第十八話:吐き出したいほどキモい
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見物人のほとんどは、退屈そうにあくびをしていた。
ただ一人、老婆だけは渡辺くんの話に熱心に耳を傾け続けていた。
そのとき、近くから低いうなり声が聞こえた。
何人かの女が首を伸ばして見ると、茂みの向こうでンラティサさんが地面の何かを見下ろしていた。
「大丈夫かー!?」
一人の女が声を張り上げた。
「問題ない!」
ンラティサさんが答えた。
一方そのころ、渡辺くんは両腕をまっすぐ伸ばし、頭上で大きな半円を描いてみせた。
「ドカーン! 光線の進路にあったものは全部、粉々になったんだ!」
そう言った。
「なるほど、なるほど」
老婆はうなずきながらつぶやいた。
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そして――
グウウウゥ〜。
「はいはい、わかった、わかった。確かに夕飯の時間じゃのう」
老婆はそう言うと、渡辺くんの手を取った。
「えっ、クギクロ様。その薄汚い生き物を私たちと一緒に食事させるおつもりですか?」
少年の上にまたがっていた女が言った。
「この者たちは客人じゃ」
クギクロ様は答えた。
「薄汚いって、僕はそんな――」
渡辺くんは言い返しかけたが、不意に自分の匂いを嗅いだ。
そして顔をしかめ、鼻をつまんだ。
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「おーい、ンラティサ。クギクロ様がみんなを夕食に呼んでるよ。『客人』も連れて来いって」
村のほうからやって来た、小柄なオレンジ色の髪の女が声をかけた。
「何だと? あんな薄汚い連中と同じ食卓を囲めと言うのか?」
「うん」
伝言役の女と見物人たちは、そのまま村のほうへ戻っていった。
「いてて……」
鈴木くんはうめきながら立ち上がった。
「おい、俺は薄汚くなんか――」
そう言いかけて、自分の匂いを嗅いだ。
「うっ……」
顔をしかめ、えずいた。
ンラティサさんは口笛を吹いた。
すると、オオカミのような一頭の獣が拘束帯へと姿を変え、鈴木くんの体へ巻き付いた。
「ここまでする必要あるのか? こんなもので俺を拘束する必要が、本当にあるのか?」
鈴木くんが文句を言った。
「『こんなもの』じゃない。彼女はランギヤオ。名前はタイユアン。……歩け」
ンラティサさんは短く答え、彼の背中を押した。
それから彼女は、潰れた竹籠が横たわる場所へ目を向けた。
続いて、鈴木くんへ視線を移した。
そして、静かにうつむいた。
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「そうそう、どんどんお食べ」
クギクロ様は満面の笑みを浮かべながら、渡辺くんが遠慮なく皿の料理を頬張る様子を見つめていた。
「うまい、うまい! これ、何の料理なんですか?」
渡辺くんは口いっぱいに食べ物を頬張ったまま尋ねた。
「この地でも指折りの珍味じゃ。それに、この季節ではなかなか手に入らん。潰したトォリ・カスィ・ムシじゃよ」
「トォ……?」
「トォリ・カスィ・ムシ」
「へぇ。どんな植物なんだろう? ココヤシかな。ココナッツみたいな味がしますね」
「そのココヤシというものは知らんが、植物ではない。動物じゃ」
「へぇ〜? じゃあ、あの巨大トカゲみたいなやつですか?」
「いや、もっと小さい。あれよりはずっと小さいが、同類の中では大きいほうだな。ロンギとは比べものにならん。それに、お前はもう一度食べてるぞ」
いつの間にか鈴木くんを連れて食事の輪へ加わっていたンラティサさんがそう言った。
「えっ、本当ですか? すごくおいしいですね。こんなの食べた覚え、ないですけど……」
渡辺くんはそう言いながら、トォリ・カスィ・ムシをさらに口へ運んだ。
「一……二……」
鈴木くんがつぶやいた。
「何を数えてるんだ?」
渡辺くんが尋ねた。
「……三」
その瞬間、渡辺くんは目を大きく見開き、息をのんだ。
右手いっぱいに溢れそうなトォリ・カスィ・ムシを、震えながら見つめた。
何かを思い出したように――。
「ああ、あのぷりぷりしたおいしい幼虫だ」
ンラティサさんが言った。
「おい、渡辺、今思い出したんだけどさ。また別のアニメで、部族に食事へ招かれた主人公たちがいて、そのうち一人が食べるのを拒んで大変な無礼を働いたんだ。で、そいつは生け贄にされたんだよ」
鈴木くんが言った。
今にも吐きそうになっていた渡辺くんは、ごくりとつばを飲み込んだ。
そして震える手で料理を口へ運び、そのまま飲み込んだ。
一筋の涙が頬を伝った。
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鈴木くんは、渡辺くんの反応を見て笑った。
だが、その笑いはすぐにンラティサに遮られた。
「ねえ。その生け贄の話、すごく興味深いわね」
言いながら、彼女はトォリ・カスィ・ムシが山盛りになった皿を差し出した。
鈴木くんは顔をしかめながら、おそるおそるそれを受け取った。
「おーめーしーあーがーれ」
ンラティサは鈴木くんの左耳元でそう囁いた。
ごくり。




