第四十話:何も考えられないほど痛い
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「おはん、まこておいの堪忍ば試しちょっとか? もう一遍だけ聞くど。こいらはいったい何者じゃ? なんで前哨所ん兵士らになりすましちょっとか?」
隊長が繰り返し尋ねた。
しばらくして、クァリタヲポノに化けたダディシィミィルギが口を開いた。
「隊長、もちろん、おいどんらはこの駐屯地ん兵士じゃっど! たった今、前哨所から戻ってきたとじゃ。高原ん森ん開けた場所で見つけたこいつらば、護送してきたとで!」
「黙っちょれ。おはんには聞いちょらん。おいが聞いちょっとは、そん女じゃ」
隊長はそう言い、ンラティサさんを指差して続けた。
「答えっ! おいば馬鹿にしようちすんな。こいらがおはんに従っちょるこたぁ、分かっちょっど。いや、従うちゅうより、おはんに服従しちょる。たぶん、おはんが兵士ん心ば操っちょるだけんこっじゃなか。ここん駐屯地ん名簿に載っちょらん者が、ほかにも三人おっど」
ンラティサさんが唇をすぼめて口笛を吹こうとした。
だが、それを鈴木くんが遮った。
「ねぇ、僕……僕が説明できる……たぶん……そうだと思う」
彼は呟いた。
王さんは彼を見つめた。
その険しい表情が和らいだ。
眉間の皺が消え、唇には笑みさえ浮かんでいた。
かすかな笑みだったが、確かにそこにあった。
2
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「なるほど。じゃあ、彼女も基本的にはおはんを捕まえたというか……助けてくれたわけじゃな」
鈴木くんが、体育館で積み重なったEVAマットの下で目を覚ましてから何があったのかを話し終えると、王さんが言った。
それから、渡辺くんへ向き直った。
「それで、おはんは? 中二階から落ちてから、陽翔に出会うまで、何があった?」
山の村で話したときと同じように、彼は話し始めると止まらなかった。
目を覚まして、誰もいない、廃墟と化した体育館に一人でいることに気づいたときの恐怖。雪の上にみんなの足跡を見つけたときの嬉しさ。坂を下ろうとして、足を滑らせ、そのまま転がり落ちてしまったときの恐怖。あの怪物たちの群れに追い詰められ、折り畳みナイフから放たれた赤い光で吹き飛ばしたこと――。
「待って、待って……。おはん、あの力を発動させたのか?」
王さんが話を遮り、詳しく尋ねた。
「うん。でも、それからはもう一度使うことができなかった。鈴木先輩が、あの巨大な怪物から逃げてたときに何があったか、あなたに話したでしょう?」
「ああ、そうだったわね。何も……」
王さんはしばらく黙り、何もないところを見つめていた。
「王さん? えっと……静さん?」
鈴木くんが彼女に声をかけた。
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「ああ、ごめん。ちょっと考えてたの……。もし本当に渡辺くんがあの赤い光を放ったんだとしたら、兵士たちが見た光は、外から体育館に当たったんじゃなくて、実際には体育館の中から出ていた可能性が高い。でも、そのとき彼は意識を失っていた。いや、もしかしたら死んでいたかもしれない。そんな状態で光を放つことなんてできるのかしら?
それに、一昨日の夕方近くにも、別の赤い光が放たれたのを見たって話がある。あなたの話だと、それも渡辺くんじゃない。つまり、光の発生源は一つじゃないってことね。おそらく、私たちの仲間の中にも、同じような力を持っている人がもっといる。自分自身から放つか、あの折り畳みナイフみたいな道具を使って放つか、でしょうね。
そのナイフ、今も持ってる?」
「いや、持ってない。村のどこかにある。でも、王……静さん、どうしてこの駐屯地の隊長になったの? それに、どうしてこいつらの言葉を話せるの? あなたにも、何か言語理解の魔法みたいなものがかけられたの?」
鈴木くんが尋ねた。
「言語理解の魔法?実は私自身も、何が起きたのか、はっきりとは分からないの。ニスィノアタラミヤの街で、尋問を受けていた……少なくとも、尋問みたいなことをされていたのは確かよ。そこへ一人の男が入ってきて、部屋が青く光った。そして、私たちは相手が何を話しているのか理解できるようになった。向こうも、私たちが話していることを理解できるようになったの。
なぜか、私がリーダーだと勘違いされて、そのまま戦士の一人と戦うことになった。どうしてかは分からないけど、私が勝った。
それからもいろいろあって、あなたたち二人の捜索・救助任務のため、この駐屯地の指揮を任されることになった」
王さんが答えた。
「待って、待ってよ、静さん。何も説明してないじゃないか」
「さっきも言ったでしょう。何が起きたのか、私自身もよく分かってないの」
「僕と渡辺くんの二人だって言ったよね? 彼が死んでたって、あの人たちには伝えなかったの?」
「うん」
「じゃあ、なんで彼の遺体まで運ぼうとしたの? 葬儀のためってわけでもないよね……。それとも、あなたが頼んだの?」
「実は、私たちからお願いしたの。特に田中先輩が……」
「ほぉ……じゃあ、もしかして彼女……」
鈴木くんは渡辺くんを見ながら呟いた。
「何?」
「あ、いや……何でもない……えぇっと、青く光ったって言ったよね……」
「ええ。尋問室が青く光ったの」
「それだけ?」
「ええ」
「青い水晶が割れるところは見なかった?」
「うーん……」
王さんは首を傾げ、斜め上に目を向けた。まるで自分の記憶を探るように。
4
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「そうだったような、なかったような……」
彼女は答えた。
「あなた、普段はもっと注意深くて、観察力も鋭いじゃないか……」
「私だって言い訳くらいさせてよ。私たちは飢えてたし、怖かったし、凍えてた。心も体もボロボロだった……。それに、今もこの未知の世界で起きていることを整理しようとしている人もいる。正直、私自身もまだ全部を把握できてないの。
私たちは家に帰れるの? いつ? 私たちの家はまだ残ってる? 家族は?」
鈴木くんはしばらく黙っていた。
そして言った。
「その通りだよ。ごめん。もちろん、あなたも……俺たちも、混乱して、何が起きたのか理解しようとしてるんだ。ただ……ただ俺は、生き延びることに必死で……」
「さっちゃんと再会すること、でしょ。分かってる……」
「うん……」
「そんなに彼女のことをあけっぴろげに話して……ほかの人の気持ちにも、もう少し気をつけたほうがいいんじゃない?」
「誰の?あなた?」
「うん。私の気持ちも。でも、それより……彼女の気持ち」
そう言って、彼女は顎でンラティサさんのほうを指した。
「まあ、そんな心配しなくていいよ。さっきも言ったけど、僕たちの関係はそういうんじゃないから……」
そして――
5
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鈴木くんは股間を両手で押さえながら、六分十二秒にわたって床を転げ回った。
まったく同じ六分十二秒の間、王さんは涙を流しながら笑い続け、ンラティサさんは腕を組み、無表情で彼を眺め、渡辺くんは三人の間で視線を行ったり来たりさせていた。
兵士に化けたランギヤオたちは黙ったままだった。鼻をほじっている者もいれば、耳を掻いている者もいる。剣の刃を鏡代わりにして、自分の歯を眺めている者もいた……。




