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第三十五話:胃が背骨に張り付くほどひもじい

1

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一時間ほど進んだところで、荷車が停まった。板バネによる衝撃吸収があったとはいえ、決して楽な旅ではなかっただろう。


兵士に化けていたランギヤオたちは荷車から降りると、すぐに手足を伸ばし、握り拳で腰や尻を叩いた。


縛られた鈴木(すずき)くん、渡辺(わたなべ)くん、ンラティサさんには、それもできなかった。


御者は、御者台の下に置いてあった飼い葉袋を取り出し、干し草と穀物を混ぜた飼料を馬のような生き物たちに与えた。


それから一行に話しかけた。


「おい、今日はなんでそげん静かなんじゃ? いつもは、うるせぇぐらい大声でしゃべっちょるじゃなかか」


兵士に化けたランギヤオたちは、眉をひそめて御者を見た。


「おいおい、なんかまずかこつ言うたんなら、悪かったな」


「いや、そげなこっじゃなか。本気で疲れちょっとじゃ。あんビクば見たじゃろ? あいつらば捕まえっとは、えらい大変じゃったど。昨夜なんざ、寝る暇もほとんどなかったくらいじゃ」


クァリタヲポノに化けたダディシィミィルギが答えた。


「おお、そげなこつか」



2

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御者は馬のような生き物のハーネスを外し、水を飲ませるために川まで連れていった。


そこでは流れが強く、ほとんど急流のようだったが、岸近くには穏やかな渦がいくつかできていた。


川の近くまで森はあまり広がっていなかった。


そのむき出しの岸辺は、夏になると絶えず発生する鉄砲水によって保たれていた。激しい水流のため、小さく成長の早い雑草や草本類より大きな植物が根付くことができないのだ。


彼らが通ってきたこの道も、比較的安全なのは冬だけだった。


それでも、時折発生する吹雪は、決して侮れない脅威だった。


夏の間、詰め所と陸路で行き来するには、森の奥を通る別の道が使われていた。


予告なく襲ってくる鉄砲水からは安全だったが、こちらにはこちらで危険や面倒があった。


危険の中には、野獣や、旅人を襲う盗賊と遭遇する確率が高くなることなどがあった。


面倒なものとしては、道を塞ぐ倒木や虫などがある。


もっとも、巨大なスズメバチのような虫は、面倒というより危険の側に数えたほうがいいかもしれない。


旅の第二行程はさらに長く、約四時間にも及び、その分だけ不快さも増していた。道の凹凸による揺れや身体的な疲労だけではない。食べ物がまったくなかったのだ。


渡辺(わたなべ)くんの腹の音はますます激しくなり、やがて他の者たちの腹もそれに加わり始めた。


まさに、ハ短調の空腹の交響曲だった。


3

---------

「こいはあんましなかどん、よかなら……」


御者はそう言って、自分の弁当を一行に差し出した。


兵士に化けたランギヤオの何体かは、目を大きく見開き、よだれを垂らし始めた。


だが、ンラティサさんが眉をひそめているのを見ると、途端に取り澄ました態度になった。


「おお、そいはまこてありがたか心遣いじゃ。じゃっどん、おはんがちゃんと食うほうが大事じゃっど。そいに、旅ん食いもんば用意しちょらんかったとは、おいどんらん落ち度じゃ。そいに、おいどんらん仲間が森で何か探してくっで」


クァリタヲポノに化けたダディシィミィルギが答えた。


兵士に化けたランギヤオが二体、茂みから野ウサギのような生き物を何羽か抱えて出てきた。


「えっ? もう獲物ば捕まえたと? しかも五匹も? 罠ば仕掛ける時間さえ、まだ十分経っちょらんど……」


御者は驚いて声を上げた。


「おっ? まこてか? まぁ、運が良かったっちゅうこっじゃろ……たぶん」


兵士に化けたランギヤオの一体が、左手で後頭部を掻きながら答えた。


その狩りの成果なら、大人の大柄な男二十人にとっても、かなり立派な食事になるだろう。


だが、そのほとんどは人間ではなかった。


ランギヤオにとっては、一体分にしかならない。


おやつにも満たない量だった。


4

---------

グウウウウウゥ。


「お前の腹、自分自身を食ってるぞ」


鈴木(すずき)くんが言った。


「僕の腹じゃないよ」


渡辺(わたなべ)くんが答えた。


兵士に化けたランギヤオたちは全員立ち上がって、森の境目を見つめていた。


すると、茶色いクマのような生き物が現れた。


ウサギのような生き物の死骸の匂いに引き寄せられたのか、見えない子どもか何かを守ろうとしているのか、それは誰にも分からなかった。


だが、身長三・三メートルにもなる筋骨隆々のその獣は、一行に対して友好的ではなかった。


兵士に化けたランギヤオの一体が剣を振り下ろしたが、クマのような生き物は爪で弾き返した。


「チッ……この貧弱な姿じゃ、このドッグワムを殺すのは無理だ」


そう呟いた。


ほかの者たちも加勢したが、せいぜい獣の毛を少し切り落とすのが精一杯だった。


御者が戦いを見ている以上、ランギヤオたちは兵士の姿を保っていなければならなかった。


そこで鈴木(すずき)くんが叫んだ。


「そうだ、荷車の中に隠れたほうがいいんじゃないか!」


「うん、そうね!」


ンラティサさんも話を合わせた。


渡辺(わたなべ)くんは、ただ鈴木(すずき)くんとンラティサさんを交互に見ていた。


だが、何が起きているのか理解するより先に、御者が荷車の中へ飛び込んだ。


すると鈴木(すずき)くんとンラティサさんは荷車の後部に身をもたせかけ、御者の視界を塞いだ。


彼女が短く口笛を吹くと、ランギヤオたちは再び狼のような姿へと変わった。


そのうち一体が帯状に変化してクマのような生き物を拘束し、二体がその喉に噛みついた。


咆哮が止んだ。金属のぶつかり合う音も、もう聞こえない。


御者が何が起きたのか確かめようと頭を上げると、ランギヤオたちはすでに兵士の姿に戻り、クマのような生き物の死骸を川の近くまで引きずって、バーベキューの準備をしていた。


5

---------

「囚人どんにも、食わせんでよかと?」


兵士に化けたランギヤオたちが肉をすべて食べているのを見て、御者が尋ねた。


「おお、いや。そいは心配せんでよか。あいつらはドッグワムん肉ば好かんと思うど……」


クァリタヲポノに化けたダディシィミィルギが答えた。


だが、ンラティサさんが眉をひそめているのを見ると、考えを改めた。


「まぁ、おはんの言うとおりかもしれんな。長旅じゃっで、きっと腹も減っちょるじゃろ……」


二時間後、彼らはその夜の野営を始めていた。


短い冬の日は、すでに終わりを迎えようとしていた。


そして……。


グウウウウウゥ。


「僕の腹じゃないよ」


渡辺(わたなべ)くんが言った。


兵士に化けたランギヤオたちは全員、クァリタヲポノに化けたダディシィミィルギの腹を見た。


罰として、ンラティサさんはそれにドッグワムの肉をほんの少しも食べさせないことにしていた。

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