第10話 魔王に会いました
いま、目の前にいるドラゴンと対峙しているんだけど。
後ろからは、アンデッドの大群が味方の兵士を蹴散らしながら迫ってきている。
どうしよう!
すると、目の前のドラゴンの口が大きく開いて、「ごごごごー!」と息を吸い込んだと思ったら、私の頭越しに「ぶわぁーーーー!」って火の玉を吐き出した!
火の玉は、味方の兵士たちを巻き込みながらも、アンデッドたちの一群が固まっているところまで飛んで、アンデットたちを吹き飛ばした!
吹き飛んだアンデッドたちがメラメラと燃えているところに、味方の兵士たちがとどめを刺しにいく!
えっ、ドラゴンが私たちを助けてくれたの?
ドラゴンって、アンデッドたちのボスなんじゃなかったっけ……。
そして、ドラゴンがまた口を大きく開き、今度は手前にいる私たちに向かって炎を吹き出しそうな感じに!
思わず、胸元のペンダントを握りしめて、
『私、死んじゃうのー!』
と頭の中で叫んだ!
すると! ドラゴンが火を吹くのを止めた!
そして、
『鉄の鎧を着た少女よ。お前は、私とやり取りできるのか?』
と、私に話しかけてきた。
えっ! ドラゴンって人と会話できるの?
あれっ? でもドラゴンの口は動いていない。
これって、会話をしているんじゃなくて、頭の中に直接話しかけてくる感じのやつ?
まわりを見回してみたけど、私以外はみんなおびえているだけで、ドラゴンの声は聞こえてないみたい。
それで再びペンダントを握りしめて、ドラゴンに向かって、
『私は、異世界から来た者、異世界転移者です。
だから、魔王様の言葉がわかるのかもしれません』
と頭の中で答えてみると。
『そうか。私の言葉がわかるなら、話は早い。さっさとここを立ち去るがよい。
いますぐ炎で焼き殺してもいいのだが、逃げ回る小さなお前たちを一匹ずつ殺していくのも面倒だ。
早々にここを立ち去るのなら、見逃してやろう』
と言ってくる。
えー、見逃してくれるのはラッキーなんだけど、でも……。
『私たち、敵に追われてこの森に逃げ込んだので、森を抜けて反対側に出たいんです!』
とお願いしてみたんだけど。
ドラゴンはまったく興味なさそうに、
『私は、疲れているのだ。
さっさと立ち去らないと、気分が変わってお前たちを炎で焼き尽くすことになるぞ』
なんて、恐ろしいことを言ってくる。
だけど、ここで引き下がったら、私たちはおしまいだ。
『あのー魔王様。なぜそんなに疲れているんですか?
なにか、お悩みごとでもありませんか?
もしかしたら、異世界から来た私なら、なにかお助けできるかもしれません』
と、ダメもとで言ってみる。
すると、苦し紛れで言ったことがドラゴンの心を動かしたみたいで、何かを考えている様子に。少ししてから、
『鉄の鎧を着た少女よ。名はなんと言うのだ』
『ヨーコです』
『ではヨーコよ。
……聖女、お前たちの国に聖女と呼ばれる者がいないか?』
と聞いてきた!
聖女? 聖女って神様の使いか何かかな? 異世界転移してきたときに王様の横にいた、スケスケの布を着た女性が、確か聖女って呼ばれてたよな?
うん、たぶん、あの人だ。いや、絶対にそうだ!
『います! います! この森を抜けた先にあるグンペーイという国に住んでいます!』
と私が答えると、ドラゴンが「ふぅーっ」っと、深~いため息を吐いて、また少し何かを考えている。
そのとき、アンデッドの残党を倒したリンターロ隊長が近づいてきた。
「ヨーコ、なにをやっているんだ!
魔王が動かない今がチャンスだ! 逃げるぞ!」
「しっ、いま魔王様とお話ししているの!」
「はあ? 何を言っているんだ、お前は」
「しーっ、黙ってて。いまこのペンダントを使って、ドラゴンとやりとりして交渉してるんだから!」
とリンターロ隊長に言う。
そこで、考えごとをしていたようなドラゴンが、意外なことを話し出した。
『鉄の鎧を着た少女よ、私はもうすぐ死ぬことになる。
そして、これまでは、そのたびに新しい体に生まれ変わってきた。
そうやって、私は何千年も生き残ってきたのだが。
生まれ変わるためには、それを助ける聖女の存在が必要なのだ。
ヨーコよ。聖女をここまで連れてきてくれないか』
はぁ? どういうこと?
