第十五話:言い切れないほど呆気ない
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鈴木くんは、靴をエマージェンシーブランケット
で覆った渡辺くんとは違い、足をブランケットで包んで、その上から靴を履く方法を選んだ自分の判断を、心の中で静かに称賛した。
鈴木くんは、右足で左の体育館シューズの靴ひもの先を踏みつけた。
そのまま左足を動かし、靴ひもをほどいた。
左足の靴を脱ぐと、後ろ手に縛られたままそれをつかみ、靴ひもをほとんど引き抜いた。
片方の先だけは一つの鳩目に通したまま、二重結びで固定して残した。
もう一方の先は両手の間を通し、反対側の靴の靴ひもの先へ結びつけた。
左足に靴を履き直すと、仰向けに寝転がり、自転車をこぐように足を動かし始めた。
靴ひもに付着していた氷は溶け、その水分によって摩擦熱による過熱は防がれていた。
しかし、鈴木くんは時々ペダルをこぐ動きを止め、靴ひもが熱くなりすぎていないか確認した。
そうしなければ、ポリエステルが溶け、手を縛っている縄が切れる前に、靴ひものほうが先に切れてしまう可能性があったからだ。。
また、水分そのものも、植物繊維のような素材で作られているらしい縄をわずかに弱らせていた。
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「うわあああっ!」
目隠しを外した鈴木くんにつられて外を見た渡辺くんは、自分たちがいる高さと竹籠の頼りない造りに気づき、思わず叫んだ。
「シーッ! そんな大声出したら、あいつらに気づかれるだろ」
「さ、叫んでるのは誰だよ……」
渡辺くんは顔を赤くしながら言い返した。
「はいはい。とにかく静かにしてろ。今、お前の縄もほどいてやるから」
「お、おい。あれを見ろ!」
地上では、人々が巨大なトカゲのような怪物を囲むように輪を作っていた。
互いに手をつなぎ、何かを唱え始めた。
そこへ、小柄な人影が、杖を手にゆっくりと足を引きずりながら怪物へ近づいていった。
怪物の前で立ち止まると、その人物は両腕を大きく広げ、高く掲げた。
「カミ・トゥラ、タプ:コ・グリン・タプ!」
まるで真言でも唱えるように、その言葉を何度も繰り返した。
「タプ! タプ! タプ!」
周囲の者たちも声をそろえて唱えた。
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太陽は、その場所をぐるりと囲む山――いや、崖と言ったほうがふさわしい――の稜線へと沈み始めた。
長い影が村とその周囲一帯を覆っていく。
そのときだった。
輪の中央にいた怪物が、淡い青白い光を放ち始めた。
怪物は激しくもがき、拘束を次々と引きちぎった。
輪を作っていた人々は一斉に槍を構え、身構えた。
だが、怪物のそばにいた小柄な人物が手で制すると、全員が武器を下ろす。
その人物は再び唱えた。
「カミ・トゥラ、タプ:コ・グリン・タプ!」
すると皆が声をそろえて応じる。
「タプ! タプ! タプ!」
怪物の放つ光はいっそう強くなった。
激しく身をよじるたび、その姿が変わっていくように見えた。
頭部は次第に小さくなり、前肢は長く伸びていった。
指は癒合し、各肢の鉤爪は一つにまとまり、それぞれ一本の蹄となった。
筋肉質で長い尾は縮み、牛のような尾へと姿を変えた。
目の上の突起は長い角となって伸びた。
鱗は虹色の宝石のような輝きを放ち、肩と腰の両脇からは炎が揺らめた。
まばらだった体毛は、黄金色のたてがみへと変わっていた。
その巨体と圧倒的な威容は変わらなかった。
だが、遠目にも、その顔立ちは先ほどまでとは打って変わって穏やかなものになっていた。
そして、すぐその場で眠り込んだ。
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「何してるんだ?」
渡辺くんが尋ねた。
「見ればわかるだろ。脱出だ」
鈴木くんはそう答えながら、自分の手を縛っていた縄をこすり切って外した竹の横桟で、檻の側面を固定している縄を切り終えた。
「どうやって下りるつもりなんだ?」
鈴木くんは、檻を吊っているロープを指さすだけだった。
ロープは檻の四隅から上へ伸び、一か所に集まって巨大な木の太い枝に取り付けられた滑車を通り、そのまま幹の根元まで下りて結び付けられていた。
「ま、まさか、そのロープを滑り下りるつもりか?」
「まあ、それも一つの方法だな」
「あ、頭おかしいのか?」
「おい。体育でロープ登りやっただろ?」
「やったけど……」
「だったら――」
「無理、無理……」
「大丈夫だって。下りるほうがずっと簡単だから」
渡辺くんは、ぶんぶんと首を横に振った。
「田中さんに会いたくないのか?」
「もちろん会いたい!」
渡辺くんは勢いよく立ち上がろうとして、頭を檻の天井にぶつけた。
ガンッ。
檻が大きく揺れた。
「いてぇ〜……」
「おい、アホ!」
「ど、どうすればいいんだ?」
「よし。まずは檻をロープのほうへゆっくり揺らすぞ」
やがて吊りロープが手の届く位置まで近づくと、渡辺くんはそれを掴み、鈴木くんは外した竹の横桟にしっかりと固定した。
「それと、ブランケットは靴の外じゃなくて中に巻け。俺みたいにな。靴の外に巻いたままだと滑りすぎて、速度を制御できない」
鈴木くんはロープを体の右側に回し、左足の上を通して右足の下へくぐらせた。
ロープをしっかり握ると、右脚を伸ばしたまま降下を始めた。
左足を右足へ近づければ摩擦が強まり減速し、離せば速度が増した。
そうやって速度を調整しながら下っていった。
渡辺くんも後に続いた。
だが、その速度は明らかに遅く、額には脂汗がにじんでいた。
5
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二人の足が地面に着くと、その顔に大きな笑みが広がった。
だが、その笑みは長くは続かなかった。
突然、二人は淡い青白い光を放つ、生き物のような帯に全身を絡め取られた。




