第9話 王様が殺された状況を調べました
いやがる私の後ろからリンターロ隊長がついてきて、兵士たちが休んでいる粗末なテントの中にいっしょに入ってくる。
すると、隅っこで負傷した頭を休めるために、地べたに敷いた布の上で横になっていたアーテナと、その看病をしているユリアンがいたので、二人から話を聞くことにした。
周囲を見回して小声で、
「アーテナ、王様が襲われたときの様子を、リンターロ隊長がくわしく教えてほしいんだって」
そう私が小声でささやくと、まだ具合が悪そうだったけど、体を起こして、話をしてくれた。
「実は、ほとんど覚えていないの。
あのときは、闘技大会を観覧した後、休憩する部屋に移動して、王様を護衛していたら、急に外が騒がしくなって。警護の兵士たちが外に様子を見に行ったんだけど。
戻ってこないので私も外の様子を見に行こうとしたら、いきなり後ろから短剣で頭を殴りつけられたみたいで……。
その衝動で倒れた後に、さらに強く殴られたか、蹴られたかして、気を失ってしまって。
そのあとは何も覚えていないの」
と申し訳なさそうに、悔しそうに教えてくれた。
不意打ちでも、アーテナがそんなにあっさり倒すなんて、暗殺者はそうとうな実力者なんじゃないかな?
「ユリアンは、どうだった?」
とリンターロ隊長が聞くと、
「私は、王様といっしょにベッドで寝ていたんだけど。
突然物音がして、気が付いたときには黒装束の男がアーテナを盾にして、ソーニアと対峙していて。
それでアーテナをソーニアのほうに押し出して、ソーニアが受け止めたところを、黒装束の男がソーニアのしかかって、もみ合ってて。
王様は、お酒を飲まれて寝てしまってて、騒ぎになっても起きなかったので、慌てて起こそうとしたんだけど……。
そうしたらソーニアを刺し殺した男が、王様にのしかかって、やっと目覚めた王様が抵抗して黒頭巾やマスクをむしり取ったんだけど、首を刺されて……。
で、男が首から引き抜いた短剣を私のほうに向けて、『死にたくなかったら、私が去るまで声を出すな』って言って、あっと言う前に去っていったの……」
と言って、たたまれた黒頭巾とマスクを取り出した。
「これが、王様が暗殺者ともみ合っててむしり取った頭巾とマスク」
えー! それって暗殺者のものなの?
「これって暗殺にかかわる大事な証拠じゃない!
どうしてユリアンが持っているの!?」
「あのときは、みんな逃げるのに精いっぱいで、それどころじゃなくて。
王様じゃなくて影武者が死んだことになったから、今まで誰にも話を聞かれることがなくて、そのまま持っていたの。
このマスクが取れたんだけど、顔を黒く塗っててて、どんな顔かはわからなかった。
それで、暗殺者が去った後に、警護の兵士たちが部屋に戻ってきて。
そのすぐ後に、ヨーコとリンターロ隊長の二人が部屋にやって来たの」
と言って、「これ、王様の形見になっちゃた」と小さい声で付け加えた。
王様とソーニアを刺し殺した短剣については、黒装束の男が抜いて持ち去ったそうだ。
わかったのは、暗殺者は一人で、黒装束とマスクで、どこからともなく現れた……。
やっぱり、城の中にいた人間が手引きしたんじゃないかな?
じゃないと、警備の兵士の目を盗んで侵入できなくない?
あるいはどこかに抜け穴とかがあったとか……?