『私は、魔物の王として、この森を統治するという命を神から受けて、この世界に生まれてきたのだ。
そして千年ごと、私の寿命が尽きるときに、生まれかわりの儀式を聖女の助けを借りて行い、そのままこの森で、魔物たちの統治を続けてきた。
そして、いままさに、私の寿命がもう少しで尽きようとしている。
生まれ変わるためには、聖女の力が必要なのだ。
だが、大昔は私と人との間にも少しの交流があったのだが、それも数百年前に途絶えてしまった。
私はあまりにも長い時間を生きてきて、最近は生きる気力がなくなっていてな。
聖女の協力を得られなさそうだったから、このまま消滅してもよいか、と思っていたところだったのだ。
そこに、お前が現れた。これは、神がまだ私に生きろと言っているのかもしれない』
なんか、急に壮大な話になったんだけど!
急に身の上話を始めたドラゴンにとまどいながらも、「これはチャンスだ」と思って、
『あの、それなら、聖女を連れてくるために、いったんこの森を抜けさせてもらえますか?』
と私がおねだりしてみると。
ギロっとドラゴンが私をにらんで、
『本当に聖女を連れてこられるなら、この森を抜ける方法を教えよう。
だが、適当なことを言って逃げようとしても不可能だぞ!』
そういうと、ドラゴンは巨大な腕をゆっくりと持ち上げて、巨大な指先を私のほうに差し出してきた。
ペンダントを握り締めながら、差し出された三本の巨大の指のうち、真ん中の指の爪先をおそるおそるチョンとすると、その瞬間、体に電撃が走ったかのような衝撃が!
『いまお前と私は見えない糸でつながった。これで、いつでもお前を殺すことができる。
七日の猶予をやろう。この森を抜け、七日以内に聖女をつれてくるのだ。
それができなければ、お前の命は私がもらう!』
えー! そんなのありー!
まあ、でも今ここで焼かれるよりはましなのか……。
この話に乗るしかないよね? と横のリンターロ隊長を見ると、いつのまにかペンダントを握りしめて話を聞いていたリンターロ隊長が会話に入ってくる。
『魔王様、一つ、教えてほしいことがございます。
あなたは先ほど、アンデッドの群れを焼き払いました。
アンデッドを守るべき立場のあなたが、なぜ私たちを助けるようなことをしてくれたのでしょうか?』
『お前は何者だ』
『リンターロと申します。隣にいるヨーコとともに、この森の外にあるグンペーイ王国で、王様に使える兵士です』
『リンターロよ。アンデッドは魔導師が人間の死体を操っているもので、私の民ではない』
と、意外と親切に答えてくれる。
『魔導師ってなに?』と私が聞くと、
『魔導師は人間だったものが、闇の力で魔物になったものだ。そのせいか、人間への憎しみが強い』
とリンターロが答えてくれた。
『私は、人間などどうでもいいのだが。
この世の理は、光が生まれて、闇が生まれた。
闇だけの世界では魔物も長くは生きられない。
そのため、神から命を受けたドラゴンが、人間と魔物のバランスを取る役割を与えられているのだ。
だが、魔導師たちはそれが気に食わないらしい。
そして、どうやら魔導師たちの一部が、私の力が衰えていることに気づいて、この森を乗っ取ろうと画策しているようなのだ』
「それかー!」
とリンターロ隊長が突然叫ぶ! うるさいなー!
「どうしたの?」
「いや、さっきブゴニア国が反乱を起こしたのが変だって話したじゃないか。
その理由がわかったかもしれない。
今回の反乱の裏で、その魔導師たちが手を引いているんじゃないか?」
うん!? どういうこと?
「魔導師たちなら、こっそり闘技場に侵入して王様を暗殺できるかもしれないってこと?」
「そうだ。そして、それだけじゃない。
ドラゴンが生まれ変わるタイミングを狙って、今回の反乱を起こしたんだ。
これは、なにかもっと大掛かりな陰謀を企んでいるのかもしれない」
なんて話をしていると。
突然ドラゴンが片手を上げて、前に差し出すと、地上すれすれのところで、三本の指の真ん中で、私たちに向かってゆっくりと円を描いた。
すると、なんと! 垂直に描かれた円の形に沿って、空間が抜けたようになって、円の中には、明るいどこかの土地が見えている!
『これは「ゲート」と言って、空間と空間をつなげる穴だ。
私が創ったこのゲートは、魔王の森の反対側の入口につながっている。
つまり、お前たちの国まですぐたどり着ける場所だ。
聖女を連れてくる日数を7日間にしたのは、このゲートが閉じるまでの時間だ。
ゲートが閉じるまでに、私のもとに聖女を連れて戻ってこい。
この約束を果たせなかったときが、お前の命が尽きるときだと思え」
そういうと、ドラゴンは目をつむると、その場に巨大な体を投げ出して、眠りについてしまった。
それで、私たちは、混乱したその場を招集し、その場で亡くなった兵士たちを弔い、仕度を整えると、円の形に光っているゲートをおっかなびっくりくぐり抜けたんだけど。
そこは、ドラゴンが言っていた通り、魔王の森の反対側の入り口で、グンペーイ王国のはじっこのほうにつながっていたのだった!




