第八章:仮面のまま君を選ぶ
翌朝、レイラが庭園で一人佇んでいた。カインは、静かにその背に声をかけた。
「レイラ」
「カイン様。どうなさいましたの?」
「君の過去を、少しだけ聞いた。リリアナから」
レイラは、わずかに目を見開いた。けれど、すぐに仮面の微笑みに戻った。
「まあ……余計なことを。乙女の秘密を、殿方が探るのは紳士とは言えませんわよ」
レイラは、冗談交じりに言う。しかし、カインは真面目に答える。
「そうだな。だが俺は、知ってよかったと思っている」
レイラは、言葉を失った。
「君が何を背負ってきたのか、少しだけ分かった気がする。そしてそれでも、俺は君に惹かれている……かもしれない」
レイラは、口元を隠しながら微笑んだ。けれど、その瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。
「ふふ。なんですのその言い方!かもしれないなんて、あいまいですわね!」
それを聞いたカインは、顔を赤くしながら言う。
「仕方ないだろう……。こんな感情は初めてなんだ……!」
レイラは、微笑みながらそっと言った。
「……そっちの方が、わたくしは好きですわ」
ふたりの間に、短い沈黙が流れた。けれど、それは気まずさではなく、どこか心地よい静けさだった。 カインは、そっとレイラの隣に立った。触れない距離で、けれど確かに“隣”だった。
レイラは、仮面のまま、けれどほんの少しだけ肩を寄せた。それだけで、ふたりの距離は、確かに変わっていた。暖かい風が吹く。まるでこれからの二人を祝福しているかのように。




