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第3話:約束のゲーム大会と、3歳児の歪んだ執着


「ほらじゅり、ガードガード! あー、もう遅い! はい私の勝ち!」

「くっ……おのれ、れな! 今の技は卑怯だ、出が早すぎる!」


新築一軒家のリビングに、コントローラーの小気味いいボタン音が響き渡る。

ジュリアスが秘密基地に乱入してきてから数日。驚くべきことに、彼は本当に毎晩、向こうの世界で夜が訪れるたびに私の部屋のクローゼットへとやってくるようになった。


3歳児が夜な夜な他人の屋敷に不法侵入(?)しているという事実はひとまず置いておこう。今の彼は、私のすっかり良き「格ゲー仲間」だ。


「はい、負けたじゅりはコーラの補充よろしくー」

「……ふん。パシリに使うなと言いたいところだが、この『秘密基地』の主はお前だからな。特別だ」


グレーのスウェットの袖を少し捲り上げ、じゅりはトコトコとキッチンへ向かう。

冷蔵庫を開け、慣れた手つきで新しい缶コーラを2本取り出して戻ってきた。


プシャッ。


手渡された缶を受け取り、冷たい液体を喉に流し込む。あぁ、今日もジャンクが美味い。


「それにしても、じゅりは本当に毎晩よく来られるわね。見回りの騎士とかに怪しまれないの?」

「あんな無能どもの目を盗むなど、造作もない。それよりも……」


じゅりはコーラをコクリと飲み、少し真面目な顔をして私を睨んだ。


「昼間の公爵邸でのことだ。お前、やはり俺から目をそらすだろう。他の令嬢のように、なぜ俺にすり寄ってこない」

「えぇ……。だって、あっちには大人たちの目がたくさんあるじゃない。じゅりにベタベタして『まぁ、セレナお嬢様と王子殿下はなんて熱熱あつあつかしら!』なんて言われたら、面倒くさいの極みよ」

「めんどう……くさい……?」


じゅりがピキリと固まる。

王族である自分との関わりを「面倒くさい」と言い切る令嬢など、この世界広しと言えども私くらいだろう。


「そうよ。あっちでは身分だの礼儀だのうるさいし。私は静かに、マイペースに生きたいの。だから、じゅりともここではこうして友達として楽しく遊ぶけど、あっちではただの幼馴染(他人寄り)ってことでよろしく」


私がポテトチップスをサクサクと食べながら軽い調子で言うと、じゅりの雰囲気が一瞬で変わった。

スウェット姿の3歳児のはずなのに、その紫色の瞳の奥に、ぞっとするほど冷たく、そしてドロドロとした暗い炎が灯る。


「……嫌だ」

「ぶふっ!? げほっ、げほっ……え、何が?」

「あっちでも、こっちでも、お前は俺だけを見ていればいい」


じゅりはコントローラーを床に置き、じりじりと私ににじり寄ってきた。

小さな手が、私のスウェットの袖をぎゅっと掴む。その力は、3歳児のそれにしては妙に強かった。


「俺は、お前が俺を無視するのが気に入らなくてここを突き止めた。だが、この場所を知って、お前のこの無防備な姿を知って……確信した。お前を他の男に渡すなど、絶対にあり得ない」

「ちょ、ちょっとじゅりさん? 顔が近いです」


綺麗なプラチナブロンドの髪が目の前に迫る。整いすぎている顔が至近距離に迫り、前世が女子高生オタクの私は思わずドギマギしてしまう。


「お前は俺に、この素晴らしくて恐ろしい『日本』という世界を教えた。……責任を取れ、れな。俺の知らないところで、他の奴にその面白い知識や、そのだらしない姿を見せることは絶対に許さない」

「だらしないって言うな!」

「あっちの世界でも、お前が他の男と一言でも楽しげに話したら……俺がその男をどう狂わせるか、分かったものではないからな」


フッと冷徹に微笑むじゅり。

笑顔は天使そのものなのに、言っている内容が完全に「ヤンデレの素質アリ」な重罪一歩手前のそれだった。


(待って。私、平穏なオタクライフのためにじゅりを手懐けたはずなのに、これ、もしかして一番怒らせちゃいけないタイプの男の、一番引いちゃいけないスイッチを3歳の時点で押しちゃったんじゃ……!?)


「わ、分かったから! あっちでも最低限の愛想は振る舞うわよ! だからその、目がマジなのはやめて!」

「……フッ、よろしい。約束だからな、れな」


私の焦る姿を見て満足したのか、じゅりはいつもの不敵な笑みに戻り、再びコントローラーを握りしめた。


「さあ、ゲームの続きだ。次は俺が勝つ!」

「う、受けて立つわよ……!」


こうして、私たちの奇妙な秘密基地ライフは、じゅりの歪んだ独占欲をすくすくと育みながら、次の段階へと進んでいくことになる。

まさかこの平穏が、数年後に「お兄ちゃんたち」が乱入してくることで、さらに大騒ぎの渦に巻き込まれるとは、この時の私はまだ、夢にも思っていなかった。


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