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07_七十一人は勝ちたかった

最終幕をそのまま上演するのかと聞かれ、ミナは台本を閉じた。


技師たちは放流器の一本目へ工具を掛けていた。まだ場を逃がせない。反対側の一本が開かなければ、最初と同じ偏りが起きる。映像には、索を張る二国の艦と、その艦へ照準を向ける別の艦が一緒に入っていた。どこか一つで手を離せば、作業艇は宮殿の壁へ叩きつけられる。


公演回線は切られていなかった。しかし両国の解説は、同じ映像へ別の言葉を載せ続けていた。セラの歌はヴァルドの復古的な催しとして扱われ、アルマの歌はエルダがまだ引いていない証として流れた。


「このまま最後に私たちが勝って、向こうが負けた顔をしたら、何に使われるの」


ミナが聞いた。モルナは答えなかった。


ターラが、競演をやめると告げよう、と言った。ヴァロは制作責任者を呼んだ。口論が始まると思ったが、彼はまず冬の契約書を渡した。


「三十公演の単独優勝条件。いま撤回を頼んでも、返事は今夜に間に合わない」


制作責任者は頷いて下がった。ヴァロは台本を開いたまま待った。


ミナは《相手役の冠を受け、鏡門より退出》を見ていた。出口の先には、自分の譜面の続きがない。イリヤが隣へ来ると、彼女の譜面にはその先があった。


「これ、そっちで吹く曲だったんだ」


二冊を離さず、ミナは声に出して数えた。イリヤが調を移して、口の中で旋律を返した。音が合うより先に、二人の顔が向き合った。


アルマは昼の舞台図を広げた。鏡門を出た主演は、別の舞台へ入る。競演になる前の婚礼では、相手の冠を受け取った人が、相手の客に見せに行ったのだった。


「見に来た人を置いて、向こうへ行くのね」


アルマが言った。好ましい演出を見つけた顔ではなかった。


「私は、この客席で仕事を取ってきた。向こうでよかったと言われても、三十公演の代わりにはならない」


「分かってる」


ミナは言いかけたが、やめた。三十公演を失う人数の中に、自分は入っていない。


「私は行きたい。そちらで、イリヤの続きを吹く。それを映してほしい」


「舞台を替えれば、本当に反対の国の放送にも入ります。少なくとも、こちらから出す元の映像では」


モルナが言った。全部の局が使うとは約束しなかった。


「ただし、所属外の演者が上がれば競演では失格です。共同上演として審査を求め直すことはできますが、受け付けられるかは分かりません」


セラが台本へ指を置いた。


「私も、あちらの人に歌いたいです。訂正だけではなくて」


ミナには、出ていった客の背中が見えた気がした。戻ってきてもらえるわけではない。それでも、いま残っている人へ歌うことはできる。


ポロは宮殿の舞台係と、鏡床の金具を外した。昼に見つけた橋がゆっくり姿を現した。金色の薄い床は二つの劇場を結び、その下にも空気のある鏡廊が続いている。宇宙へ落ちる橋ではない。それでも長い裾で転べば、後ろから来る人を巻き込む。ポロは支点を確かめる間、誰も乗せなかった。


ターラが出演者表へ手を伸ばした。


「人数を先に絞りましょう」


「その五人にも、まだ聞いてない」


ミナが言った。


「第二幕で負けるって決めたときも。私、嫌だった」


「みんなを危ない看板から離したかった」


「セラは、自分で返事をしようとしてた」


ターラは口を開いたが、そこへポロが扇を置く音がした。置いて初めて、彼の腕が震えていたことにミナは気づいた。


「船、止めてもいいよ」


ポロは床を見ていた。油で黒くなった指の間に、細い赤い筋があった。


「部品来るまで、待つ」


ターラもミナもすぐには返せなかった。ポロは扇の留め金を指で動かし、すでに掛かっていると分かると、手を膝へ戻した。


「止めたら、誰も来なくなると思ってた。修理が終わっても」


ミナは、主機を止めた翌朝、彼が全員の寝台を見て回ったことを思い出した。自分にも小さく声をかけた。点検だと思っていた。


「寝袋、戻す」


ポロはそう言って、壁際へ座った。ミナは、扇が彼の足へ倒れないよう向きを変えた。仲間が戻ると証明するような言葉は、誰からも出なかった。


ターラは出演者表を閉じた。


「一人ずつ聞く。私は渡りたい。ミナは聞いた。セラも。ポロは?」


「鏡を向こうへ出す。手伝う人がいれば」


「ルク」


ルクは借りた太鼓を持っていた。


「渡る。ただし、橋じゃ俺が足を止める。曲が続いてても止める。それでいいなら」


ターラが頷いた。ルクは撥を一本、腰へ差した。


《ルミエラ》の回答は、支点の点検が済む前に戻った。全員がすでに事故も契約条件も知っていた。選ぶのは、今夜これからの仕事だった。


舞台を替わる、百八十七。勝ちに行く、七十一。棄権して帰る、二。


ヴァロは数字を読み、閉じなかった。水の蓋を持って、ミナたちの口論を待っていた合唱団員が前へ出た。


「勝ちに入れました。去年は予選で帰ったんです。今夜は母が来ています」


「どの席?」


アルマが聞いた。


「二階、右の一番奥。姿なんか見えないと思います。でも、いるって言ってあるので」


ヴァロは橋の幅を見た。


「全員は出せない」


「だったら、残る場所をください。投票で負けたから、今夜の仕事まで終わりにはしないで」


アルマが合唱譜を渡した。彼は受け取ったが、渡る方へ票を変えるわけではない、と言った。ヴァロはそのまま記録に残した。棄権した二人は、舞台に出ず撤収を始めると答えた。


制作責任者が戻った。冬の契約は変更できなかった。ヴァロは一枚だけ署名し、残りを丁寧に折って予定表へ挟んだ。


「今夜の給料の扱いは、明日話す。契約を失った分を勝手に引くことはしない」


それでも七十一人は増えも減りもしなかった。


ミナはイリヤへ譜面を渡した。相手の客席に行っても、自分の名を聞く人はいないかもしれない。イリヤはもう、ミナが吹く場所に鉛筆で印をつけていた。


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