第20話:16歳、初めての「がくえんさい」の企画書と、聖女のバックドア奇襲
「――れな、ここの『クラスの出し物』のシフト表、バグがある。何で俺の隣の枠に、サッカー部の男の名前が入ってるんだ?」
「バグじゃないよ! シフト担当の委員長がランダムで決めたの! じゅり、もうすぐ高校生活最大のイベント『学園祭』なんだから、そこまで一元管理しないでよ!」
「ランダム(偶然)などという不確定要素を俺のクラス(システム)に持ち込むな。今すぐ我が社のメインフレームを叩いて、シフトの最適化(書き換え)を行う」
「クラスのシフト表を高校のサーバーごとハッキングしようとしないで!?」
夏の暑さが本格的になってきた、**【16歳(高校1年生)】**の7月。
日本の高校の教室では、期末テストも終わり、誰もがそわそわと「学園祭(文化祭)」の準備に追われていた。
私は念願だった「クラスでお揃いのTシャツ」や「出し物の買い出し」という、これぞ花のJKというイベントに胸を躍らせていたのだが、じゅりの独占欲の防壁は学園祭の熱気すら完璧に遮断しようとしていた。
ブレザーを脱ぎ、白い制服のシャツの袖をまくったじゅりは、私のシフト表のプリントを冷徹に見つめながら、手元のスマホのキーボードをパチパチと叩いている。
そんな平和で、ちょっと呆れるような日本の放課後の教室に、突如として**【けたたましい警告音】**が鳴り響いた。
私のカバンの中からではない。じゅりが机の下で開いていた薄型ノートPCから、真っ赤なエラーログが滝のように溢れ出していた。
「……何だと? 我が社の第一防壁が、内側から強制解除された……!?」
じゅりの紫色の瞳が、かつてないほど鋭く見開かれる。
「えっ、じゅり、どういうこと!? 秘密基地のサーバーが破られたの!?」
私が慌てて画面を覗き込むと、そこには異世界の文字と現代のプログラムコードが歪に融合した、おどろおどろしい「ハッキング画面」が浮かび上がっていた。
* **ハッキング画面の表示(送信元:教会の地下書庫):**
『みーつけた。冷たい文字の悪魔さんたち。あなたたちが繋いでいた「見えない魔力の通り道(回線)」を逆探知して、そっちの世界の扉をこじ開けてあげたわ……! さあ、私を拒絶したジュリアス殿下、リチャード様、キリアン様……私をこんな泥まみれの部屋に閉じ込めた罰、たっぷりと味わいなさい……!』
「レイチェルちゃん……っ! 禁呪の魔導書を使って、本当にこっちのハッキング網を逆流してアクセスしてきたんだ……!」
画面の向こう、魔力の暴走で髪を振り乱したレイチェルは、血の滲む手で魔導陣を叩き、こちらのサーバーを物理的にパンクさせようと、凄い「呪いのパケット」を送りつけてきていた。
「ただの異世界の人間が、執念だけでシステム構築に成功したというのか……。だが、詰めが甘いな。我が社のメインサーバーへ完全に侵入される前に、防壁を直接叩く! れな、大急ぎで家に帰るぞ!」
じゅりはノートPCをひったくるように閉じると、私の手を強く握り、夕暮れの通学路を全力で走って、日本の我が家(秘密基地)のリビングへと飛び込んだ。
リビングへと滑り込むと、そこはすでに緊迫した「戦場」と化していた。
「れな、じゅり! 戻ったか! モニターから見たこともねぇ黒い魔力が噴き出してて、みあが……アルテミシアが、それを結界で抑え込んでくれてる!」
リビングでは、日本のラフなTシャツ姿のリチャード(りく兄)が、必死にサーバーの電源ケーブルをまとめながら叫んでいた。
「ジュリアス、れな、遅いですわよ! この不躾な聖女のハッキング(呪い)、我が王家の神聖魔術を現代の『セキュリティパッチ』として上書き処理していますけれど……少々、魔力の出力がしつこいですわ……っ!」
みあ姉(アルテミシア姉さん)が、日本のお土産のアニメ扇子を魔法の触媒(杖)代わりに構え、モニターから漏れ出る黒い霧のようなバグ魔力を、その気高い結界魔法で完全に相殺していた。異世界では完璧に冷たくあしらわれたレイチェルだったが、まさか裏で「王女殿下が直接防壁を張っている」とは夢にも思っていないだろう。
「おい、じゅり! 俺のプロテインの電動シェイカーが、あの泥女の電波障害のせいで勝手に高速回転して止まんねぇんだけど! 物理でモニター叩き割っていいか!?」
続いて部屋の奥から、キリアン(きりや)が暴走するシェイカーを抱えて怒鳴り込んできた。その後ろからは、カトリーヌ(かりん姉)が「きりや、落ち着いて」とお守りを掲げてついてくる。
「キリアン、物理破壊はログが消える。待て。……れな、俺の膝の上に座れ」
「えっ、この緊急事態に何言ってんの!?」
「お前が隣にいないと、俺のタイピング速度(コード生成)が1.5倍低下する。防衛システムを再起動させる。邪魔なバグを、今度こそ完全にデリートするぞ」
じゅりは私を自分の椅子のすぐ横(というかほぼ密着状態)に引き寄せると、凄まじい速度でキーボードを叩き始めた。
みあ姉の魔導結界で足止めされているレイチェルのアクセスログを、じゅりの現代IT技術がミリ単位で強制遮断していく。
「――終わりだ、レイチェル・フォン・教会聖女。お前のアクセスIP(魔導波形)を完全に特定した。教会の全サーバーに、お前の『禁呪使用の証拠ログ』を匿名で逆転送してやる」
じゅりがエンターキーを強く叩いた瞬間、リビングを包んでいた黒い魔力が、シュン……と音を立てて完全に消滅した。
同時に、異世界の立体マップのログに、一つの確定通知が書き込まれる。
* **異世界側の最新ログ:**
聖女レイチェル、禁忌魔術による王宮サーバーへの不正アクセス(呪詛未遂)が教会本部に発覚。即座に魔力を拘束され、地下書庫からさらに深い『最下層の特別監獄』への移送が決定。
「はぁ……。レイチェルちゃん、せっかく自力でITの概念までたどり着いたのに、じゅりの逆カウンターで完全に国家反逆罪になっちゃったじゃん……」
私がぐったりとソファに倒れ込みながらポツリと呟くと、じゅりは私の制服の裾をぎゅっと力強く握り締め、画面を「学園祭のシフト表」へと戻した。
「当然の結果だ。世界のシステムを弄んでいいのは、れな、お前を守る俺たちだけだ。……さて、異世界のバグ取り(聖女の完全隔離)は終わった。次はこの、お前の隣にいるサッカー部の男をシフトからデリート(排除)する作業に戻るぞ」
じゅりは満足そうに私の肩に頭を預け、冷たいコーラを喉に流し込んだ。
16歳の夏、学園祭前夜のサイバー魔導戦。
異世界のヒロインの命懸けの逆ハッキングすら、完璧な王女の結界と、少年の異常な執念(IT技術)の前に完全シャットダウンされてしまう。私たちの現実に全力で周囲ドン引きな二重生活は、さらなる純愛の結界を強固にしながら、次なる楽しい「日本の学園祭」へと突き進んでいくのだった。




