第一話:考えられないほど暑い
もし、自分が神にも等しい力を手にしていると知ったなら、あなたは何をするだろうか。
そして、その力には厄介な制約があり、実質的に一度しか使えないのだと――少し遅すぎるタイミングで知ったなら、あなたは何を選ぶだろうか。
しかも、そのすべてが、理由も分からぬまま放り込まれた見知らぬ異世界で起きた出来事だったとしたら。
鈴木陽翔くんと埼玉県立熊山国際工業高等学校の仲間たちは、まさに今、その答えを思い知らされようとしていた。
しかも、決して愉快とは言えない形で。
1
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「まだかかるんですか?」
この10分で五度目となる問いを、佐藤先生は用務員に投げかけた。
「どうかな?」
脚立の上から返ってきたのは、それだけだった。
生徒たちの大半は机に突っ伏し、力なく肩から腕を垂らしていた。ノートを破って即席のうちわを作り、汗に濡れた顔や首をあおいでいる者もいる。教室の外では、蝉の鳴き声だけが絶え間なく響き続けていた。
突如、エアコンの作動音が響き、教室中の誰もが一斉に身を起こして、その機械へと視線を向けた。
しかし、笑みが顔に広がるより早く、ガコンという鈍い音を立てて、再び沈黙した。
教室に残った音は、ため息だけだった。
2
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ホームルームは終わったものの、生徒たちは体育館での活動に向かわなければならなかった。
なぜか、校内の**すべて**の教室で同時にエアコンが停止したのだ。
当然のように、生徒の誰かが悪ふざけでもしているのではないかという噂が、瞬く間に広がり始めた。
幸いにも、体育館のミスト装置だけは稼働していた。
建物の入口へ近づくにつれ、中から流れ出してくる穏やかな涼風は、抜け落ちていた魂を少しずつ身体に戻していくかのようだった。
生徒たちは思わず目を閉じ、顔を天へ向けて首を反らし。そして、その束の間の涼しさを一滴たりとも逃すまいとするように、肌のすべてをその風へさらしていた。
「あぁ〜、スッキリする!」と、鈴木くんは体育館の中央でクラスメイトたちと整列しながら、大きく腕を伸ばした。
ちなみに、その左腕の軌道上には高橋さんがいた。
ちなみに、その左手が到達したのは、彼女の上半身のスイートスポット――いや、より正確には危険地帯だった。
そして案の定、彼女の拳の軌道上には鈴木くんの顔があった。
3
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「この埼玉県立熊山国際工業高等学校の生徒の皆さん。全員そろっていますでしょうか」
壇上に立った佐藤先生は、そう問いかけた。もっとも、それは答えを求める問いではなかった。
「ほかの先生方はどこにいるんですか?」
ほかのクラスの生徒たちが口々に尋ねた。
「ええ、今、空調の件で校長先生と会議をしていまして…………」
「悪ふざけだったんですか!? 犯人は捕まったんですか!?」
一人の生徒が声を張り上げる。
「それが、何が起きたのかは、まだ分かっていません。ただ……」
「今日はもう、このまま下校でよくないですか!?」
別の生徒が叫ぶ。
「うーん……エアコンがいつ復旧してもおかしくない状況ですので……」
「教室よりはマシですけど、ここも十分きついですよ……」
「ええ……」
「じゃあ、エアコンが直るまで、ずっとここで立ってるんですか?」
「それについては……」
その瞬間、生徒たちは一斉に話し始めた。佐藤先生は眉を八の字にして困ったように首を傾げ、左手を耳に添えた。
「せめて倉庫からパイプ椅子を持ってきてもいいですか?」
「お昼ご飯を食べてもいいですよね?」
「ネクタイくらい外してもいいですか?」
「田中先輩、すきだ……」
――そして、沈黙が訪れた。
体育館に残ったのは、外から絶え間なく響いてくる蝉の鳴き声だけだった。
4
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渡辺くんは九十度近くまで深々と頭を下げ、両腕をまっすぐ前へ伸ばし、両手で手紙を差し出していた。
一方、田中さんはやや身をのけ反らせ、身体をこわばらせていた。両手は軽く握られ、左手は胸元の近くへ、右手は下唇の近くへ添えられていた。眉頭は上がりながらも寄せられ、口はわずかに開き、上の歯がのぞく。唇はゆがんでいた。
言葉など必要なかった。その場にいた誰もが、それが断りの返事であることを悟っていた。
渡辺くんのもとには男子の友人たちが集まり、背中をたたきながら、その勇気を称えていた。
一方、田中さんのもとには女子の友人たちが集まり、肩をさすりながら、彼女を慰めていた。
どちらも相手を傷つけようとしたわけではなさそうであった。それでも、結局は二人とも傷ついてしまったようだった。
蝉たちは、今ここで何が起こったのかを知らなかった。知ることもできるはずながかった。
5
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そして、その瞬間――ミスト冷却装置が止まり、照明が消え、蝉の鳴き声も途絶えた。




