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第24話:神のシナリオの強制力と、蹂躙される王宮の守護者たち


「――『破滅のシナリオ:第一章。悪役令嬢を庇う愚者は、その魔力を失う』」


ルシードが、歌うように冷酷な『規律』を口にしたその瞬間だった。

ジュリアスが両手に練り上げていた、部屋の空気を蒸発させるほどの圧倒的な極大炎魔法が、まるで最初から存在しなかったかのように、シュン……と一瞬で霧散した。


「な……っ!? 術式が、根こそぎ分解された……!?」

ジュリアスが驚愕に紫色の瞳を見開く。それだけではない。彼の身体から力が抜け、激しく咳き込みながらその場に片膝をついた。体内の魔力を直接強制終了シャットダウンされたかのような、凄まじい反動がジュリアスを襲っている。


「ジュリアス!! 嘘,そんな……ジュリアスの魔法が触れることもできずに消されるなんて……っ!」

私が慌てて彼の体を支えようと駆け寄るが、ルシードの紫色の瞳が、冷徹に私たちを見下ろす。


「不届き者が……我が王宮でこれ以上の暴挙、断じて許さん! リチャード、キリアン、アルテミシア、カトリーヌ! 直ちにその侵入者を囲み、無力化せよッ!!」


廊下から飛び出してきた国王陛下の、大地を震わせるような鋭い大号令が会議室に轟いた。その絶対的な王命とともに、我が国の最強戦力である兄姉たちが一斉に動く。


「御意――!!」

白銀の甲冑を翻した長兄リチャードが、大夜会の余韻も吹き飛ばすスピードで間合いを詰め、その聖剣をルシードの首筋目掛けて一閃する。

同時に、次兄キリアンが背後を完全に塞ぎ、アルテミシアとカトリーヌが、部屋の全方位からルシードの退路を断つ極大の呪縛魔法を展開した。


寸分の狂いもない、国王の命令のもとに訓練され尽くした王宮騎士団の波状攻撃。


しかし、ルシードは避ける素振りすら見せなかった。ただ、冷たく目を細める。


「――『破滅のシナリオ:第二章。王国の守護者たちは、神の呪縛に平伏す』」


ルシードの足元から、異世界の文字が歪に連なったドス黒い大魔法陣が爆発的に広がった。

そこから這い出した無数の「漆黒の鎖」が、光の速度でのたうち回り、リチャードの聖剣を、キリアンの拳を、アルテミシアたちの魔法陣ごと一瞬にして縛り上げた。


「くっ……!? なんだ、この理不尽な重圧は……っ! 身体の自由が、完全に奪われて……!」

武を極め、あれだけ頼もしかったリチャードが、剣を持ったまま床へと叩きつけられる。キリアンも、アルテミシアたちも、敵の放つ「続編の強制力」という絶対的な規律の前に、指一本動かすことすらできずに拘束されてしまった。


「お兄様たち……っ! アルテミシア姉様、カトリーヌ姉様!!」

悲鳴を上げる私の前に、今度は陛下と、王妃サリア、そして我が父アルベルト公爵と母マリアーヌが立ちはだかる。


「これ以上の身勝手は、このエルグランデの名にかけて容赦せぬぞ、隣国の雛鳥が!」

「王妃様、マリアーヌ、陛下をお守りしつつ、奴の結界を物理的に消滅させるぞ!」


エドヴァルト陛下とアルベルト公爵が、王家に代々伝わる国宝級の魔導具を掲げ、空間そのものを震わせる絶対的な滅びの雷撃を放った。王妃サリアとマリアーヌの放つ、大夜会でレイチェルを浄化した聖女の極大光魔法が、その雷撃に重なり、部屋全体が真っ白に染まるほどの破壊の奔流がルシードへ肉薄する。


