第百話:命を賭けても逃げない (その七)
1
---------
「ああああ……」
戦士アカリは、血を吐きながらうめいていた。
ほかの戦士たちも同じだった。
衝撃波によって、肺胞壁の毛細血管の大半が破裂していた。血液が流れ込み、浮腫液が肺組織へ漏れ出したことで、肺出血が起きていた。さらに、呼吸能力も損なわれていた。その後に起こる炎症反応は、通常であれば組織の修復につながるものだが、この場合は状況を悪化させ、ガス交換の能力をさらに低下させていた。
体を横たえた状態では、浮腫液が肺から上気道へと流れ込み、局所の粘膜を刺激して咳反射を引き起こした。通常の咳は、気道を塞ぐものを取り除き、空気の通り道を確保するための反射だ。しかし、この状況では、すでに損傷した肺をさらに揺さぶり、症状を悪化させるだけだった。
「しん……心配すんな。わたしが助けを呼んでくっで」
彼女は彼の左手を握りながら言った。
だが、彼には彼女の声が聞こえなかった。彼もほかの戦士たちも、鼓膜が破裂していたのだ。内耳も深刻な損傷を受けていた。音を増幅し、電気信号へ変換する器官は、破損し、位置がずれ、変形し、裂けていた……。関節の位置も狂っていた。
2
---------
「た……隊長殿、ご無事で何よりでごわす……」
彼は言った。
水晶体は位置がずれ、硝子体に引っ張られた網膜も剥離していた。その両方によって、視力が失われていた彼らに感じ取れるのは、明暗だけだった。形は分からない。白目は、実際には毛細血管の破裂によって赤く染まっていた。眼窩からも血が流れ出していた。
彼もほかの戦士たちも、見ることができなかった。それでも、彼が彼女をグァングィ、ズィン家ん三番手だと見抜いたのは、直感だったのかもしれない。あるいは、論理的な推論の結果だったのかもしれない。
もし論理的な推論だったのなら、脳が奇跡を起こしていたことになる。彼も仲間たちも、爆発による過圧で脳に深刻な損傷を受けていたからだ。
密度の異なる組織は、衝撃波から吸収するエネルギー量も異なる。そのため、組織ごとに加速の度合いが異なり、組織同士の境界面に機械的な応力が生じる。その結果、組織が機械的に引き伸ばされ、せん断される。さらに、液体の中では気泡が発生しては崩壊し、局所的な高圧の噴流や二次衝撃波を生み出して、周囲の構造を損傷させた。
多くのシナプスが破壊され、一部の毛細血管が破裂し、微小な脳血管障害や局所的な虚血、酸素供給の不足による神経細胞の損傷が生じていた。
たとえ彼女を正しく見抜いたのが、まったくの当てずっぽうだったとしても、それでもなお、言葉を組み立てて発するだけの脳機能が保たれていたこと自体、小さな奇跡ではなかった。
3
---------
「や……奴を仕留めたでごわすか……隊長殿?」
戦士アカリはどもりながら尋ねた。
「や……やったぞ!おはんらが仕留めたんじゃっど!」
彼女は涙を流しながら頷き、つぶやいた。
彼には彼女の声が聞こえず、姿も見えなかった。それでも、彼は微笑んだ。
彼女が手をわずかに強く握ったからだろうか?安堵のかすかな吐息が、彼の手の肌に届いたからだろうか?彼女の掌を流れる血の温もりを感じたからだろうか?またしても、ただの幸運な当てずっぽうだったのだろうか?それとも、彼の反応を深読みしただけなのだろうか?
そして……。
「た……隊長殿、おいどんらを楽にしてくれ……」
彼は頼んだ。
「わ……わたしが駐屯地から薬草師と軍醫を連れてくるっ……!」と彼女は言った。
「おいどんらを永眠させてくだされ……!」
「な……何を言っちょっとか……!馬鹿なことを言うなっ……!」
彼女は抗議した。
「お……おいの身勝手な願いだとは分かっちょいもす。何せ、戦士は誇り高く死ぬべきでごわす。自分の苦しみから逃れるために死なせてくれなどと頼むのは、臆病者の言い分に聞こえるでごわしょう……」
「だ……」
「で……ですが、おいのために頼んじょるわけではごわはん。あの者たちのためでごわす。あやつらは勇敢でごわしたろう?今も勇敢でごわす」
「だ……ま……!」
「そして、何よりも……隊長殿ご自身のために、お願いしちょるのでごわす……」
「だ……ま……れ……!」
震えながら、戦士アカリは右手を腰まで持っていき、短剣を取り出した。
「た……頼みもす……!」
そう言って、彼は短剣を彼女に差し出した。
彼女は震え、泣いていた。彼は短剣を彼女の手に渡した。
「わ……わたしには、できん……」
「た……頼みもす……!」
彼はそう繰り返し、彼女の手を短剣の柄に握らせた。
「だ……黙れ……!」
「た……頼みもす……!」
彼はそう繰り返し、彼女の両手を持ち上げた。
4
---------
彼は彼女の手を取り、胸骨のすぐ脇、肋骨の間に短刀の切っ先を当てた。
「短刀に体重をかけるだけでよかでごわす。心臓を外しても構いもはん。柄を回してくだされ……」
「だ……黙れ……!」
「おいが震えて叫んでも、気にせんでよかでごわす。押し続けて、短刀をもっと深く突き立ててくだされ……」
「だ……黙れ……!」
「妻に伝えてくだされ……おいは皇帝陛下のために死んだと……幸せでごわした……」
戦士アカリは、血の混じった涙を目から流しながら頼んだ。
「だ……黙れ……!」
「おいの体で練習してくだされ。ほかの者たちを、手早く、苦しませずに楽にしてやれる自信がつくまで……」
「だ……黙れ……!」
「お……お仕えした時間は、ほんのわずかでごわした……それでも、グァングィ様、ズィン家ん三番手、隊長殿の下で務められたこと、光栄でごわした」
「だ……黙れ……!」
「お……おいは、白状せねばなりもはん……怖かでごわす……痛みよりも、もっと怖かのかもしれもはん……。で……ですが……どうか……」
「だ……黙れ……!黙れ、黙れ、黙れっ!おはんら、すぐに戻ってくる、一人残らず、全員無事に戻ってくると約束したじゃろうがっ!おはんらは誇り高き戦士ではなかとかっ!ならば、その約束を守れっ!みんな無事に戻ってこいっ!」
5
---------
かすかな赤い光の渦が、鮮やかな赤い光へと変わった。最初は彼女の腕の周りを回っていた光が、回転する赤い光球となって短刀の切っ先に集中していく。
そして次の瞬間、彼女の目に映るものは、すべて赤一色に染まった。




