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第23話:乙女ゲーム続編『覚醒』と、理不尽な神のシナリオ


「――おかしい。最下層監獄の結界に、見たこともない歪みな魔力波形が混ざり合っている」


華やかな社交界デビュー(大夜会)の翌朝。

昨夜の狂乱が嘘のように静まり返った王宮の緊急会議室で、ジュリアス(じゅり)は眉間を深く険しく寄せて床を見つめていた。

手にした特製の通信魔導石が、不気味に赤く明滅している。


昨夜、私の実の母親であるマリアーヌ(真理ママ)と、王妃サリア(紗夜ママ)の放った極大の光魔法によって、怨念の魔力を強制終了シャットダウンされ、最下層の特別監獄へと引きずられていった元聖女レイチェル。

これで全てが終わった――誰もがそう安堵していたはずだった。


だが、異世界の魔力の流れを色として観測できる私の『目』には、王宮の地下深くから、血のようにドス黒い不気味な霧が、じわじわと這い上がってくるのがハッキリと見えていた。


「セレナ、俺の側を離れるな。……リチャード、キリアン。今すぐ監獄の警戒レベルを最大に引き上げてくれ。何かが、来る」

「ああ、分かっている。すでに王宮騎士団の第一部隊を地下へ向かわせた」


白銀の甲冑を纏った長兄リチャード(りく兄)が、いつもとは違う冷徹な戦士の顔で腰の聖剣に手をかける。

その隣では、次兄キリアン(きりや兄)と、魔法の杖を構えたアルテミシア(みあ姉)、カトリーヌ(かりん姉)が、緊迫した表情で部屋の四隅を警戒していた。


――ズズ……ズズズズズ……ッ!!!


その時、地鳴りのような重低音が、王宮の分厚い大理石の床を激しく震わせた。


「な、何この揺れ……!? こんな風に王宮が揺れたことなんて一度もないのに……っ!」

私が思わずジュリアスの腕にしがみつくと、彼は私を背中に隠すようにして前に出る。


ガガガガガッ!と激しい音を立てて、会議室の壁にピキピキと無数の「亀裂」が走り始めた。

驚くべきことに、その亀裂の隙間から溢れ出してきたのは、生き物のようにのたうつ「漆黒の呪いの茨」だった。それは壁の神聖な絵画を侵食し、瞬く間に美しい部屋を闇の色へと塗り替えていく。


「退け! 全員、部屋の中心から離れるんだ!」

リチャードの鋭い怒号が響く。

同時に、廊下の重厚な扉を開け、圧倒的な威厳を放つ国王陛下(皇パパ)と、我が家の家長であるアルベルト公爵(阿流パパ)が飛び込んできた。


「ジュリアス、セレナ! 無事か! 監獄へ向かわせた騎士団の全ログ(通信)が、一瞬にして途絶した。レイチェルではない、もっと強大で理不尽な『規律』が、王宮の防壁を物理的に外側から破壊している!」

高級な礼服を翻した阿流パパの言葉に、私の血の気が一気に引いていく。


前世の記憶が、頭の奥で激しく警鐘を鳴らしていた。

レイチェルを隔離したことで、世界のシナリオが強制的に次のフェーズへ移行してしまったのだ。

これこそが、乙女ゲームの大型アップデート――続編【悪役令嬢の逆襲・漆黒の隣国王子編】の、あまりにも早すぎる幕開けだった。


バリバリバリィィィン!!!と、部屋の美しいステンドグラスが、内側からの凄まじい魔力圧によって木っ端微塵に弾け飛んだ。

吹き荒れる突風と、視界を遮るほどのドス黒い魔霧。


その霧の向こう、宙に浮かぶようにして、一人の少年がゆっくりと舞い降りてきた。


漆黒の豪奢なローブを纏い、夜の闇を溶かしたような黒髪を風に揺らしている。

そして、冷酷にきらめく紫色の瞳が、雛壇にいる皇パパたち、そして私を、まるでゴミを見るかのような冷徹さで見下ろしていた。


「――やはり、この国の『規律』は酷く歪んでいるな。バグの温床(悪役令嬢)を野放しにし、世界のシステムを弄ぶ不届き者どもめ」


少年の低く冷たい声が、会議室の空気を一瞬で凍りつかせる。

彼こそがゲームの続編のメイン攻略対象であり、古代の滅びの魔導を操る隣国の王子、**【ルシード】**。


「我が王宮のド真ん中に土足で踏み込んでおいて、随分な言い草だな、不審者」

ジュリアスが一歩前に出、その手に網の目のように緻密で美しい「極大の炎魔法」を練り上げ始める。その温度は一瞬で部屋の空気を蒸発させるほどだった。


「ただの隣国の王子が、我が国の絶対防壁を破ってここまで来られるはずがない。……その身体に纏っている禍々しい魔力、一体どこから引き出した?」

「知る必要はない。これより、神の定めた『破滅のシナリオ』を執行する」


ルシードが冷酷に口角を上げ、スッと片手を掲げた。

その指先から、異世界の常識を遥かに超えた、空間そのものを歪ませるほどの紫色の光の規律が、じわじわと部屋全体へと広がり始める。


これまでのレイチェルとは格が違う。

物理的な暴力と、世界そのものを縛り付ける理不尽な魔導。

最強のはずの家族たちに囲まれているのに、肌がピリピリと痛むような、かつてない圧倒的な「ピンチの予兆」が、私たちの目の前で音を立てて膨れ上がっていった。


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