10_アンコールは請求書
三日後、旧帝都アウレリア第七冠港では、戦争は再開していなかった。
それだけで成功だった。
サリスは拘束された。
ただし彼の主張した未払い給与や退役後の生活保障まで消えたわけではなく、近衛艦隊の乗員たちは港の相談窓口を占拠する勢いで申立てを始めた。
第五章の若い水兵は、私物袋を足元へ置き、退艦後の仮宿舎を申し込んでいた。
隣の窓口では、ガルド・ネンが《アステリア》の民間保守員として残れないか、工具箱を机へ載せて交渉していた。
二人は同じ艦を降りたが、同じ行き先を選ばなかった。
ターラはその列を見て言った。
「撃つよりずっといい」
ルクが頷く。
「時間はかかるけどな」
「戦争もかかる」
「七十年」
「じゃあ窓口の方が速い」
《ノヴァ》の五人は、《金冠劇場》の小会議室で事情聴取を受けた。
監視官がミナに聞いた。
「一音を外したのは事実ですね」
「外しました」
「今回の原因だと認めますか」
ミナは指先を握り、それから開いた。
「きっかけです」
監視官はしばらく彼女を見たあと、記録へそう書いた。
隣でターラが、港からの損害請求書の上へ《ノヴァ》の出演請求書を重ねた。
「差額をください」
事情聴取は、それから二時間続いた。
結論として、《ノヴァ》は逮捕されなかった。
旧式大太鼓は返却することになった。
連絡艇のへこみはポロが直すことになった。
出演料は、危険手当込みで支払われた。
ただしターラが要求した五年分には、遠く及ばなかった。
「これじゃ《アンコール》の主機交換できない」
ターラは振込通知を見て言った。
ポロが答える。
「交換しなくても、あと二公演はいける」
「減ってる」
「今回、急に冷やしたから」
格納庫へ戻ると、セラに一件だけ出演依頼が届いていた。
《喜劇『台所女中の休日』。転倒場面あり》
セラは旧皇后の額飾りがなくなった額で、何度も読み返した。
ポロは《アンコール》の外板から顔を出した。
「主機、あと二公演」
「直ったんじゃないの?」
「直せる。でも、今は出られる」
出港前、ミナは格納庫の隅で、次の公演の序曲をさらった。
譜面にはない短い経過音を一つ入れる。
振込通知を数えていたターラが顔を上げた。
「そこ、譜面にないわよ」
「知ってる」
ミナは同じ箇所を、もう一度吹いた。
ターラの端末が鳴った。
《緊急。王家の婚礼歌を歌うと、隣国の軍艦まで婚姻登録を要求してくる》
「交通費別」
「断って」
「話だけ」
「それ、引き受ける人の言い方」
格納庫の扉が開いた。
《アンコール》は、次の町へ向けて冠港を離れた。
第2章に続きます。
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▼ シリーズ「NO ONE'S GALAXY(冠なき銀河)」




