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第4話:5歳児の夜更かしと、恐怖の「お兄ちゃん」包囲網


「よっしゃあ! 格ゲー100連勝達成!」

「くっ……おのれれな、あと一歩で俺のコンボが決まるところだったものを……!」


新築一軒家のリビングでは、相変わらずれなとじゅりがスウェット姿でコントローラーを握りしめていた。

あの衝撃の乱入から2年が経ち、私たちは5歳になった。じゅりの格ゲーの腕前はプロゲーマー並みに成長していたが、前世の経験値を持つ私がなんとかプライドの壁でせき止めている状態だ。


2年間、じゅりは本当に約束を守り、この秘密基地の存在を誰にも漏らさなかった。

昼間の異世界では、相変わらず私をロックオンするじゅりの視線が最高に鬱陶しいけれど、ここに来れば身分抜きの良きゲーム仲間。


――そう、今日「あの2人」が突っ込んでくるまでは、完璧な平和だったのだ。


ガサガサッ!! ドスッ!!!


「ぶはっ!?」「うわっと!?」


突如、リビングのクローゼットの扉が勢いよく吹き飛び、中から折り重なるようにして2人の少年が床に転がり落ちてきた。

見事な銀髪に、一人はシュッとした美少年、もう一人は5歳にしては妙にガタイのいいわんぱく小僧。


「……り、リチャードお兄様!? キリアン!?」


私の異世界での実兄であり、エルグランデ公爵家の長男・リチャードと、次男・キリアンだった。


「……見つけたぞ、セレナ! 夜な夜な部屋から消えると思ったら、こんな怪しげな部屋に籠もって……って、ジュリアス殿下ぁ!? なんでそんな妙にだらしない格好をして、その黒い不気味な液体を飲んでいるのですか!?」


シスコンのリチャードお兄様が、驚愕のあまり裏返った声をあげる。

キリアンも「なんだこの動く四角いテレビは!? 幻影魔法か!?」と液晶画面を指さしてビビり散らかしていた。


どうやら、2年もの間、夜中に妹の部屋から不審な魔力の気配がすることに不信感を抱いた兄たちが、ついに今夜、強行突破でクローゼットに突っ込んできたらしい。


「チッ、目ざといハエどもが……」

じゅりが5歳児とは思えない極悪な低音ボイスで舌打ちをする。


「2人とも落ち着いて! じゅりも舌打ちしない! ここは私の固有魔法で作った『日本の家』。あっちの1時間はこっちの24時間なの。説明するから、まずその小難しい服を脱いでこれに着替えて!」


私は2年間で培った手慣れた手つきで、暴れる兄たちの高級服を剥ぎ取り、予備のキッズ用『スウェット』を無理やり着せた。


「な、なんだこの布の柔らかさは……! それに、この四角い机の中が異常に温かいぞ!?」

生まれて初めて『コタツ』という悪魔の家具を体験したリチャードお兄様が、カタカタと震えながらも、その圧倒的なぬくもりの虜になっていく。


「ここでは身分制度もナシ! タメ口限定! リチャードお兄様は『りく』、キリアンは『きりや』ね。ほら、このシュワシュワした『コーラ』っていう飲み物と、この『ポテトチップス』を食べて落ち着きなさい!」


「こ、これがこーら……? 毒ではないだろうな……モグ。……ッ!? な、なんだこの暴力的な塩気とサクサク感は! 止まらん、手が止まらんぞ!」

キリアン――改め『きりや』が恐ろしい勢いでポテチを貪り始める。りくもコーラを一口飲んだ瞬間、「脳の血管が拡張するような衝撃だ……!」と目を剥いた。


「ふふん、気に入った? じゃあ、2人にはこれね」


私は2人の前に、本棚から持ってきた日本の文化の結晶――『少年漫画』と『少女漫画』をドサッと置いた。チート能力のおかげで、この部屋にある日本語は彼らにも完璧に読めるようになっている。


筋トレと剣技が大好きな脳筋のきりやには、熱いバトルものの少年漫画。

普段から「完璧な騎士」として振る舞い、実はロマンチストなりくには、胸キュン全開の少女漫画。


「……なんだこの絵は。左から右に読むのか? ……いや、右から左か? どれ……」


最初は不審がっていた2人だったが、日本のエンタメの吸魔力は凄まじかった。

1時間後――。


「うおおおおお! なんだこの主人公は! 仲間を守るために限界を超えて覚醒するとか、熱すぎるだろおおお! この『ぷろていん』とかいう筋肉の聖水も最高だッ!!」

きりやはプロテイン(いつの間にか私が作った)を片手に、少年漫画を読みながら涙を流して大興奮。


「ひ、ヒロインの髪を結ぶ仕草だけで、こんなに心臓が跳ね上がるなんて……! 異世界の社交界のドロドロした恋愛劇とは格が違う……これが『トキメキ』というやつか……!」

りくはコタツに下半身を埋めたまま、少女漫画を胸に抱きしめて完全にノックアウトされていた。


「ハッ、チョロいな。これで完全に調教完了だ」

じゅりがコーラを片手に、勝ち誇ったような冷徹な笑みを浮かべる。


「ちょっとじゅり、言い方。……でも、これで秘密基地の仲間が増えたわね」

「ふん。れな、勘違いするなよ。人数が増えようが、お前の隣は俺の席だ。お前を一番に理解しているのは、俺だからな」


じゅりは私のスウェットの裾をぎゅっと握り、新参者の兄たちを冷ややかな目で牽制した。その独占欲は5歳にしてすでに手が付けられないレベルになりつつある。


こうして、秘密基地に「お兄ちゃん2人」が正式加入。

コタツ、プロテイン、漫画の魅力に完全調教された兄たちを加え、私たちの自堕落なオタクライフは、さらに賑やか(カオス)な方向へと加速していくのだった。


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