな陽翔に向かっていった」
ンラティサさんが言った。
「どうして、陽翔だけを狙うのかしら?」
王さんは考え込んだ。
4
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「ランギヤオ、かなり消耗してるみたいだけど……本当に大丈夫なの、ンラティサさん?」
鈴木くんはタイユアンのそばにしゃがみ込みながら尋ねた。タイユアンは彼の手を舐め始めていた。
「ポンシュルたちを相手に、あれだけ激しく動いたもの。回復するには時間がかかる……」
「どれくらい?」
「少なくとも、数日は」
「そんなにここで待ってるわけにはいかないよ。運ぶことはできないの?」
渡辺くんが尋ねた。
「まあ、一体につき少なくとも八十キロはあるから……」
鈴木くんが見積もった。
「じゃあ、チィは?」
渡辺くんが食い下がった。
「誰も乗らないなら、チィ一体で運べるランギヤオは、せいぜい二体。私一人だけが乗るなら、チィ三体で五体は運べると思う……」
王さんが口を挟んだ。
「でも、どこへ? 前哨所へ? 今ごろには、拘束されていた兵士たちももう解放されてるだろう。向こうの人たちはランギヤオを殺そうとするだろうし……俺たちも……」
鈴木くんが考えを述べた。
「そうね。きっとその通り。駐屯地のほうでも、もう何が起きたかは全部知れ渡ってるはず。事情を全部説明するだけでも時間がかかるし、そもそも、説明したところで喜ばれるとは思えないわね」
王さんは右手で顎を支えながら答えた。
「ンラティサさんの村はどう?」
鈴木くんが尋ねた。
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すると突然、タイユアンが立ち上がった。
ンラティサさんそっくりの姿に変身し、鈴木くんの膝へ飛び乗ると、そのまま彼にキスを始めた。
王さんは唖然として立ち尽くし、口をぽかんと開けた。
渡辺くんは両手で目を覆った。
ンラティサさんは眉をひそめ、口元をへの字に曲げ、槍をきつく握りしめた。
左のこめかみには、血管が脈打っていた。
体育館の天井にとまっていたチィたちが、低く鳴いた。




