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第三十七話:殺したいほど冷たい

1

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(ワン)さん……(ワン)さんでしょうね?」


鈴木(すずき)くんは、もう一度尋ねた。


「何ば言うちょっとか、さっぱり分からん。おいはグァングィ、ズィン家ん三番手じゃ。ここん基地ん隊長も、おいじゃ。そいより、ここん質問ばすっとは、おいじゃっど。分かったか?」


彼女は鈴木(すずき)くんを見つめ、それから渡辺(わたなべ)くんの外套の下に見える制服、そして最後にンラティサさんへと視線を移した。


「そん方は、おはんらん連中なとか?」


鈴木(すずき)くんは頷いた。


「そいなら……みんなおいん執務室へ連れて来い。じゃっどん、まずはこっちんもてなしば受けさせっど」


隊長は兵士たちにそう言うと、管理棟へ向かって歩いていった。


2

---------

衛兵たちは囚人たちを衛生室へ連れていった。


ンラティサさんと一緒に中へ入ろうとしたところ、彼女の左のこめかみに血管が浮き上がっていた。


「ま……まずい」


兵士の一人に化けたタイユアンが呟いた。


「あん? なんか言うたか?」


ンラティサさんを部屋の中へ押し入れながら、衛兵が言った。


隣の区画では、少年たちも中へ押し込まれた。そこへ衛兵が水の入った桶を二つ持ってきた。


「風呂ん時間じゃ。服ば脱げ」


衛兵が言った。


「えぇ……おいに任せっくれ」


兵士の一人に化けたタイユアンが、ンラティサさんと一緒にいる衛兵に言った。


「なんでじゃ?」


「そ……その娘は怪我しちょる。ほら、あん包帯が見えっじゃろ? おいが手当てしたでな……その、おいがやったほうが安全じゃっど……」


「おはん、おいを誰じゃと思っちょっと? 血ぐらいで怖じ気づくおいじゃなかど。それに……」


衛兵は胸の高さで両手を鉤爪のように構え、手のひらを上に向け、指先をぴくぴくと動かしながら答えた。


「この娘はおいんもんじゃ」


眉をひそめ、ほとんど怒鳴るように言った。


「ああ、すまん。おはんの客を横取りする気は、さらさらなかったど。まぁ、そこん水桶ば持って来りゃよかど」


衛兵はそう言って、兵士の一人に化けたタイユアンへ洗いブラシを渡し、管理棟の右側を指差した。


3

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衛生室の個室の中は、ひどい悪臭に満ちていた。


中央に掘られた穴の底では、排泄物や食べ残し、その他あらゆる腐敗した有機物が混ざり合い、悪臭を放つ汚物の釜と化している。


硫化水素、アンモニア、チオール類、スカトール、インドール、プトレシン、カダベリン……。


微生物が有機物を分解することで生じる、最も吐き気を催すようなガスの数々が混ざり合った、嗅覚の悪夢そのものだった。


こうした悪臭成分の多くには、硫黄原子が一つ以上含まれていた。


動物にとって危険となり得る状況――腐敗した食べ物、酸素の少ない環境、そして排泄物や分泌物によって存在を察知できる捕食者――では、小さな揮発性硫黄分子が生じる。


そのため、ほとんどの系統では、こうした危険の目印となる化合物を嗅ぎ分ける非常に鋭敏な嗅覚が生存に役立ってきた。


中には、それ自体が有毒な硫化水素のようなものもある。


そして、その特性は子孫へと受け継がれていった。


少なくとも、それは自然界の獣に対してなら成り立つ理屈だ。では、超自然的な存在に対しても、同じ理屈が通用するのだろうか?いずれにせよ……


ランギヤオたちは全員、その生物学的な危険物から安全な距離を取っていた。


ただ一人、ンラティサさんの安全のため、自らを犠牲にしたタイユアンを除いて。


4

---------

兵士の一人に化けたタイユアンが扉を閉めると、個室の中はさらに暗くなった。屋根近くの開口部と、扉の下の隙間から差し込む陽光だけが中を照らしている。


「ンラティサ様、すまない」


そう謝りながら、彼女の縄を解いた。


隣の個室から、水が跳ねる音と呻き声が聞こえてきた。


兵士の一人に化けたタイユアンは、彼女の胸の包帯をそっと外した。


薄暗い中でも、ンラティサさんにはそれが見えた。確かめるように、チィの爪で貫かれたはずの場所を手でなぞってみる。


そこには、何もなかった。傷ひとつない、きれいな肌だけだった。


一昨日から痛みがなかったのも、これなら納得がいく。


「……あれ、軟膏だったの?」


彼女が呟いた。


「何です?」


兵士の一人に化けたタイユアンが尋ねた。


「ううん、何でもない」


「じゃあ、いくぞ」


兵士の一人に化けたタイユアンがそう言って、桶の水をンラティサさんの体にかけた。


川の水と同じくらい冷たい水だった。彼女は身を震わせ、悲鳴をこらえるように口をぎゅっと結んだ。


そして、兵士の一人に化けたタイユアンは彼女の肌をこすり始めた。


ブラシの毛は、乾燥させた松のような針葉でできていて、とても柔らかいとは言えなかった。爪で引っかくように、ンラティサさんの体を擦っていく。


あまり気持ちのいいものではなかったが、肌にこびりついた汚れを落とすには効果がありそうだった。


隣の個室からは、さらに水が跳ねる音と呻き声が聞こえてきた。


5

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兵士の一人に化けたタイユアンとンラティサさんが個室を出ると、別の個室から鈴木(すずき)くんと渡辺(わたなべ)くんが、別の衛兵と一緒に出てくるところだった。


「あぁ〜、スッキリする!」


鈴木(すずき)くんが腕を伸ばした。


その右腕の軌道上には、ンラティサさんの上半身があった。彼は視界の端でそれに気づき、「危険地帯」との接触を避けた。


ギリギリだったが、なんとか成功した。


ンラティサさんはその一部始終を見ていたが、何も言わず、微動だにしなかった。


「おや、あげん冷たか水で、そげん呻いちょったわりに、ずいぶんくつろいじょっどな」


兵士の一人に化けたタイユアンが言った。


「冷たか水?」


少年たちと一緒にいた衛兵が聞き返した。


兵士の一人に化けたタイユアンが、困惑したような顔で黙っていると、衛兵が続けた。


「冷たか水じゃなか。母屋ん台所で温めちょっど」


「そこん水桶ば持って来いっち言うたじゃろ」


もう一人の衛兵が言った。


「行ったど。水桶ば一杯くれっち頼んだ」


「おや、湯ぅ入れた水桶ば頼んだんじゃなかか」


衛兵が答えた。


兵士の一人に化けたタイユアンは、ゆっくりと、ためらうようにンラティサさんへ視線を向けた。


彼女のこめかみには、血管が脈打っているのが見えた。

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