第二話:死ぬほど寒い
1
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「な……何が起きてるの……?」
突如、後方へ引っ張られるような感覚に襲われ、伊藤さんをはじめ、多くの生徒が声を上げた。中には体勢を崩し、そのまま床へ倒れ込む者までいた。
窓の外では、無数の光の帯が体育館の床へ次々と差し込み、絶え間なく行き来している。
ガタン、ガタン――。
規則正しく繰り返されるその音は、建物を伝うかすかな振動と、天井から吊り下げられた照明器具の揺れと完全に同調していた。その律動は、どこか催眠めいた不気味さを帯びている。
鈴木くんは数人の仲間とともに入口の引き戸へ駆け寄り、その向こうで何が起きているのか確かめようとした。
「開かない!」
彼が叫ぶと、仲間たちも次々に力を込めて引き戸を動かそうとした。
しかし、びくともしない。
「塞がれてる!」
一方、高橋さんは中二階へ続く階段を駆け上がった。
「な……何も……」
彼女の口から漏れたのは、それだけだった。
窓の外に見えるのは、漆黒の闇を横切って流れ続ける無数の光だけだった。
そして、走査するように行き交う光だけが断続的に体育館の闇を照らす中――
「チュウゥ〜」
ガタン、ガタン――。
2
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「えぇ〜? な……何? 何が起きたんだ?」
渡辺くんは驚いたように目を見開き、右手の指先を唇へ当てた。
「ん? 今、何か言ったか?」
友人の一人が尋ねる。
「えっ……あ、いや……何でもない」
渡辺くんは、まだ動揺を隠せないまま答えた。その表情には、わずかな気恥ずかしさも混じっていた。
そこから少し離れた、およそ二メートル先では、田中さんがこっそりと友人たちのもとへ歩いて戻ってくる。
両手で口元を覆い、その指の隙間からは、かすかな吐息の白い霧が漏れ出していた。
「やっちゃった……」
彼女は小さくつぶやく。
「どこ行ってたの?」
友人の一人が尋ねた。
「えっ?……あ……ちょっと……」
田中さんは視線を泳がせながら答えた。
ドキドキ。
ガタン、ガタン――。
3
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佐藤先生は壇上から降り、体育館のフロアに足を踏み入れた。
身をすくめるように肩をすぼめ、両腕をさすりながら寒さに耐える。肌には鳥肌が立っている。
踊るように行き交う光は、ときおり、生徒たちの白い吐息を照らしていた。
「い……いったい、な……何が起きているの……?」
佐藤先生は震える声でつぶやいた。
彼女は携帯電話を取り出した。
しかし、圏外だった。
体育館のフロアに点々と浮かぶ淡い青白い光を見るかぎり、ほとんどすべての生徒が同じように外部へ連絡を取ろうとしているようだった。
――結果は、誰一人として変わらなかった。
ぶるぶる。
ガタン、ガタン――。
4
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高橋さんは中二階から下りてきた。
階段の手すりには、吐息に含まれた水分が凍りつき、薄い氷の膜となっていた。彼女の手はその氷に張りつき、皮膚を傷つけないよう細心の注意を払いながら、どうにか引き剥がした。
だが、その直後だった。
足を滑らせ、彼女は体勢を崩して階段から転落する。
幸い、身体が叩きつけられた先は、床よりも柔らかかった。
鈴木くんだった。
正面入口から戻ってきた彼は、階段を転げ落ちてくる黒い人影を目にした瞬間、とっさにその落下を受け止めようと身を投げ出していた。
そして、案の定――彼の両手は、柔らかな二つの膨らみを掴んでしまっていた。いや、正確には、決して触れてはならない場所に入り込んでしまっていた。
揺れる光の筋が、一瞬だけ二人の姿を照らし出す。
その刹那、お互いの姿を認識するには十分だった。
鈴木くんの目には、高橋さんが右腕を振り上げ、拳を固く握り締める姿が映る。
そして、その拳は真っすぐ彼の顔面へと振り下ろされた。
――だが、その瞬間。
全員の身体が、不意に前方へと引っ張られたかのように傾く。
何人かはバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
高橋さんも、再び鈴木くんの上へと倒れ込む。
彼女の顔が、みるみる彼の顔へと近づいていく。
その唇が、彼の唇へと、一直線に迫っていく。
プシュー
ガタン、ガタンという揺れは、止んだ。
5
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そして、その瞬間――窓の外から赤い光が差し込み、人々の悲鳴、獣じみた唸り声や咆哮、金属がぶつかり合う音――そしてまた、人々の悲鳴が響いてきた……




