表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/21

第十七話:泣くほど痛い

1

---------

「はあっ!」


鈴木(すずき)くんは折りたたみナイフを突き出しながら女に踏み込んだ。


女はリンボーダンスでもするかのように上体を大きく反らした。


ナイフは彼女の顔のはるか上を空しく通り過ぎた。


その直後、女はその場で側転し、左かかとで鈴木(すずき)くんの顎を蹴り上げた。


鈴木(すずき)くんは地面へ叩きつけられた。


だが、それ以上に彼の心を深くえぐったのは、女の言葉だった。


「刃を出してないじゃないか、このバカ。ちゃんと本物の刃に切り替えろ。どうせ当たらないんだから。それに、タマがあったら蹴り潰してやるところだった」


見物していた長い黒髪の少女が、すぐさまはやし立てた。


「タマなし! タマなし!」


2

---------

鈴木(すずき)くんは奥歯を噛み締めると、前屈立ちと弓歩の中間のような構えを取った。


右手の周囲で揺らめいていた淡い赤い光は、折りたたみナイフを前へ突き出すにつれて、目に見えて強さを増していった。


女も、見物人たちも、大きく目を見開いた。


刃先に光の球が生じた。


それは高速で回転しながら、みるみる大きくなっていった。


その瞬間だった。


輝く一頭の獣が飛び込み、ナイフを蹴り飛ばした。


赤い光は一瞬でかき消えた。


折りたたみナイフは回転しながら宙を飛び、竹籠を吊っていた縄に突き刺さった。


縄は完全には切れなかったものの、多くの繊維が断ち切られた。


残った繊維だけでは竹籠の重さを支えきれず、次々と切れていった。


そして、その真下には、長い黒髪の女が立っていた。


3

---------

「キリン、何をしている!?」


長い黒髪の女が尋ねた。


トカゲのような怪物の姿から解放されて以来、眠り続けていたその生き物は、赤い光が発する超音波によって目を覚まし、今まさに放たれようとしていた強力な光線を阻止したのだった。


だが、そのことに気づいている者は誰もいないようだった。


「おい、キリン。悪いけど、少しだけ時間をくれないか? こっちは大事なところなんだ。ほら、レンティサと一緒に行ってろ」


長い黒髪の少女は、麒麟の長いひげの一本を手綱か犬のリードのようにして引っ張った。


「行こ、キリン! お腹すいたでしょ。村にはおいしいミリギカムがいっぱいあるよ。ンラティサお姉ちゃんは、あのタマなし坊やと遊ばせてあげよう」


レンティサちゃんが言った。


「それで、お前だ」


長い黒髪の女のンラティサさんは鈴木(すずき)くんを見据えた。


「やっぱり、あの赤い光はお前の仕業だったな……」


鈴木(すずき)くんは黙ったままだった。


「だが、そんな黒魔術など怖くはない。続きをやるぞ」


「その……あの生き物のせいで、武器を失ったんだけど」


「お前には、まだその力があるだろう」


「だから、何のことかわからないって。それ、俺じゃない」


「信じると思うか? まあいい。なら私の槍を使え……」


そう言って背中のホルスターへ手を伸ばした、その瞬間――


ピシッ――。


何かが弾ける音が響いた。


「危ない!」


鈴木(すずき)くんは叫びながら、ンラティサさんへ飛びついた。


「何するつもりだ!? まだ勝負は再開してないだろ! 本当に汚いやつだな。やっぱりタマなしか!」


ンラティサさんが叫んだ。


その直後――


ドォン!


竹籠が地面に激突した。


それは、ほんの数瞬前までンラティサが立っていた場所へ、まっすぐ落ちてきた。


4

---------

彼女は肩で大きく息をしていた。


目を見開き、竹籠の残骸をじっと見つめた。


やがてその視線が動き、同じように竹籠の残骸を見ていた鈴木(すずき)くんへ向けられた。


鈴木(すずき)くんも顔を彼女のほうに向けた。


二人の視線はぶつかり、そのまま長い、長い沈黙が流れた。


そして彼女の視線は、自分の胸元へ落ちた。


鈴木(すずき)くんもつられて目を向けた。


そのとき初めて、自分の右手がどこにあるのかに気づいた。


柔らかな感触。


危険地帯。


決して触れてはいけない場所。


鈴木(すずき)くんは目を閉じた。


平手打ちが飛んでくるのを覚悟して。


だが、それは来なかった。


「このスケベ! やっぱりタマなしじゃないか!」


しかし、その次に起こったことは、その言葉よりもはるかに彼の心を深く傷つけた。


5

---------

鈴木(すずき)くんは、激しい痛みに呻きながら寝返りを打った。両手は股間を押さえていた。


ンラティサさんは左膝を立てたまま、ぼそりと呟いた。


「……へえ。ちゃんとタマは付いてるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