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第19話:16歳、花のJK(と男子高校生)の秘密の放課後と、始まった聖女の「ログ解析」


「――れな、ここの連立方程式の解き方、ちょっと美しくない。もう一度僕が教えた数式でログ……じゃなくて、ノートを書き直して」

「じゅり、もう学校の放課後なんだから、そこまでスパルタしなくても! 念願の高校生になれたんだから、ちょっとくらい青春っぽいことさせてよー!」

「俺と同じ高校の、同じクラスで、こうして放課後の教室で2人きりで残っている。これ以上の青春システムがどこにあるんだ?」


桜の季節が過ぎ、初夏の風が吹き抜ける、**【16歳(高校1年生)】**の放課後。

日本の真新しい高校の制服に身を包んだ私は、夕日の差し込む教室で、じゅりにガチガチの「数学の居残り補習」を課されていた。


無事に高校生(花のJK)になれたのは最高に嬉しいけれど、じゅりの独占欲と管理体制は、高校に入ってさらにバージョンアップしていた。何しろ、席替えの確率すらハッキングして、3回連続で私の隣の席をキープしている徹底ぶりである。


(ま、まあ、制服姿のじゅりがかっこよすぎて、たまにノートを見る目が泳いじゃうのは秘密なんだけど……)


グレーのパーカーを制服のブレザーの下に着込んだじゅりは、相変わらず冷徹で端正な横顔のまま、私のノートにサラサラと赤ペンを入れていく。


そんな甘酸っぱい(?)日本の放課後を過ごしていると、私のポケットの中で、異世界と直結したスマートフォンが「ブブッ」と短い警告音アラートを鳴らした。


「――来たか、れな。勉強はここまでだ」

じゅりの紫色の瞳が、一瞬で『第一王子』の冷徹な光へと切り替わる。

じゅりが手元の薄型ノートPCを開くと、画面には、あの日本の我が家(秘密基地)のメインフレームから転送されてきた「異世界のリアルタイム監視ログ」が映し出された。


* **聖女レイチェルの最新ログ(位置:教会の地下書庫):**

「……やっぱりそうだわ。あの日、リチャード様たちから微かに感知した魔力の揺らぎ――これはこの世界の神聖魔法でも、古代魔術でもない。『外の世界』の、規則正しく並んだ冷たい文字コードの気配……。面白いわ、私をハメた見えない悪魔さん。あなたたちの『ノイズ』、今度は私の方から解析ハッキングしてあげる……!」


画面の向こう、薄暗い地下書庫で、レイチェルは怪しく光る『禁呪の魔導書』を開きながら、なんとこちらが仕込んだピンバッジの「ジャミング電波」の波形を、魔力を使って羊皮紙に書き写していた。

ゲームの強制力に頼るのをやめた彼女は、己の執念でこちらの「テクノロジー」の存在を察知し、文字通り「逆ハッキング」の基礎を独学で構築し始めていたのだ。


「じゅり、これマズくない!? レイチェルちゃん、自力でITの概念にたどり着こうとしてるよ……!?」

「ふん、ただの魔力出力を『波形』として捉えただけだ。だが、あの女が世界のシステムを逆行分析リバースエンジニアリングしにかかっているのは確かだな。……我が社のセキュリティを舐められたものだ。れな、学校を出て一度自宅(秘密基地)へ戻るぞ。姉さんたちも呼んである」

「う、うん! 青春の放課後が、一瞬でサイバー戦争のブリーフィングになっちゃった……!」


私たちは急いでカバンをまとめると、夕暮れの通学路を急いで走り、日本の我が家(秘密基地)のリビングへと帰宅した。


「おかえり、れな、じゅり! 学校お疲れ!」

リビングのソファには、すでに異世界からクローゼットのゲートを通って、日本のラフな私服に着替えたリチャード(りく兄)とアルテミシア(みあ姉)が待機していた。


「りく兄、みあ姉! 異世界側で、レイチェルが何か怪しい動きをしてない!?」

私が尋ねると、みあ姉は日本のお気に入りのアニメ柄マグカップをテーブルに置きながら、気高くも真剣な表情で頷いた。


「ええ、れな。学園の地下書庫の周りで、最近妙な『魔力の共鳴』が観測されているの。あの娘、地方への左遷処分を教会の権力で無理やり引き延ばして、ずーっとあの暗い部屋に籠もっていますわ。……リチャードが様子を見に行った時も、酷く不気味な様子だったとか」

「おう。俺が公務の巡回で地下書庫の前を通った時、中から『コードが……コンパイルが……』とかいう、聞いたこともねぇ不気味な呪文の呟きが聞こえてきてさ……。あいつ、完全に別の意味でヤバい魔女になりかけてるぞ。もちろん俺は、一切関わらないように足早に通り過ぎたけどな!」

りく兄が腕を組んで、身震いしながら語る。異世界の騎士として完璧なスルーを維持しつつも、レイチェルの「闇堕ち(理系女子化)」には恐怖を感じているようだった。


「おー、2人とも学校おわり? じゅり、こっちのプロテインの新作、水に溶けやすくて最高だわ」

続いて部屋の奥から、キリアン(きりや)がボトルを振りながら冷蔵庫から炭酸水を取り出す。後ろからは、カトリーヌ(かりん姉)がウサギのお守りをぎゅっと握ってついてきた。


「きりや、あの聖女の魔力のせいで、あなたのお守りの結界は弱まっていないかしら……?」

「あ? んなわけねぇだろ。かりんがくれたこのお守り(守り刀)の結界は、俺の筋肉と同期してっからな。あの泥女がどんなおどろおどろしい呪文を唱えようが、俺の前じゃただの電波の無駄遣いだわ。なぁ、じゅり、あの女がハッキングとかいうの仕掛けてくるなら、俺が物理でその魔導書を叩き割ってきてもいいんだぞ?」

きりやがぶっきらぼうに拳を鳴らすと、かりん姉は「ふふ、きりやが物理で守ってくれるなら安心ね」とおっとり微笑んだ。


身内の純愛の結界は相変わらず鉄壁だが、モニターに映るレイチェルの「逆解析ログ」の進行度は、確実にパーセンテージを上げていた。

乙女ゲームのシナリオをハッキングで破壊されたヒロインは、今度は「魔法」を「IT」へと変換し、私たちの二重生活の基盤そのものを脅かそうとしている。


「はぁ……。ゲームのシステムを壊したら、今度はサイバー戦になっちゃうなんて、どんな学園生活よ……」

私が画面を見つめながらポツリと呟くと、じゅりは私の制服の裾をぎゅっと力強く握り締め、ノートPCの画面に防壁の強化コードを恐ろしい速度で打ち込み始めた。


「言ったはずだ、れな。世界がどうシステムを書き換えようが、お前を悪役令嬢ターゲットにはさせない。……それに、せっかく始まった俺とお前の高校生活(青春)を、あの女のバグごときに邪魔されてたまるか。向こうがログを解析してくるなら、こちらはそのさらに上を行く『偽装プロトコル』で、レイチェルの脳内ごとハッキングしてやる」


じゅりは満足そうに私の肩に頭を預け、冷たいコーラを喉に流し込んだ。

16歳の夏、花の高校生活の裏で幕を開けた、異世界のヒロインとの「魔法×IT」の本格ハッキング戦争。

現実に全力でウブなロイヤルファミリーによる、周囲ドン引きの徹底防衛ライフは、世界の理すら超えた次なる泥沼の頭脳戦へと突入していくのだった。


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