第8話 偽国王から夜の相手に呼ばれました!
ブゴニア国での反乱から、魔王の森を抜けて、グンペーイ王国への帰還を目指すことになった私たち。
森の中は真っ暗で、月も星も見えず、時間もよくわからないけど、ひとまずこの場で仮眠をとることになったんだけど。
そうしたら王様から、なんと! 夜のお相手として、私が呼ばれることになって!
そんなことしている場合かー! あ、でもそのほうが王様らしいのか。そして、警護のためにリンターロ隊長も呼ばれる。
昼間の闘技場での試合からずっと来ていたビキニ・タイプの防具を脱ぎ捨てて、お風呂はないので、いまは貴重な水を使って布で体を拭いて、薄くてスケスケの白い服に着替える。
そして、王様の寝室になっているテントに入っていくと、ドレイクとリンターロ隊長が待っていた。
「王様、失礼します。夜の相手をしに伺いました。
あのー、こういうこと、やっぱりしないといけないんでしょうか?
だったら恥ずかしいから、せめてリンターロ隊長には外で警護していただきたいんですが……」
と私が言うと。
ドレイクが苦笑いしながら、
「ヨーコ、あなたの光の力で吹き飛ばされたりしたくないから、私は君をどうこうするつもりはないよ。
夜の相手に呼んだのは、ヨーコとリンターロ隊長の二人に話したいもらいことがあって、そのカムフラージュのためだ」
そ、そうですか。よ、よかったー(涙)!
それで、さっきまで王様の豪華絢爛な衣装を身に着けていたドレイクだったけど、今は上半身が裸で下半身に薄いお召し物をつけているだけなんだけど。
あれっ、胸に大きなやけどの跡が……。
つい、じっとそのやけど後を見つめてしまったんだけど。
そうしたらドレイクが、
「ああ、このやけどの跡を見るのは初めてだったかな? 気になるか?
……女剣闘士なら、ユリアンの胸の入れ墨のことは知っているよね?
私も、ユリアンと同じブゴニア国の出身で、護衛の任務に就く前は奴隷だったんだ」
と驚きの告白が!
「数年前に、ブゴニア国がグンペーイ王国に敗北して属国になり、兵士だった私は戦場で捕虜になって、そのまま奴隷になったんだ。
そして、奴隷剣士として闘技場に出るはずだったんだけど、顔や背格好、そして年が近いということで、王様の影武者になることになってね。
そのとき、胸に入れられた入れ墨を火で焼かれたのだ」
とこともなげに、王様口調のまま教えてくれた。
そうなんだ……って、いやー胸を火で焼かれたんだ! ひっどくない!
やっぱり、この世界は野蛮すぎるよ!
国のために戦って負けて奴隷になって、敵国の王の影武者になるなんて、今日までどれほど大変な想いをしてきたんだろう。
思いがけず聞いた、ドレイクの過酷な身の上話に何も言えないでいると、ドレイク自身はそれほど気にする様子もなく、話を続けた。
「二人に話したかったのは、私が『いつまで生きられるのだろうか?』ということだ。
本当なら、王様の代わりに死ななければいけなかった私が生き残って、王様が死んでしまった。
私がいるかぎり『グンペーイ国の王が死んだ』と宣言できないブゴニア国はもちろんだが、王様を死なせてしまった私のことを、王妃や貴族たちは許さないだろう……」
と言って、黙り込む。
私がなんて答えようかと思っていると、リンターロ隊長が、
「いや、意外と生きられるんじゃないかな?
