第十話:谷の奥へ進むほど険しい (その二)
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密生した白い毛並みは、寒さや雪景色の中での保温と擬態を兼ねているだけでなく、その体躯を実際以上に大きく見せていた。とはいえ、決して小さな獣ではなかった。
体高は一メートルを超え、体長は二メートルほど。体重は約八十キロ。巨大なオオカミ――少なくとも、オオカミによく似た生き物だった。
何匹もが鋭い円錐形の牙をむき出しにして唸り声を上げる。
だが、どの個体も二人とは一定の距離を保っていた。
学生たちが動くたびに、一歩踏み込み、噛みつこうと威嚇するだけだった。
「その折りたたみナイフの技、見せてみろ」
鈴木くんが言った。
「で、でも……無理です……」
渡辺くんは答えた。
「無理って、どういう意味だ?」
「ぼ、僕、いま……できるかどうかわからなくて……」
「いいから……」
そのとき――
ピイイイイィ〜。
獣たちは一斉に吠え始めた。
やがて笛の音が止み、雪を踏みしめる足音が聞こえてきた。
2
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森の奥から、一人の若い女が姿を現した。
背は高く、肌は赤みを帯びた薄い褐色。長い黒髪をなびかせ、毛皮の外套をまとっている。
オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちは、尻尾を振りながら嬉しそうに彼女のもとへ駆け寄った。
ただ一匹、ひときわ大きな個体だけは例外だった。その一匹だけは、二人をじっと睨み続けていた。
女は獣たちの頭を優しく撫でると、二人の学生に視線を向けた。
「タ・ナ・カ?」
真剣な表情でそう口にする。
「田中先輩?田中先輩を知ってるんですか?」
渡辺くんが問い返した。
「やっぱり、お前があの恥ずかしい告白をしたやつだったのか……」
鈴木くんがぼそりとつぶやく。
渡辺くんは顔を真っ赤にしたが、何も言い返さなかった。
「ワ・マタ・トパム:ウラ・タ・カ・アル?」
「その毛皮を着た剣の連中と一緒なのか?」
鈴木くんが女に尋ねる。
「マ・ヨ・ナ;イカムウォ;カラバ・ムカパリ・ニ・トレ」
女は獣たちへそう命じた。
オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちは二人を取り囲み、唸り声を上げる。噛みつく素振りで威嚇しながら、森の奥へ進む女のあとを歩くよう二人を追い立てた。
「僕のリュック!」
渡辺くんが叫んだ。
だが、リュックを取りに戻ろうとした途端、オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちが立ちはだかり、行く手を阻んだ。
どうすることもできず、彼は従い、再び行進の列へ戻った。
3
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一行は、もう一つの開けた場所を通り抜けた。
そこでは多くの木々がなぎ倒されていた。とりわけ山の方へ向かっていた木々の被害が激しく、そのため本来なら木々に遮られて見えないはずの山肌が、そこからはよく見えた。まるで巨大な砲弾が森を一直線に貫いたかのように、上部の木々だけが吹き飛ばれていた。
地面には、あの羽毛に覆われた爬虫類のような獣の肉片が、雪に半ば埋もれたまま散乱していた。
「おい、渡辺。あれ、お前がやったのか? あの折りたたみナイフの技で」
鈴木くんが小声でささやいた。
「クトゥイ・トンセ!」
女が鋭く声を上げた。
すると、鈴木くんのそばにいたオオカミ――少なくともオオカミのような獣が低く唸った。それだけで意味は十分に伝わった。
その後、しばらく道中で言葉を交わす者はいなかった。
森の深い静寂を破るのは、木々を渡る風の音と、ときおりどこからともなく聞こえてくる鳥のさえずりだけだった。
4
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「へぇ〜! ここから降りるしかないんですか?」
渡辺くんは、高い崖を前に身を震わせながら尋ねた。
「ソカ・オントリ・ニ・ナ・アリ・ソ!」
女は怒ったような顔で叫んだ。
「こ、これ……中二階より高いじゃないですか……」
|渡辺くんがつぶやいた――その次の瞬間。女は彼を蹴り飛ばし、崖の下へ突き落とした。
「何してるんだ!」
鈴木くんは叫び、女へ詰め寄ろうとした。
だが、オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちが彼を取り囲み、その行く手を阻んだ。
「何してるんですか!」
崖の下から声が響く。
恐る恐る崖の縁へ近づいた鈴木くんは、雪煙をまといながら怒鳴る渡辺くんの姿を目にした。
5
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そのとき、オオカミ――少なくともオオカミのような獣たちが、一斉に耳をぴんと立てた。
耳はまるでレーダーアンテナのように左右へ忙しく動き、やがて低く唸りながら女を囲むように防御の陣形を取った。
直後、森の奥から重々しい咆哮が響いた。
グオオオオオオオ。




