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第13話:14歳、ハッキング網に引っかかった「勘違いヒロイン」の履歴書


「じゅり、これ……日本の家のパソコンに転送されてきたログだけど、マジで言ってる?」

「ああ。教会の極秘サーバーから引っこ抜いた『聖女候補』の個人データだ。名前はレイチェル。日本の年齢でいうと、俺たちと同じ14歳だな。……ふん、一応目を通したが、実に反吐が出るほど中身の薄い履歴書だ」

「中学生の時点で他人の履歴書を裏からハッキングして品定めする王子、嫌すぎるんだけど!?」


日本の我が家のリビング。

塾の夏期講習から帰宅し、ピンクのもこもこスウェットに着替えた私は、冷たいコーラを飲みながら、じゅりがリビングの大型モニターに映し出した「異世界の機密データ」を仰ぎ見ていた。


画面に表示されているのは、異世界の教会が厳重に隠蔽していたはずの、例の『神託の聖女』の顔写真(※魔導カメラで隠し撮りしたもの)と詳細なステータス。

黒髪をハーフアップにした、いかにも王道乙女ゲームのヒロイン然とした可憐な美少女――レイチェルの写真の横には、じゅりの手によって詳細な「分析結果」が日本のフォントで書き加えられていた。


* **名前:** レイチェル(14)

* **保有魔力:** 『無差別魅了(強制パッシブスキル)』

* **教会の目的:** 王宮に送り込み、ジュリアス皇太子をはじめとする有力貴族の子息を籠絡。王家を意のままに操るためのマリオネットとする。

* **本人の現状:** 自分が『世界の中心の特別ヒロイン』だと信じて疑わない、重度の勘違い思考。すでに教会の上層部数人を魔力でメロメロにして調子に乗っている。


「じゅり……これ、完全にアウトなやつじゃない。この『無差別魅了』って魔力、すれ違うだけで男の思考を奪うレベルのチート呪詛だよ? 対策はあるの?」

私が青ざめて尋ねると、グレーのスウェット姿のじゅりは、コーラの缶をコトッとテーブルに置き、酷く冷淡で、それでいて酷く楽しげな笑みを浮かべた。


「対策などとっくに終わっている。父親たちが開発した『対魔導結界・ノイズキャンセラー』を仕込んだ特製ピンバッジを、すでに王宮の全騎士、全使用人に配布済みだ。もちろん、我が公爵家と王家の人間にもな。あの女の魅了魔力など、我が社の最新IT結界の前ではただの微弱な電波障害にすぎん」

「対応が早すぎて草も生えない」


さすがはすべてをハッキング済みのロイヤルファミリー&公爵家。

乙女ゲームのシナリオが牙を剥く前に、現代技術と魔法のハイブリッドで、完全にヒロインの牙を抜く準備を整えていた。


「ただいまー……。あちぃ……日本の夏、マジで殺人的だな……」

「お帰りなさい、りく兄、みあ姉。ほら、冷たい麦茶がありますわよ」


そこへ、玄関のドアが開いて、近所のコンビニから帰ってきたリチャード(りく兄)とアルテミシア(みあ姉)が、汗をかきながら入ってきた。

2人とも日本の私服姿で、お互いにちょっと距離をあけつつも、なんだかソワソワした空気を醸し出している。


「ありがとな、かりん。……ん? なんだ、そのモニター。あ、例の教会の回し者の女か?」

麦茶をごくごくと飲み干したりく兄が、モニターのレイチェルの写真をジロリと睨む。


「ええ、そうですわ。このレイチェルとかいう小娘、ハッキングされたプライベート日記のログによると、王宮に乗り込んで『冷酷な第一王子と、その側近の銀髪騎士様を私の虜にしてみせる』と意気込んでおられるようですわよ。……身の程知らずにもほどがありますわ」

みあ姉がツンと鼻を鳴らし、少し面白くなさそうにアニメグッズの扇子をパタパタと仰いだ。


「は? 俺を虜にする? バカ言え、俺が命を懸けて守るのはれなだけだし、俺の目が向くのは……その、いつも余計な世話を焼いてくる、どっかのうるさい王女様だけだっての……っ」

「なっ……!? り、りく兄、あなた今、何を言っていらっしゃいますの……!?」


りく兄が顔を真っ赤にしてボソッと呟くと、みあ姉も一瞬で顔をゆでダコのように真っ赤にして、扇子でバタバタと顔を隠した。

向こうの世界では「王女と近衛騎士」という身分違いの2人だが、こっちのラブコメ文化に毒された結果、レイチェルの魅了魔力が届く前に、身内の純愛の波動だけでお互いを完全ロックオンしていた。


「あーあ、お兄様たちがまたウブなことやってる。ねえきりや、かりんにアイス、ちょっと一口ちょうだい」

コタツの横で、この前かりんから貰ったピンクのウサギのお守りをプロテインのポーチにちゃんとしがみつかせているきりやのスプーンから、かりんが当然のようにアイスを奪い取る。


「あ! お前何すんだよかりん! 俺が一番楽しみにしてたメロン味を……! チッ、しょうがねぇな、じゃあお前の持ってるイチゴ味と交換な」

「ええ、いいわよ。はい、あーん」

「あー……って、自分で食えるわボケ!」


きりやも口では文句を言いながら、かりんとの距離感が完全に「付き合いたての中学生カップル」のそれである。


「はぁ……。レイチェルちゃん、可哀想に。王宮に乗り込んできても、攻略対象の男たちが全員『別の重い波動』で埋まってるなんて、夢にも思ってないでしょうね……」

私がポツリと呟くと、じゅりは私のスウェットの裾をぎゅっと力強く握り締めた。


「あの女が誰をターゲットにしようが知ったことではない。だが、もし万が一にでもおれなに不快な思いをさせたら――その時は、教会のサーバーごとあの女の社会的地位を文字通り『デリート』してやる」


14歳の夏。高校受験の足音が近づく裏で、私たちは着々と「勘違いヒロイン来襲」の迎撃準備を整えていた。

すべてをハッキング済みの私たちが、異世界の学園という表舞台で、彼女をどのように「完全スルー」してドン引きさせるのか。その運命の歯車は、じゅりの歪んだ笑顔とともに、静かに回り始めていた。


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