第26話:ハッキング完了後の日常と、リビングに集う最強の経営陣
ルシードという「続編のバグ」をシステムごと完全凍結(アカウント永久BAN)し、異世界の崩壊フラグを力技で上書き(オーバーライド)してから数日。
「――よし、異世界側の魔力波形は完全に安定。ルシードの残したバグ・パケットも、我が国の騎士団が物理的に全回収を完了した。お疲れ、れな」
「はぁぁ……本当に疲れた。もう当分、異世界で法律になるのはお腹いっぱいだよ、じゅり……」
ここは、見慣れた現代日本の我が家のリビング。
私はお気に入りの部屋着に着替え、ソファにもたれかかって盛大にため息を吐いていた。
隣では、ジュリアス(じゅり)が日本の最新ノートPCを膝に乗せ、流れるような手つきでタイピングしながら、異世界と日本を繋ぐクローゼットの『回線管理』を最終チェックしている。
あの王宮での大決戦のあと、私たちは大急ぎで日本の我が家へと帰還した。
なぜなら、異世界でどれだけ神々しいチート能力を発揮しようとも、私たちには「日本の高校生」としての日常――。
「ふむ。今回の異世界のシステムエラーの件だが……我が社が日本市場で展開している『高精度セキュリティソフト』の次期アップデートに、良いデータが取れたな、阿琉」
「左様ですな、皇さん。あの隣国の小僧が使っていた『規律縛りの魔導術』、あれは日本のパケット暗号化技術を応用すれば、さらに強固なファイアウォールとして商用化できます。我が社の株価がまた跳ね上がりますな」
カチャ、と小気味いい音を立てて冷えたビールの缶が合わされる。
リビングのダイニングテーブルに陣取っているのは、高級なスーツを完璧に着こなした、私の実の父親である阿琉パパと、皇さん(皇パパ)だった。
二人は異世界では国のトップでありながら、日本では「最先端IT企業の有能経営者トップ2」としてバリバリ働いているゴリゴリの現役社長だ。
王宮での威厳に満ちた覇気はそのままに、今は日本のタブレットやノートPCを流れるように操作しながら、今回の異世界の危機すら「新製品のテストマーケティング」としてビジネスの肥やしにしていた。
「あなたたち、日本に帰ってきてまで仕事の話ばかり持ち込まないでくださいな。せっかく真理と一緒に、デパ地下で美味しいお惣菜をたくさん買ってきたのですから」
「そうですよ、紗夜さん。ほら、れなちゃんの大好きな、日本の高級エビマヨも買ってきましたわよ」
エプロン姿でキッチンから現れたのは、紗夜ママと、私の母である真理ママだ。
二人は異世界では聖女級の光魔法を操る高貴な淑女だが、日本では美味しいお惣菜や限定スイーツのハントに命をかける、完璧に日本の生活に馴染みきった最強の主婦でもある。
「わあ、エビマヨ! お母様たちありがとう! ……あぁ、やっぱり日本のリビングが一番落ち着く……」
「おいじゅり、お前もPCを閉じてビール(こっち)を飲まんか。阿琉の持ってきたこの『日本の地ビール』、実によく冷えていて美味いぞ」
皇さんが満足そうにグラスを傾け、阿琉パパも「我が娘の初陣の後のビールは格別ですな」と、いつもの親バカな顔で目元を緩めている。
「……親父たち、リビングを完全に会社の第二会議室兼居酒屋にするのはやめてくれ。俺は今、れなとのラブコメのログ(時間)を最優先で確保しているんだ」
じゅりが冷徹なトーンでピシャリと言い放ち、ノートPCをパタンと閉じた。
チケットの確認から戻ってきた、りく兄たちもリビングに合流する中、じゅりはソファの上で完全に脱力している私の腰を、周囲の親たちの目も気にせずグイッと強引に引き寄せる。
「じゅ、じゅり……!? お父様たちの前で急に引っ張らないでよ、ハラハラするでしょ……っ!」
「気にするな。親父たちは今、ビールのパケット(アルコール)の処理で忙しい。それよりれな……さっきから他の男を強制終了した時の話を、楽しそうに思い出すな。お前の頭の中のメモリ(記憶)は、俺とのログだけで100%一元管理(満杯)にしろ」
じゅりの紫色の瞳が、ボロボロになりながらも私を守りぬいたあの戦場と同じ――いいえ、それ以上に狂おしいほどの独占欲でギラリと光り、私の耳元で酷く甘く囁いた。私のジャミングイヤリングに触れる彼の指先が、熱い。
「は、ハッキング完了したからって、独占欲まで限界突破アプデしないでよ……!」
私が顔を真っ赤にして扇子(日本のうちわ)で顔を隠すと、ダイニングからは「若い国交は盛んで良いことですな」「じゅり、有能な経営者は囲い込みのスピードも速いな」と、お父様たちのからかうような笑い声が聞こえてくる。
異世界の王宮での命懸けの総力戦。
そして、日本の我が家のリビングでの、賑やかでちょっと贅沢な日常。
IT企業の社長として前線で無双する親世代と、世界の法律を上書きした最強の悪役令嬢、そして限界突破した少年の異常な防衛独占欲。
すべてのキャラクターが濃すぎて、どこに行っても平穏とは程遠い私たちの二重生活は、異世界のシナリオすら力技でハッキングし、現代日本の美味しいビールとお惣菜をエネルギーにしながら、これからも最高にドタバタで甘い未来へと突き進んでいくのだった。




