第10話:13歳、お馴染みの「がっこうぎょうじ」と、兄姉たちのウブな恋模様
「じゅり、次の『合唱コンクール』の自由曲、私たちのクラスは『COSMOS』に決まったよ。じゅりは今年も伴奏オーディション受けるんでしょ?」
「ああ。お前がアルトパートで歌うなら、俺のピアノの音色ですべてのパートを支配し、お前の歌声だけを完璧に引き立ててみせる。……だが、指揮者の男がさっきからお前をチラチラ見ているな。本番中にあいつの指揮棒を爆破してやろうか?」
「真面目に指揮の練習してるだけだから! 爆破したらクラス失格になっちゃうでしょ!」
中学校の音楽室。私は放課後の居残り練習中に、ピアノの前に座るじゅりを必死に小声でたしなめた。
小学校の入学から数えてもう7年目。私たちは日本の年齢でいうと**【13歳(中学2年生相当)】**になり、日本の学校行事の立ち回りもすっかり手慣れたものになっていた。
じゅりのチート魔力と前世(?)の英才教育にかかれば、ピアノの難曲などお遊びレベル。小学校の学芸会や音楽会でも無双してきたじゅりは、相変わらず私の周りの男に「威圧」を放ちながらも、鍵盤を叩く姿は王子そのもので、クラスの女子たちは遠巻きに黄色い悲鳴を上げている。しかし、その中身は日本の少女漫画の知識を歪んで吸収した結果、「れな専用の伴奏マシーン」と化していた。
「ただいまー……」
「おかえり、れな! じゅり!」
無事に部活と合唱練習を終え、日本の我が家(新築一軒家)の玄関を開けてリビングへと入ると、もこもこのスウェット姿の兄姉たちがコタツを囲んでいた。向こうの世界(異世界)からクローゼットを通って、すでにこちらの家に先回りしてくつろいでいたらしい。
そこには、少女漫画を広げて顔を真っ赤にしているみあと、それを覗き込もうとして突き放されているりく兄の姿があった。
「ちょっとみあ、その『図書室で先輩と手が重なるページ』を読んだからって、なんで俺の顔を見て顔を赤くしてんだよ!? 気持ち悪いな!」
「うるさいですわ、りく兄! あなたのような筋肉スッカラカンの見習い騎士と、この漫画の素敵な先輩を重ね合わせてなどいませんわ! ただ、その……向こうの世界の訓練帰りに、あなたが私の落としたハンカチを拾ってくれた時を、ほんの少し思い出しただけですわ……っ!」
「はぇ!? は、ハンカチ……!? あ、あれはただ足元に落ちてたから……!」
みあがフイッと顔を背けると、普段は重度のシスコンであるはずのりく兄が、なぜか耳まで真っ赤にしてソワソワと頭を掻き始めた。向こうの世界では騎士と令嬢というウブな関係の2人。日本の少女漫画のシチューションが現実とリンクしてしまい、完全にキャパオーバーを起こしているらしい。
「あーあ、お兄様たち、本当にウブで見ていられませんわね。ねぇきりや、かりんのこの新しく買った『ヘアピン』、どうかしら? 漫画のヒロインみたいに可愛くって?」
コタツの対面で、金髪のかりんが自分の前髪をいじりながら、おっとりと首を傾げた。
「は? 筋肉の邪魔。っていうかお前、さっきからそのピンが気になって腹筋の回数数え間違えてんだろ。……まぁ、その、変じゃねぇよ。異世界のクソ重いティアラよりは、そっちの安いプラスチックの方が、お前には似合ってんじゃねぇの」
プロテインを飲む手を一瞬止め、きりやが顔を背けながらぶっきらぼうに呟く。
「なんですってきりや! かりんのティアラをクソ重いなんて言わないで!……でも、似合ってるなら、毎日つけてあげるわ」
「……勝手にしてろよ」
同い年のきりやとかりんも、文句を言い合いながらもお互いの距離がやたらと近い。日本の「甘酸っぱい日常」に狂わされているのは、どうやら私とじゅりだけではないようだった。
「はぁ……みんなこっちの世界の文化に毒されすぎて、ラブコメの波動が凄いわね……」
私がピンクのもこもこスウェットに着替えながらコタツに潜り込むと、隣に滑り込んできたグレーのスウェット姿のじゅりが、当然のように私の真隣にぴたりと体を密着させ、コーラを2缶開けた。
「他人の恋模様などどうでもいい。れな、お前の世界に必要な『男』は、俺一人で足りているはずだ。合唱コンクール本番、他の男の声など掻き消すほど、俺のピアノでお前を包み込んでやる」
じゅりは13歳らしい少し骨張ってきた手で、私のスウェットの裾をぎゅっと力強く握り締め、満足そうにコーラを喉に流し込んだ。
中学2年生の学校行事と、秘密基地で密かに巻き起こる兄姉たちのウブな恋模様。私たちの自堕落な二重生活は、それぞれの執着と甘酸っぱさを孕みながら、さらにディープな日々へと進んでいくのだった。




