第三十八話:話もできないほど騒がしい
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隊長の執務室は、村のテントや詰め所の宿舎の小屋の、五倍ほどの広さがあった。
ンラティサさんは周囲を見回したが、実際には、目を引くものはあまりなかった。装飾も家具も、かなり質素というか、禁欲的な雰囲気だった。
広くて背の高い二つの窓には、それぞれ薄手で透ける麻布のカーテンと、継ぎはぎされた厚手の獣皮で作られた遮光カーテンが一組ずつ掛けられていた。
右の壁には石造りの暖炉。
二つの窓の間には、重厚な木製の机が置かれていた。
机の上には、書類の束、インク壺とペン、赤い封蝋の塊、印章、それに燭台。
隊長用と来客用の椅子、そして王家の旗。
そこにあるのは、それだけだった。
鈴木くんたちが執務室へ通されると、隊長は衛兵たちに手を振った。
衛兵たちは眉を上げ、口を少し開けた。
「まだそげなとこで何しちょっとか? さっさと出て行け。ここん紳士方と、ゆっくり話ばせにゃならん」
隊長は声を荒らげることなく言った。
「へいっ!」
衛兵たちは敬礼すると、部屋を出ていった。
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衛兵たちが扉を閉めると、隊長は椅子から立ち上がり、三人の客のところへ歩いてきた。
「三人とも、温かい風呂は楽しんでもらえたかしら?」
ンラティサさんは黙ったままだった。
「ああ、もちろん。すごく生き返りました」
鈴木くんが答えた。
渡辺くんも頷いた。
「よかった……それじゃあ……」
隊長が続けた。
そして――
ドゴッ!
隊長の拳が鈴木くんの顔面に叩き込まれ、彼は床に倒れた。
「な……なんで殴ったんですか、グァングィ隊長?」
「私のことは王と呼んでいい……いや、静と呼んで」
そう言って、彼女は左手を差し出した。
「な……なんで殴ったんですか、王……えっと、静さん?」
「静でいい」
「じゃあ……?」
「まだ質問する側は、あなたのほうなの?」
「そんなに難しく考えないで、鈴木くん」
そう言いながら、彼女は鈴木くんの肩についた埃を払った。
「それで……?」
「ああ、それはね、さっちゃんからの伝言」
「じゃあ、高橋さんと一緒だったんですか? 彼女は元気ですか? ここにいるんですか?」
鈴木くんは王さんの肩をつかんだ。
「ちょ、ちょっと……。ええ……ええ……それと、いいえ」
彼女は鈴木くんの両手をつかみ、下ろした。
「まず、もう一つ彼女から伝言があるの」
そう言いながら、唇をすぼめ、鈴木くんへ近づいていく。
ンラティサさんは目を大きく見開いた。
そして眉をひそめると、二人のところへ駆け寄り、その間に割って入った。
王さんも、目を大きく見開いて一歩後ずさった。
「あらまあ、鈴木くん。まさか、たった数日でもう……」
右手で口元を隠し、目を軽く細め、目尻を上げながら、彼女はからかうように言った。
「ち、違います! もちろんそんなわけないでしょう! そういう意味じゃありません!」
鈴木くんが少し声を張った。
「しーっ……騒がないで。衛兵たちに私たちの話を聞かれちゃうわ」王さんが言った。
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「まあ、それはともかく、高橋さんの伝言って、どういう意味ですか?」
「ああ、体育館の捜索隊があなたを見つけられなかったとき、彼女、すごく心配してたのよ……」
そこで彼女は、もう一人の生徒に気づいた。
「ねえ……あなた……いや、まさか……渡辺……くん?」
彼は首を傾げるだけで、黙っていた。
「あなた、死んだのよ! というか、死んでるはずなの!」
彼は眉を寄せながら、黙ったままだった。
「体育館の中二階から、頭から落ちたのよ。みんな、あなたを蘇生しようとした。最初は手動の心肺蘇生。それから、あなたの体を体育館の倉庫へ運んだときに、AEDがあるのを見つけてね。それも試した。でも、ダメだった……」
「僕……落ちたところまでは覚えてる。でも、そのあとのことは……」
ようやく渡辺くんが口を開いた。
「まあ、そうでしょうね。だって、あなたは死んでたんだから……」
鈴木くんは右手で顎を支えながら、その一部始終を聞いていた。
ンラティサさんは、二人の間に立ったまま、王さんをじっと見ていた。
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「まあ、それはまた別の機会にしましょう……さっちゃんのこと……高橋さんのこと……」
鈴木くんが声を張った。
「しーっ……」
王さんが制した。
「それと、田中先輩のこと……」
渡辺くんが小声で言った。
「私たちの仲間は、ここから二日ほどのところにあるニスィノアタラミヤの街にいるわ。みんな無事で元気よ。あなたたち二人があの怪物に襲われて動けなくなった直後、この詰め所の兵士たちが私たちを助けてくれたの……まあ、捕まえたと言ったほうがいいかもしれないわね……いや、やっぱり助けてもらった、でいいでしょう。
最初はもちろん、みんな怯えてたし、混乱してたし、ストレスも溜まってた。疲れてもいた。何が起きてるのか、まったく分からなかったから。
兵士たちは、破壊された体育館で私たちを見つけたの。赤い光線が出ている、あるいは収束しているのを見た場所へ向かったみたい。そこで、私たちを襲った怪物の残骸を見つけたの。
どうやら、体育館が戦場の近くに現れたというか、実体化したとき、兵士たちはその怪物と戦っていたらしいの。あいつらを倒すのがどれだけ大変なのか、兵士たちも知ってる。だから、あの怪物がバラバラの挽肉みたいになってるのを見たときは、大した見ものだったみたいよ。
まあ、私たちにとっても、あれは相当なショックだったけどね。
兵士たちが体育館にいる私たちの仲間を集め始めたとき、さっちゃんが、あなたたちを倉庫にあったEVAマットの下に隠そうって思いついたの。そこにあった救急キットから非常用ブランケットも集めて、あなたたちをそれで包んで……」
「ねえ、僕が起きたとき、ブランケットなんて包まれてなかったけど……」
渡辺くんが不満そうに言った。
「あなたは死んでたのよ!」
王さんが叫び、すぐに右手で口を覆った。
しばらく沈黙が続いた。
それから隊長は、低い声で、ほとんど囁くように話を再開した。
「まあ、兵士たちが倉庫に来たときに、私たちも非常用ブランケットをたくさん持ってきて、それをほかの仲間たちや佐藤先生にも配ったわ。
いやあ、あの移動は本当に寒かった。ブランケットがあってもね。山の麓まで、坂を歩いて下りなきゃならなかったの。柔らかい新雪の上を歩くのは、全然楽じゃなかった。
そこからは、荷車に乗せてもらった。狭かったけど、少なくともみんなでぎゅうぎゅうにくっついていれば、凍え死なずには済んだわ……」」
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そして――
中庭から、金属がぶつかり合う音と、「黙れ!」「殺すぞ!」という怒鳴り声が聞こえてきた。
部屋にいた全員が窓へ向かった。
兵士に化けたランギヤオたちが、ほかの衛兵たちと戦っていた。
「あのバカども!」
ンラティサさんが叫んだ。左のこめかみでは、血管が脈打っていた。




