第7話:7歳児、はじめての「しょうがっこう」
「れな、ついにこの日が来たな」
「……うん。じゅり、制服似合ってるじゃん」
新築一軒家の玄関前。鏡に映る自分たちの姿を見て、私は小さく息を吐いた。
秘密基地に親世代(皇さん、紗夜さん、阿流さん、真理さん)が合流してから、さらに数ヶ月――。
チート魔力と**【異世界の1時間は日本の24時間】**という、バグった時間の進み方のタイムラグをガッツリ利用して、私たちはなんと、現代日本の**【小学校】**へ入学することになったのだ。
7歳になった私たちは、日本の年齢でいうとちょうど小学1年生。この時間のズレを使えば、向こうの世界でみんなが寝静まっている夜の間に、こっちで丸一日、学校へ通うことが物理的に可能なのである。
日本での戸籍の手配などは、秘密基地のオタク文化に仲間入りした父親たち(皇さんと阿流さん)が、異世界の魔法技術と情報処理能力を応用して、日本で「会社」を設立するついでに完璧に整えてくれた。
ピカピカのランドセルを背負った、金髪の超絶美少年・じゅり。
同じくランドセルを背負った、赤髪の私。
どこからどう見ても、初々しい新小学1年生のコンビである。
「うおおおお! れな! じゅり! なんて愛らしい姿なんだ……! 写真だ、真理、早くあの『すまーとふぉん』という魔導具で四方八方から記録するんだ!」
「分かっていますわ、あなた! ほら、じゅりちゃんもれなちゃんも、こっちを向いて笑って~!」
玄関口では、すっかり「日本の親バカサラリーマン&主婦」と化した我が家の両親、阿流お父さんと真理お母さんが、スマートフォンを片手に大騒ぎしていた。
「これ、阿流、少し落ち着きなさい。……紗夜、見てごらんなさい。我が息子ながら、じゅりの制服姿はなかなかに凛々しいではないか」
「ええ、本当ですわ、あなた。れなちゃんの赤髪とランドセルの赤色も、お似合いでとっても可愛いわ」
もちろん、じゅりの両親である皇お父さんと紗夜お母さんも、ばっちり日本の高級スーツと上品な訪問着に身を包んで並んでいる。向こうの世界で「今夜は夫婦で大事な魔導書を精読するから、絶対に部屋に入るな」と騎士たちに厳命し、数時間(日本での数日間)の休みを作って、息子の晴れ舞台に駆けつけてくれたのだ。
今日は両家の保護者が揃って、日本の伝統イベントである『入学式』へと向かう。
「ふん。騒がしいな。……行くぞ、れな。俺の手を握れ」
じゅりは少し照れくさそうに頬を染めながらも、当然のように小さな手を差し出してきた。
「学校という場所では、他の男がお前に声をかけてくる可能性があるからな。あらかじめ『俺のものだ』と周囲に分からせておく必要がある」
「はいはい、じゅりは相変わらず独占欲が重いねぇ」
苦笑しながらその手を握り返すと、じゅりは満足そうに口元を緩めた。7歳にして、すでに将来有望なヤンデレ王子である。
校門をくぐり、桜の舞い散る校庭を進んでいく。
周りの日本人の子供たちや親たちが、じゅりのプラチナブロンドの美貌と、私の鮮やかな赤髪を見て「ハーフの子かな?」「モデルみたいに可愛い……!」とヒソヒソ囁いていたが、異世界の王族と公爵令嬢である私たちにとっては、これくらいの視線は慣れっこだった。
体育館で行われた入学式を無事に終え、いよいよ教室へ。
黒板には「にゅうがくおめでとう」の文字と可愛いイラストが描かれており、私たちの席は運良く(あるいは父親たちの裏工作の成果か)隣同士だった。
「じゅり、これが『教科書』だよ。あっちのお堅い魔導書と違って、絵がたくさんあって楽しそうでしょ?」
「ほう……これが。確かに分かりやすいな。だが、れな」
じゅりは机の下で、そっと私の机の端を指先でトントンと叩いた。
「この『こくご』や『さんすう』という学問、あっちの家庭教師に習うものより随分と簡単ではないか? 俺なら一瞬で全て理解できるぞ」
「シーッ! 声が大きい! ここでは私たちは普通の子供なんだから、最初から天才っぷりを発揮したら浮いちゃうでしょ!」
「なるほど……凡人のフリをするのも、一種の隠密任務というわけだな。お前がそう言うなら合わせてやろう」
ふにゃりと無邪気に笑うじゅり。中身はチート王子なのに、ランドセルを背負って机に座っている姿は、ただの可愛い男子児童にしか見えない。
無事に初日の学活が終わり、私たちは保護者席の後ろで見守ってくれていた両親たちと合流して、秘密基地(日本の家)へと帰還した。
ガサゴトッ!!
「おかえり、れな! じゅり!」
リビングのコタツから顔を出したのは、銀髪の兄たち(りく兄、きりや兄)と、金髪の姉たち(みあ姉、かりん姉)だった。
「お帰りなさい、れな、じゅり。日本の『小学校』はいかがでしたの? 漫画に出てくるような、運命的な出会いはありましたの?」
みあ姉が少女漫画を抱きしめながら、うっとりと目を輝かせる。
「おかえりなさい、2人とも。ねぇ、れなちゃん、日本の『きゅうしょく』には、毎日あの美味しいおやつ(スイーツ)が出るというのは本当かしら……?」
かりん姉がおっとりと首を傾げながら、物凄く期待に満ちた目で食いついてくる。
「ハッ、お姉様たち、うるさいぞ。れなの周りには俺が完璧な結界(威圧)を張っておいたからな。虫一匹寄り付かせなかった」
じゅりがランドセルをドサリと置き、コーラを冷蔵庫から取り出しながら勝ち誇ったように笑う。
「ちょっとじゅり、お友達作りたいから威圧はやめてよね……」
私はもこもこのスウェットに着替えながら、遠い目をした。
異世界の夜を利用した、私たちのガッツリ日本の学校ライフ。これが数年後、小学校から中学校、そして高校へと進むにつれて、じゅりの独占欲がとんでもないレベルで暴走していく原因になるとは――この時の私は、まだ気づいていなかったのだ。




