第二十話:眠れないほど怖い
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「もう一度だけ聞くわ。何してるの?」
ンラティサさんは、険しい表情でそう言った。
そう言うと、鈴木くんと一緒に湯に入っていたもう一人のンラティサさんが、淡い青光を放ち始めた。その体は細長い帯のように伸びながら湯船から這い上がり、やがてオオカミのような姿のランギヤオへと変化した。
「タイユアン、あなたって本当に悪い子ね!」
ンラティサさんが叫んだ。
その生き物は怯えたように耳を伏せて寝かせ、尻尾を後ろ足の間へ巻き込んだ。
「それから、そこのスケベ! うちのお風呂で破廉恥なことをするなんて! この恥知らずの汚らわしい生き物!」
彼女は鈴木くんに向かって怒鳴った。
「男湯に入ってきておいて、どっちがスケベなんだよ……」
鈴木くんはぼそりとつぶやいた。
「今、何か言った?」
ンラティサさんは左膝をわずかに曲げながら尋ねた。
「な……何でもない」
鈴木くんは股間を両手で押さえながら答えた。
「な……何が起きてるんだ?」
渡辺くんは両手で目を覆ったまま、かすれた声でつぶやいた。
「まあ……こっちの相手は、あなたたちには荷が重いと思うけど」
そう言ったところで、もう一体のランギヤオが姿を現した。
「とにかく……男の子だしね」
ンラティサさんはそう言い残し、耳を伏せ、うつむき、尻尾を後ろ足の間に巻き込んだままのタイユアンを連れて、その場を後にした。
2
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「おい、渡辺、あのおばさんに何を話したんだ?」
「ぼ、僕? 何のこと?」
「何もかもしゃべっちゃってたじゃないか……」
「ぼ、僕はただ仲良くなろうとしただけだよ。あの人たち、とても親切だったし」
「もう目を開けていいぞ。あの人はもう行った」
「ぼ……僕をだまして、見ちゃいけないものを見せようとしてるんだろう……」
「やれやれ……」
鈴木くんはため息をつくと、乱暴に渡辺くんの両手を叩き下ろした。
「まさか、折りたたみナイフの必殺技のことまで話してないよな?」
「い、いや……話してないよ……まあ、ちょっとだけなら……」
「勘弁してくれ! 俺ら、殺されるぞ!」
「ど、どうしてそんなことになるの?」
「あの力は危険すぎるんだ。あの人たちは俺らを脅威だと思ってるんだ」
「で、でも、僕はもうあの技は使えないよ……」
「あの人たちはそんなこと知らない。それに、お前だって本当に使えなくなったって言い切れないだろ」
「それに、僕たちは人なんて殺さないよ……」
「あの人たちは、それも知らない……」
そして鈴木くんは声を落として、つぶやくように続けた。
「……俺だって、それは断言できないけどな……」
「え? 何て言ったの?」
「ああ、何でもない。それより、仲間を探しに戻ろう」
「そうだね。ここの皆さんなら力になってくれるかもしれない」
「どうだろうな。あいつらは俺らを信用してない……」
「でも、すごく親切だったじゃないか……」
「俺に対してはそうでもなかった。……それに、親切っていうのは、宥和と見分けがつかないこともあるんだ……」
3
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「おや、お湯は気持ちよかったかい?」
クギクロ様が尋ねた。
「とてもさっぱりしました」
渡辺くんが答えた。
「ティシェンチュン、このお客様方を宿までご案内して差し上げなさい」
老婦人は小柄なオレンジ色の髪の女性にそう命じた。
「かしこまりました、クギクロ様」
ティシェンチュンはそう言って、控えめに一礼した。
女性は二人を村にある円錐形の天幕の一つまで案内した。実際、この村は仮設の野営地と定住集落が入り混じったような造りになっていた。天幕の多くは、簡単に組み立てや解体ができる素朴な伸縮式の木組みに、なめし革を張って作られていた。しかし、その下には地面を掘り下げた窪地があり、切り石で補強されている。また、陶製の汲み取り槽や生活排水の集水設備、固形ごみの処理設備などの衛生施設も整っていた。
「じゃあ、夏になると別の場所へ移動するんですか?」
鈴木くんが尋ねた。
「昔はそうしていました。でも、もう二年もここに留まっています」
ティシェンチュンさんは答えた。
「何があったんですか?」
「詮索しすぎるものではありませんよ、坊や。……まあ、ご覧のとおり、寝床や毛布代わりに使える毛皮はたくさんあります。寒くなったら暖炉を使ってください。火の起こし方は知っていますか?」
「知ってます!」
渡辺くんが答えた。
「マッチなしで?」
鈴木くんが聞く。
「う……ううん、無理……」
「火打ち石と火打ち金があります。この二つを打ち合わせて火花を飛ばしてください。火花が落ちる場所に火口を置いておけば、すぐに火がつきます。それを暖炉の中央へ移し、この小枝をかぶせて、それから薪を重ねてください。困ったことがあれば、大声で呼んでいただければ誰かが駆けつけます。それでは、私はこれで。おやすみなさい」
「さようなら……」
二人は女性が天幕を出ていくのを見送りながら答えた。
4
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「みんなを追いかけるには、どうしたらいいんだろう?」
毛皮にくるまりながら、渡辺くんが尋ねた。
「まずは、この場所から出ないと」
鈴木くんは火打ち石を火打ち金で打ちつけながら答えた。
「じゃあ、明日お礼を言って、お別れすればいいんだね」
「そんな簡単に済めばいいけどな……」
「まだあの女の人たちを疑ってるの?」
「疑ってるっていうより、証拠から結論を出してるだけだ」
鈴木くんは火口に移った弱々しい火へ息を吹きかけながら答えた。
「証拠って?」
「さっき……何て名前だったっけ。ティシェンチュンだ。あいつが何て言ってた?」
「大声で呼べば誰かが来るって……」
「そう。つまり、近くに誰かがいるってことだ。見張ってるんだよ。警戒して、俺たちを監視してる」
「でも、それは村全体の警備ってことかもしれないよ?」
「かもな。でも、たぶん違う」
鈴木くんは薪をさらにくべながら答えた。
「どうしてそう思うの?」
「その前に、焚き火の燃料をもう少し取ってきてくれないか。この薪だけじゃ、一晩もつかわからない」
「ええー、外は寒いよ!」
「すぐ近くに落ちてる枝を少し拾ってくるだけでいい。そんなに時間はかからない」
「わ、わかったよ……」
渡辺くんはそう言うと、這うようにして天幕の入口へ向かった。
そして天幕の外へ顔を出した、その瞬間――
カラン。
槍の穂先が、彼の顔のすぐ脇の地面へ突き刺さった。
渡辺くんがおそるおそる顔を上げると、そこにはンラティサさんが立っていた。
「何かご入り用ですか?」
彼女は険しい表情で尋ねた。
「い……いえ、何でもありません……外で何か音がした気がしただけです……」
渡辺くんは小さくつぶやいた。
「でしたら、どうぞごゆっくりお休みください。ご安心を。私たちが皆さんの安全をお守りします」
そう言うと、渡辺くんは慌てて天幕の中へ戻った。
5
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渡辺くんは目を見開いたまま眠れなかった。
一方、鈴木くんはぐっすりと眠っていた。




