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第12話:14歳、異世界の「よるのこうむ」と、ハッキングで暴かれた不穏な聖女の影


「ジュリアス様、お願いですから王宮の晩餐会で、私のグラスに注がれるジュースすべてに『毒見の魔導鑑定』を乱発するのやめてください。給仕の騎士が怯えてお皿を落としそうになっていますわ」

「当然の義務だ、セレナ。……ハッキングデータによれば、最近の教会や一部の貴族の動きが妙にキナ臭い。お前に一滴でも不純物を口にさせるわけにはいかないからな」

「だからって、睨みつけるだけで給仕を気絶させかけるのは完全にやりすぎなのよ!」


きらびやかなシャンデリアが輝く、異世界の王宮の白亜の大ホール。

私は豪奢なドレスの裾を気にしながら、隣に立つプラチナブロンドの美少年――今や王宮内でも「氷の天才第一王子」と恐れられるジュリアスに、周囲に聞こえないよう声を潜めて抗議した。


私たちは日本の年齢でいうと**【14歳(中学3年生相当)】**。

日本の家で受験勉強やスウェット生活を満喫している裏で、向こうの世界では立派な「第一王子」と「公爵令嬢セレナ」である。当然、定期的に開催されるこうした格式高い夜会や公務には、完璧な社交界の仮面をかぶって出席しなければならなかった。


(……まぁ、ジュリアスの仮面は、私への歪んだ独占欲で今にも割れそうなんだけどね)


ジュリアスは完璧な王族の微笑みを浮かべながらも、机の下で私のドレスの袖をぎゅっと握り締め、周囲の若手貴族たちをその紫色の瞳で冷徹に威圧し続けている。


そんな中、ジュリアスがそっと私の耳元に顔を寄せた。


「――セレナ、例の『ハッキング作戦』の件だ。日本のデータセンター経由で、教会の秘密通信の暗号を完全解読した」

「えっ……?」


一瞬でジュリアスの瞳から温度が消え、底知れない暗い光が宿る。

私たちの父親たちが日本で設立した会社が開発した「魔導×IT」の未来ハッキングシステムは、すでにこの世界のあらゆる機密情報を掌握しつつあった。


「どうやら教会が、近々『神託の聖女』と称する特異な魔力を持った少女を擁立し、王宮へ送り込んでくる手はずを進めているらしい。……その少女の魔力特性は『周囲の人間を無条件で魅了する』という、極めて不自然で悪質なものだ」

「それって……」


私の背中に、ゾクりと冷たいものが走った。

周囲の男を無条件で魅了する、教会が仕掛けてくる聖女。前世がオタクである私の脳裏に、ある最悪な予感がよぎる。それってまるで、典型的な『乙女ゲームのヒロイン』の登場シーンそのものではないか。


「企みなど何であれ関係ない。その少女がこの王宮の門をくぐった瞬間、我が社のセキュリティシステム(現代技術の盗聴器&防犯カメラ)で一挙一動を完全監視し、身動き一つ取れないように外堀を埋めてやる。……俺の世界にお前以外の女は必要ないし、お前に害をなす要素は、その根っこごと社会的に抹殺するだけだ」

「ジュリアス、顔がマジで暗殺者のそれになってるから……!」


重すぎる独占欲をたぎらせる王子に冷や汗を流していると、「これはこれは、ジュリアス殿下、セレナ」と、ホールの壁際から格式高い声がした。

見れば、豪華な近衛騎士の礼服を着こなした美しい銀髪の少年――私の実の兄である公爵家長男のリチャードが立っていた。


「殿下、セレナの周囲の警護、このリチャードめもお手伝いいたしましょう。不審な男が妹に近づかぬよう、いつでもこの聖剣(※日本の自宅では木刀)を抜く構えはできております!……ぶふっ!?」

「うるさいですわよ、リチャード。公務中に大声で騒ぎ立てないでくださる?」

背後から現れた、豪奢なフリルのドレスをまとった王家の長女・アルテミシア王女に頭をはたかれ、リチャードがうめき声を上げる。身分はアルテミシア様の方が上なのだが、日本のコタツでの「りく兄とみあ姉」のパワーバランスが完全に出てしまっている。


「な、なんだよアルテミシア王女! 俺はただセレナを……」

「セレナにはジュリアスがついておられますわ。それより……その、今日のあなたの礼服、ほんの少しだけ、日本の漫画に出てくる『黒騎士の誓い』のヒーローに似合っていなくもありませんわね……っ」

アルテミシアが顔を真っ赤にして扇子で口元を隠すと、1個年上のリチャードも「な、何言ってんだよ……」と耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。王女と公爵家長男のウブすぎるラブコメである。


「はぁ、お姉様方はいつもこれ。ねえキリアン、カトリーヌのこのドレス、日本のファッション雑誌を参考にしてお母様に作ってもらったの。どうかしら?」

そこへ、王家の次女であるカトリーヌが、私のもう一人の兄――公爵家次男のキリアンのドレスの袖を突っつきながら歩いてきた。


「あ? ……チッ、まぁ、悪くねぇんじゃねぇの。王宮のクソ重い一世代前のデザインよりは、そっちのシンプルなのに筋肉……いや、ラインが綺麗に見えるドレスの方が、お前には似合ってるよ。……ほら、他国のおっさん貴族がこっち見てるから、俺の影に隠れてろ」

同い年であるキリアンが顔を真っ赤にしてぶっきらぼうに呟き、カトリーヌを自分の広い背中の後ろへと引き込む。日本のきりやとかりんと同じく、遠慮のない呼び捨ての距離感のまま、完全に周囲に純愛空間を撒き散らしていた。


日本のサブカル知識と甘酸っぱいラブコメの波動に狂わされている公爵家と王家の兄姉たちは、この華やかな王宮の夜会でも、周囲の貴族たちから「何だあの尊い空間は……」と遠巻きに戸惑われていた。


「はぁ……みんな王宮でも相変わらずね……。早く帰ってスウェット着たいわ……」

私が小さく呟くと、ジュリアスは私のドレスの手袋の上から、さらに強くその手を握り締めた。


「そうだな。公務が終われば、すぐに日本の我が家(秘密基地)へ帰ろう。コーラも冷やしてある。お前はただ、俺の隣でだらしなく笑っていればいいんだ、セレナ」


ジュリアスは満足そうに微笑み、その紫色の瞳の奥で、ハッキングデータに映る『教会』の座標を冷徹にロックオンした。

14歳の夜、華やかな公務の裏で、ついに動き出した異世界の不穏なシナリオ。すべてを先回りしてハッキング済みのロイヤルファミリーによる徹底抗戦の幕開けは、すぐそこまで迫っていた。


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