それで、警備していた兵士たちにも話を聞くことにしたけど、その一人が今は王様になっているわけで、話を聞きづらい。
観覧席後ろの部屋で警備をしていて、王様が入れ替わっている事情を知っている兵士(当然口止めされている)にだけ話を聞くことにして、その兵士たちがいるテントに向かって、テントの外に呼び出した。
「あの時は、王様が闘技場での試合を観戦し終えて、王様が酔い過ぎてしまったので、観覧席の後ろにある部屋で、ユリアン様といっしょにお休みになっていました。
観覧関の後ろの部屋も、ぐるりとグンペーイ王国の兵士たちが囲んでいたので、すっかり油断してしまって……。
部屋の中で警護していると急に周りが騒がしくなって、『反乱だー!』という声が聞こえたので、様子を見るために部屋を出た、その一瞬の出来事でした……」
と、リンターロ隊長から質問された兵士が答える。
続けて他の兵士が、
「本当に一瞬でした。
我々が部屋に戻った時には、すでにアーテナとソーニアが床に倒れていて、ベッドの上で血まみれになった王様に、黒い布を握りしめたユリアンがすがり付いていたんです」
と、後悔しても仕切れないような表情で、状況を教えてくれた。
二人とも暗殺者はもちろん、凶器の短剣も見てないそうで、部屋を離れてすぐに戻ったものの、もう王様の命は尽きていたそうだ。
こんなふうに、兵士たちから王様が暗殺されたときの状況を聞いていた、その時だった。
「きゃー!」
「うわー!」
「敵だ! 敵だー!」
と言う声が向こうでする!
魔王の森の入り口のほうだ!
敵襲!? ブゴニア国の人たちは魔王の森を恐れていて中に入ってこられないんじゃなかったの?
まだそれほど森の奥深くじゃないからか!?
あわててテントを飛び出して、様子を見に騒いでいるほうに駆け付けると、確かに敵の兵士がいる!
でも、なにか様子がおかしい!?
生気を失った様子の敵兵がゆっくりぞろぞろとこちらに向かって歩いてくる。あれっ!その中に、味方の兵士も? 捕まって、向こうの兵士になったのかな?
その様子を見たリンターロ隊長がうめく。
「アンデッド……!」
アンデッド? アン・デッド? 死なない? それってゾンビってこと?
えっ、こっちにぞろぞろと歩いてくる兵士たちは、ひょっとして死体なの?
死体が動いているのー!?
兵士の姿をした人影たちは、暗闇の中で、スピードは遅いものの、確実にこちらに迫ってくる。
仲間の兵士たちが切りかかっているけど、それも関係なしに進んできて、兵士たちがその隊列に呑み込まれてしまっている。
「攻撃やめ! アンデッドに剣は無駄だ。油をかけて火をつけろ!」
とリンターロ隊長が指示を出す。
それで、兵士たちが油をかけて火をつけたけど、ぜんぜん量が足りないみたい!
敵の兵士たちは、体の一部を燃やしながらも、そのままこちらに歩いてくる。
「急いで荷物をまとめて、森の奥を進め!」
と指示を出しながら、松明をアンデッドたちに向けて足止めをする、リンターロ隊長!
よーし、私も!
そう思ってペンダントを握りしめて、パーンチ!
すると、手から光の力がでて、目の前のアンデッドをふっとばした!
だけど、その後ろからゾロゾロとやってくるので、もーきりがない!
そのまま、こちらの軍勢の一番後ろでリンターロ隊長や数人の兵士といっしょに足止めをしながらも魔王の森の奥に進む。
森の中は、今のところモンスターとか出てこないけど、大丈夫かな!
そう思いながら、しばらく突き進むと、
「ギャーーーー!!!」
という大きな叫びが先に逃げているはずの味方の軍勢から! 今度はいったいなんなのー!?
「ド、ドラゴンだ!! 助けてー!」
ドラゴン? ドラゴンってファンタジーによく出てくる、あのドラゴン!?
この森には、そんなものまでいるんだ!
あれっ? どっかでそんな話を聞いたっけ?
前を走っていた軍勢が、一目散にこちらに戻ってきたけど。
ドラゴンだかなんだか知らないけど、みんなー! 逃げないで戦わないと!
そう思って、戻ってきた兵士たちをかき分けて先頭まで走って、ペンダントをかざして光らせると……。
その光ぐらいでは、すべての姿をかざすことができないぐらい、巨大な、山のようなドラゴンが、目の前にそびえ立っていた。
その時、後ろからかけつけてきたリンターロ隊長が、「ま、魔王……」とつぶやいて、その正体を教えてくれる!
えー! 魔王って巨大ドラゴンなの! 聞いてないよ~!
左手にペンダントを持ちつつ、腰の剣を右手で抜く。
上半身と下半身を、ビキニ・タイプの鉄の鎧で隠しているだけで剣を握って、ドラゴンに向き合ってるわけなんだけど。
こ、これは、私の人生、終わったかも。




