第十三話:谷の奥へ進むほど険しい (その五)
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渡辺くんはごくりと唾を飲み込んだ。
鈴木くんは怪物をじっと見据えたまま。
二人とも体を震わせていた。
女が笛を吹く。
すると、オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちが一斉に巨大な怪物へ向かって駆け出した。
ただし、少年たちを乗せた二匹だけはその場に残った。
一匹が怪物の左腕へ飛びつき、牙を突き立てた。
もう一匹も右腕へ飛びついた。
そして、その後に起こったことは、二人の予想をはるかに超えていた。
巨大な怪物に噛みついたオオカミ――少なくともオオカミのような獣たちの体が、淡い青白い光を放ち始めた。
それは、鈴木くんが雪崩に埋まったときに見た、あの光とよく似ていた。
伸びた光の帯は、生きた輪ゴムのように怪物の体へ巻き付き、なおも暴れ続ける巨大なトカゲのような怪物を締め上げた。
さらに別の二匹が後肢へ飛びつき、同じように光の拘束へと姿を変えた。
怪物は今にも倒れそうになった。
だが全身の筋肉を膨れ上がらせると、拘束を力任せに引きちぎった。
拘束となっていた獣たちは、涸れ沢の岩壁へ激しく叩きつけられた。
「キャンッ!」
悲鳴が響いた。
女は背中のホルスターから、トンファーのような短い棒を抜き放った。
手首を一振りすると、棒の長さが倍になった。
さらにもう一振り。
棒は再び倍の長さへ伸びた。
拳をひねると、先端から両刃の矢じりのような穂先がせり出す。
再び笛が鳴いた。
残っていた最後の一匹が怪物を飛び越え、その体を光の拘束が絡め取った。
今度こそ怪物は腹ばいに倒れ込んだ。
女は騎獣から飛び降り、捕らえられた怪物へ歩み寄った。
槍を一回転させると、その勢いのまま一息に怪物の頭へ突き立てた。
グオオオオォォ。
2
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怪物の瞳孔が大きく開き、やがてまぶたが閉じた。
全身を満たしていた筋肉の張りも失われた。
それを見届けると、女はその場に膝をついた。
それまでの冷静な表情は消え失せ、肩で荒く息をついた。
目は大きく見開かれていた。
オオカミのような獣たちは元の姿へ戻ると、女のもとへ駆け寄り、顔をぺろぺろとなめ始めた。
やがて女の表情もようやく和らぎ、笑みを浮かべた。
「ヤメ! ヤメ!」
そのとき、
グウウウ〜。
という音が響いた。
女はとっさに槍を構え、怪物のほうを振り向いた。
だが、巨大なトカゲのような怪物は微動だにしなかった。
周囲を見回した彼女は、オオカミのような獣たちが、一斉に同じ方向を見つめていることに気づいた。
その視線の先には、渡辺くんの腹があった。
渡辺くんは顔を真っ赤にし、両手で腹を押さえていた。
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「コマ、ソ・カメ!」
女はそう言うと、腰の小さな袋からうごめく太った幼虫をひとつかみ取り出し、渡辺くんへ差し出した。
渡辺くんは鈴木くんへ助けを求めるような視線を向けた。
だが、返ってきたのは笑いだけだった。
その笑いは、返事のない渡辺くんの口に女が幼虫を数匹そのまま押し込んだことで、さらに大きくなった。
しかし、その笑いも長くは続かなかった。
次の瞬間には、女が同じように鈴木くんの口にも幼虫を押し込んだからだ。
「ウラ・ナヌカ・ス? カミモノバ・ワルク・ナ・シ・ソ!」
その虫を顔をしかめながら吐き出した二人を見て、女は深く眉をひそめ、声を張り上げた。
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「仕方ないな」
鈴木くんはそう言って、リュックへ手を伸ばした。
その瞬間、女は槍の穂先を彼へ向け、オオカミのような獣たちも低く唸り声を上げた。
「おいおい、大丈夫だって。食べ物を出すだけだ」
その言葉を聞いた途端、渡辺くんの顔にぱっと笑みが広がった。
女が警戒の目を向ける中、鈴木くんはゆっくりとした動作でリュックを開け、大豆スナックを数本取り出した。
一本を渡辺くんへ渡すと、彼はすぐにむさぼるように食べ始める。
もう一本は女へ差し出した。
そして、自分のスナックの包装をむいて一口かじり、その食べ方を見せる。
女も同じように包装をむき、一口かじった。
「何してるんだ! 食べ物を無駄にするな!」
スナックを吐き出しながら顔をしかめた女を見て、鈴木くんは深く眉をひそめ、声を張り上げた。
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そのとき、背後の崖の岩壁の一部が動き始めた。
ゴロ〜ン!