これならいける――そう思った。けれど。


「無駄だと言っている。この世界は、新たなヒロインと、俺の手によって『上書き』されることが決まっているのだから」


ルシードが指をパチンと鳴らす。

その瞬間、陛下たちの放った絶対的な雷撃も、母上たちの聖なる光も、ルシードに触れる直前で、まるでガラス細工のようにパリン、パリンと小気味いい音を立てて砕け散り、虚空へと霧散していった。


「嘘……私たちの光魔法が、完全に相殺……いいえ、存在自体を拒絶されている……!?」

マリアーヌが信じられないものを見る目で絶句し、王妃サリアの杖がカラランと床に転がる。

次の瞬間、黒い茨が容赦なくエドヴァルト陛下たちとアルベルト公爵たちの身体を絡めとり、その莫大な魔力を根こそぎ吸引し始めた。


「ぐはっ……!」「国王陛下……っ!」

いつもは威厳に満ち、絶対的な強さを誇っていた父上たちが、膝から崩れ落ち、荒い息を吐きながら床に倒れ込んでいく。


「父上! 母上!! みんな、みんな……っ!!」


静まり返った王宮の会議室。

あれだけ最強を誇り、私をいつだって守ってくれていた家族の全員が、ルシードの持つ「続編の強制シナリオ」という理不尽な暴力の前に、完璧に戦闘不能へと追い込まれてしまった。


立っているのは、私だけ。

端正な顔を悔しさと痛みに歪ませ、全身から血を流しながらも、なお私をルシードの視線から隠そうと、ボロボロの手で私のドレスの裾を掴み、必死に前に出ようとするジュリアスの姿。


「セレナ……逃げ……ろ……。こいつは、今までの奴とは、格が……」


ルシードが、宙からゆっくりと私の目の前へと降り立った。その顔には、圧倒的な勝者の余裕と、冷酷な笑みが浮かんでいる。


「さあ、終わりだ、バグの悪役令嬢セレナ。お前たちがいくらこの世界の運命を歪めようと、シナリオの絶対的な力には逆らえない。お前たち家族の存在ごと、ここで世界から消去してやろう」


ルシードの手元に、空間そのものをドス黒く腐らせるような、絶対的な滅びの魔力球が形成されていく。


ハラハラなんてレベルじゃない。

頭が真っ白になり、心臓がバクバクと狂ったように警鐘を鳴らす。

――でも、倒れゆく家族たちの姿を、ボロボロになっても私を守ろうとするジュリアスの手を握り締めた瞬間、私の恐怖は、限界を突破した猛烈な「怒り」へと書き換わった。


(ふざけないでよ…….せっかくみんなで、泥臭くたって最高に温かくて楽しい毎日を過ごせるようになったのに…….それを、続編だかシナリオだか知らないけど、そんな理不尽な上からのルールで、私の大切な家族を傷つけて、全部めちゃくちゃにしようなんて――絶対に、絶対に許さないんだから……!!!)


「……セレナ……?」

ジュリアスが私の変化に気づき、息を呑む。


私の全身から、異世界の常識である光や闇の概念をすべて過去にするような、圧倒的で神聖な**【純白の魔力の奔流】**が爆発的に噴き出した。


私の瞳が、世界の全魔力構造を視認する金色へと輝き、足元から王宮全体、いや、この異世界の空間そのものを包み込むほどの巨大な多重魔法陣が、轟音を立てて展開していく。その光に触れた瞬間、王宮を埋め尽くしていた漆黒の茨や鎖が、悲鳴を上げるように一瞬で消滅していった。


「な、んだこの圧倒的な魔力量は……!? 貴様、ただの悪役令嬢のはずだぞ……!?」

初めてルシードの顔から余裕が消え、明らかな「戦慄」が走る。


私はルシードを真っ整に見据え、ドレスの裾を翻して、力強く言い放った。


「シナリオがなんだっていうの。ルールは守るものじゃないわ。――ここからは、**私がこの世界の法律ルールだよ**」


ずっと空気のように隠されていた、私の世界を書き換える真のチート能力。

大切なみんなを救うため、悪役令嬢セレナの反撃が、今ここで幕を開ける。


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