第十七話:泣くほど痛い
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「はあっ!」
鈴木くんは折りたたみナイフを突き出しながら女に踏み込んだ。
女はリンボーダンスでもするかのように上体を大きく反らした。
ナイフは彼女の顔のはるか上を空しく通り過ぎた。
その直後、女はその場で側転し、左かかとで鈴木くんの顎を蹴り上げた。
鈴木くんは地面へ叩きつけられた。
だが、それ以上に彼の心を深くえぐったのは、女の言葉だった。
「刃を出してないじゃないか、このバカ。ちゃんと本物の刃に切り替えろ。どうせ当たらないんだから。それに、タマがあったら蹴り潰してやるところだった」
見物していた長い黒髪の少女が、すぐさまはやし立てた。
「タマなし! タマなし!」
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鈴木くんは奥歯を噛み締めると、前屈立ちと弓歩の中間のような構えを取った。
右手の周囲で揺らめいていた淡い赤い光は、折りたたみナイフを前へ突き出すにつれて、目に見えて強さを増していった。
女も、見物人たちも、大きく目を見開いた。
刃先に光の球が生じた。
それは高速で回転しながら、みるみる大きくなっていった。
その瞬間だった。
輝く一頭の獣が飛び込み、ナイフを蹴り飛ばした。
赤い光は一瞬でかき消えた。
折りたたみナイフは回転しながら宙を飛び、竹籠を吊っていた縄に突き刺さった。
縄は完全には切れなかったものの、多くの繊維が断ち切られた。
残った繊維だけでは竹籠の重さを支えきれず、次々と切れていった。
そして、その真下には、長い黒髪の女が立っていた。
3
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「キリン、何をしている!?」
長い黒髪の女が尋ねた。
トカゲのような怪物の姿から解放されて以来、眠り続けていたその生き物は、赤い光が発する超音波によって目を覚まし、今まさに放たれようとしていた強力な光線を阻止したのだった。
だが、そのことに気づいている者は誰もいないようだった。
「おい、キリン。悪いけど、少しだけ時間をくれないか? こっちは大事なところなんだ。ほら、レンティサと一緒に行ってろ」
長い黒髪の少女は、麒麟の長いひげの一本を手綱か犬のリードのようにして引っ張った。
「行こ、キリン! お腹すいたでしょ。村にはおいしいミリギカムがいっぱいあるよ。ンラティサお姉ちゃんは、あのタマなし坊やと遊ばせてあげよう」
レンティサちゃんが言った。
「それで、お前だ」
長い黒髪の女のンラティサさんは鈴木くんを見据えた。
「やっぱり、あの赤い光はお前の仕業だったな……」
鈴木くんは黙ったままだった。
「だが、そんな黒魔術など怖くはない。続きをやるぞ」
「その……あの生き物のせいで、武器を失ったんだけど」
「お前には、まだその力があるだろう」
「だから、何のことかわからないって。それ、俺じゃない」
「信じると思うか? まあいい。なら私の槍を使え……」
そう言って背中のホルスターへ手を伸ばした、その瞬間――
ピシッ――。
何かが弾ける音が響いた。
「危ない!」
鈴木くんは叫びながら、ンラティサさんへ飛びついた。
「何するつもりだ!? まだ勝負は再開してないだろ! 本当に汚いやつだな。やっぱりタマなしか!」
ンラティサさんが叫んだ。
その直後――
ドォン!
竹籠が地面に激突した。
それは、ほんの数瞬前までンラティサが立っていた場所へ、まっすぐ落ちてきた。
4
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彼女は肩で大きく息をしていた。
目を見開き、竹籠の残骸をじっと見つめた。
やがてその視線が動き、同じように竹籠の残骸を見ていた鈴木くんへ向けられた。
鈴木くんも顔を彼女のほうに向けた。
二人の視線はぶつかり、そのまま長い、長い沈黙が流れた。
そして彼女の視線は、自分の胸元へ落ちた。
鈴木くんもつられて目を向けた。
そのとき初めて、自分の右手がどこにあるのかに気づいた。
柔らかな感触。
危険地帯。
決して触れてはいけない場所。
鈴木くんは目を閉じた。
平手打ちが飛んでくるのを覚悟して。
だが、それは来なかった。
「このスケベ! やっぱりタマなしじゃないか!」
しかし、その次に起こったことは、その言葉よりもはるかに彼の心を深く傷つけた。
5
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鈴木くんは、激しい痛みに呻きながら寝返りを打った。両手は股間を押さえていた。
ンラティサさんは左膝を立てたまま、ぼそりと呟いた。
「……へえ。ちゃんとタマは付いてるんだ」