いま、グラーデウス王が暗殺されたことがわかると、王国中が大混乱になる。
もし、アグリーナが無事に王国にたどり着けて子供が無事に生まれて、その子どもを王妃が養子にしたとしても、大きくなるまでの期間を埋めるための王が必要だ。
そしていま、グラーデウス王の親族や貴族たちの中に、後継者となれそうな有力な人物がいない。
かといって、王妃様が王様の代理になることも、他の貴族連中が簡単には認めないだろう。
そう考えると、生まれた子どもが大きくなるまで、ドレイクが本物の王様だということにしておくのが、いろいろと都合がいいと王妃様たちが考えるかもしれない」
と答える。
「なるほど、そうなれば私は、数年間は生き延びれるのかな」
と苦笑いしながら語るドレイク。
「……実は、カーウラ将軍は前から王妃様と通じているようで、信用できないからアグリーナといっしょに逃げてもらったのだ。
アグリーナとカーウラ将軍が無事に国までたどり着けるのか。あるいは我々がたどり着けるか。今後のことはそれからかもしれない。
それでは、このまま偽装して、魔王の森を抜けて、帰国をめざそう」
と言うと。
さらに真剣なまなざしで、
「それまで、私が偽物と言うことがわかっては、まずい。
あくまで、私をグラーデウス王として扱ってくれないか」
と私たち二人にお願いしてきたので、もちろん了解し、お互いに熱い握手を交わしたのだった。
ということで、私は夜の相手はしないですんだから、もうテントを出て自分のテントに戻って帰ろうかと思ったら、リンターロ隊長が、
「ドレイクをこのまま本物の王として生かすために、一つ、いや二つの謎を解かないといけないな」
なんて言い出す。
「二つの謎って?」
「一つは、『王様を殺した犯人は誰だ』ってことだ」
「えっ、犯人は暗殺者でしょう?」
「それは、実行犯だろ?
問題は、暗殺が『誰からの指示だったのか』と言うことだ」
「えー、それは今回反乱したブゴニア国のだれかじゃないの?」
「むしろ、そうだといいんだが。
……いま、この軍勢の中にも犯人の仲間がいるかもしれない」
「えっ、それって暗殺は王国の内部の人間の指示だってこと?」
と私が聞き返すと、
「反乱に合わせて王様を暗殺したと考えるのが、自然なのかもしれない。
だが、反乱を起こすなら、暗殺なんて手を使わずに、力づくで王様を殺しにきても良かったんじゃないか。
実際、計算外のヨーコの大活躍がなければ、おそらく王様も影武者も両方とも殺されていただろう。
俺は、暗殺について、王国内部の人間による犯行も疑うべきだと思う。
さっきはドレイクの前だったから『王様が死ぬと困る連中が多い』ということにしたけど、同じぐらい『王様に死んでほしいと思っている連中』が城にはうじゃうじゃいるはずだ」
とそこまで話したところで、少し迷った顔をしたリンターロ隊長は、何かを決心した顔で私を見つめて、「それともう一つ」と話を続けた。
「今回のブゴニア国の反乱自体が不自然なんだ。
だからこそ、反乱による暗殺説が疑わしい」
「えっ、占領された国が反乱を起こすなんて、普通にあることじゃないの?」
「グンペーイ王国とブゴニア国とは長年争っていたんだが、数年前にブゴニア国が力負けして属国になったんだ。
主だった王族や貴族は処分されて、今のブゴニア国には大規模な反乱を起こせるだけの戦力も、反乱の後ろ盾になる他国の支援もないはずだ。
なのに、反乱が起こり、ブゴニア国にいるスパイからの報告では反乱が成功して、グンペーイ王国に対して、国境いでの戦況を広げようとしているらしい。
数年前に制圧された辺境の小国が、大国と互角に争おうとして無謀すぎる反乱を仕掛けたわけだ。
……だからこそ、裏で誰かが反乱軍を操っているとしか俺には思えないんだ」
と、胸の内に秘めていた疑問を、私に話してきた。
「まあ、だけどまずは『一つ目の謎』を解くことから始めよう。
遅い時間になってすまないが、明日の朝、森の反対側を目指して出発してからでは関係者に話を聞ける機会がないかもしれない。
いまから聞き取り調査を行うから、ヨーコ、手伝ってくれ」
えー! もうくたくたなんだけど!




