第5話:お姉様たちの乱入と、禁断のスイーツ中毒
「はぁ……りく兄、きりや兄。あんたたち、少しは静かに漫画を読めないわけ?」
「れな! うるさいだなんて悲しいことを言わないでおくれ! 俺はただ、この漫画のヒロインの健気な姿を、我が愛しの妹であるお前に重ね合わせて感動していただけなんだ……! あぁ、れな、お前は絶対にこんな男に騙されてはいけないよ!」
「おいりく兄、うるさいぞ! それよりこのバトル漫画の修行編を見ろ! この『スクワット』という鍛錬、異世界の騎士団にも取り入れるべきだぞ!」
新築一軒家のリビングは、すっかり「銀髪の男たち」に占領されていた。
重度のシスコンを発揮しながら少女漫画のバイブルを抱きしめる長男・りく兄と、プロテインをシャカシャカとシェイクしながら筋トレ漫画に熱中する次男・きりや兄。2人が秘密基地の住人になってから数週間、我が家のリビングは完全に実家の居間と化していた。
「ふん、騒がしい奴らだ。れな、あんなシスコンの身内は放っておいて、俺たちの格ゲーの続きをしよう」
「そうだね、じゅり。じゃあ次こそ私の101勝目――」
――ガサゴトッ!!!
デジャヴ。あまりにも聞き覚えのある、あのクローゼットからの不穏な物音がリビングに響き渡った。
「な、何事だっ!? れな、俺の後ろに隠れなさい!」
りく兄がすぐさまシスコンセンサーを反応させて私を庇うように身構える中、クローゼットの扉がゆっくりと開いた。
そこから姿を現したのは――まばゆいばかりの美しい金髪をなびかせた、2人の美少女だった。
一人はクールで大人びた雰囲気の第一王女・アルテミシア。もう一人は、おっとりとした癒やし系の第二王女・カトリーヌ。
じゅりの実の姉たちである、この国のロイヤルプリンセス姉妹だった。
「……見つけましたわ、ジュリアス。夜な夜なベッドを抜け出してどこへ行くのかと思えば、エルグランデ公爵家のクローゼットに吸い込まれていくなんて」
アルテミシアが、冷徹な美貌に似合わない呆れたようなため息をつく。
「お、お姉様方……!? なぜここに! 俺の隠密魔法を破るなど……」
さすがのじゅりも、実の姉たちの登場には驚きを隠せない様子で、手に持っていたコーラの缶を落としそうになっていた。
「お姉様たち、説明は後よ! とりあえず身分制度はナシ、タメ口限定! アルテミシアお姉様は『みあ姉』、カトリーヌお姉様は『かりん姉』ね! ほら、その重苦しいドレスを脱いでこれを着て!」
私は素早く立ち上がり、2人のロイヤルドレスを引っぺがして、ピンクと黄色のモコモコスウェットを着せた。
金髪の超絶美少女プリンセスたちにモコモコスウェット。破壊力が凄まじい。
「な、なんですのこの破廉チックかつ心地よい衣類は……!? 身体の線が全く出ないのに、信じられないほど温かくて落ち着きますわ……」
みあ姉が赤面しながら自分のスウェット姿を見つめる。
「まぁ、ふわふわでとっても可愛いわ。ねぇ、みあお姉様」
かりん姉はすっかり気に入ったようで、袖のポムポムを触ってニコニコしている。
「ようこそ、みあ姉、かりん姉。お近づきのしるしに、これどうぞ!」
私は2人をコタツへと案内し、冷蔵庫から出してきた「日本のコンビニスイーツ」を差し出した。
とろける生クリームがたっぷり詰まったシュークリームと、贅沢なイチゴのショートケーキだ。
「……我が国の甘味とは随分と見た目が違いますわね。これが『すいーつ』?」
みあ姉が疑わしそうにスプーンですくい、口に運ぶ。
同時に、かりん姉もシュークリームをぱくりと齧った。
「「っ、!!!!」」
2人の金髪の美少女が、同時にビクッと身体を震わせた。
「な、何ですのこの滑らかな白い泡は……!? 口の中に入れた瞬間、雪のように消えて、濃厚な甘みとコクだけが残るなんて……! 我が国の最高級パティシエが作るお菓子でも、こんなに繊細な食感は不可能ですわ!」
みあ姉がクールな仮面を完全に崩し、頬を紅潮させて熱弁する。
「おいしい……! おいしすぎます、れなちゃん! この外側のサクサクした生地と、中から溢れる濃厚なクリームの組み合わせ、悪魔の食べ物ですわ……! 私、これなら一生食べ続けられます!」
おっとり癒やし系だったかりん姉の目が、完全に「日本のスイーツ中毒者」のそれへと変貌していた。
「ふふん、気に入ってもらえて何より。じゃあ、みあ姉にはこれがおすすめよ」
私はスイーツに感動しているみあ姉の前に、りく兄が読んでいたものとは別の、さらにドロドロの胸キュン少女漫画を差し出した。
「漫画……? 絵とお話が描かれた本、ですのね。どれ……」
みあ姉はケーキを食べながら、何気なくページをめくり始めた。
数分後――。
「な、何ですのこれは……!? 身分違いの恋に悩むヒロインを、学校の一番人気の男の子が背後から抱きしめて『俺じゃダメか?』だなんて……! あ、頭がどうにかなりそうですわ……! こんなの、我が国の淡白な夜会では絶対にあり得ません!」
クール美女のみあ姉が、少女漫画を両手で握りしめ、顔を真っ赤にしてソファの上をごろごろと転がり回り始めた。完全に「トキメキ」の過剰摂取である。
「……おいじゅり、お前の姉上を止めろ。れながあの奇妙な動きに怯えているだろう(※怯えていません)。れな、怖かったらこのりく兄の胸にいつでも飛び込んできていいんだからね!?」
「ハッ、相変わらずうるさいシスコンだな。れな、あんな奴の言うことは無視して俺だけを見ていろ」
じゅりはコタツに深く潜り込みながら、私のスウェットの裾をぎゅっと掴み、りく兄を冷ややかに睨みつける。私とお姉様たちが仲良く話しているのも、シスコンの兄が騒いでいるのも、すべてが気に入らない様子だった。
「ちょっと2人とも、引っ張らないで。……でもこれで、お姉様たちも完全に入り浸り決定ね」
コタツの中で少女漫画を読んで悶絶するみあ姉、無言でショートケーキを5個目に突入しているかりん姉、プロテインを飲むきりや兄、れなへの愛を叫びながらコタツから出られないりく兄、そして私の服を掴んで離さないじゅり。
私の秘密基地は、いつの間にか異世界の最高権力者たちの子供部屋へと変貌を遂げていた。
そしてこのカオスは、数年後、私たちの「両親世代」が参入してくることで、さらなる次元へと突入することになる。




