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第6話 闘技場から逃げ出しました

 王様がいるはずの部屋に私が駆けつけると、首に短剣を突き刺された王様が、大量の血が染み込んだベッドで寝転んでいた。

 そばには、白い頭巾をかぶってマスクをつけた護衛の兵士たちが数人いて、半裸姿のユリアンが泣き崩れている。


 そうだ! 警護していたアーテナは? と部屋の中を見回すと、

「アーテナっ! しっかりしろ!」

とリンターロ隊長が呼びかけながら、床に倒れていたアーテナを抱きかかえていた。

 アーテナは、頭から血を流していたけど、リンターロ隊長が声をかけると、少し反応があって、息はあるようだ!


 そしてもう一人、床に倒れている人がいて、ソーニアだった……。

 ソーニアは、王様と同じように首から大量の血を流して、すでに床で冷たくなっていた……。

「聖職者はどうした! なぜ王様の治癒をしてないんだ!」

とリンターロ隊長が叫ぶと、警備をしていた兵士が、

「そ、それが、聖書者がどこにも見当たりません……。

 もう逃げ出したのか、敵兵にとらわれたのか。

 探しに行った兵士も戻らないまま、王様がお亡くなりになってしまいまして……」

と報告する。

 舌打ちする、リンターロ隊長。


 そこに、血まみれになったカーウラ将軍が、アグリーナと一緒に駆けつけてきた!

「すまん、遅くなった! 我々がいた部屋も敵兵で囲まれて、脱出するのに時間がかかってしまった。

 王様は無事か!」

と叫んだけど、目の前のベッドに血まみれになって冷たくなり始めている死体を見ると、目を見開いて愕然とした様子で動けなくなった。

 変わり果てた王様の姿を見て、アグリーナが泣き叫びながら王様にすがりつく。


 だけど、敵の兵士たちがすぐそばまでに迫ってきていて、いますぐ逃げないといけない。

 カーウラ将軍が、リンターロ隊長となんかやり取りをして、改めてベッドの上で王様の死亡を確認し、王様の目をそっと閉じると、護衛の中にいる兵士の一人を見た。

 そして、ひきつった笑顔を浮かべて、その兵士に向かって、

「王様、ご無事で何よりです……」

と言う。


 えっ、どういうこと!?

 そう言われた護衛の兵士が慌てて白い頭巾とマスクをとると、でてきた顔は王様だった!

 あれっ! 王様! いや、別人か? でもそっくり!


「何をおっしゃるのですか! カーウラ将軍。

 私はドレイクです。影武者のほうです!」

とドレイクと名乗った王様そっくりの顔をした兵士が困惑しながら、カーウラ将軍にそう言うと、

「いいや! あなたは本物のグラーデウス王だ!

 今ここで死んでいるのが影武者のドレイクで、グラーデウス王は無事だった!

 そうですよね? 王様……?」

とドレイクと名乗った兵士に、にじり寄った。


「カーウラ将軍、まさか……」

と驚きの表情を隠せない、ドレイクとかいう兵士。

 そのやりとりを聞いていたリンターロ隊長がスっと近寄って、

「王様、いまは時間がありません。

 細かいことは後回しにして、ひとまずここを脱出しましょう!」

とドレイクに言う。

 すると、カーウラ将軍が兵士に命じて、きれいな赤い石が付いたペンダントを持ってこさせた。


 それを私に渡すと、

「ヨーコ、このペンダントを持っていけ。このペンダントの石は聖なる石だ。

 これを使えば、離れていてもお互いの位置を知ることができる。

 これを持って、闘技場から魔王の森まで、王様を守りながら逃げるのだ。

 もし王様とはぐれたりしたら、ペンダントの導きに従え。そうすれば落ち合える。

 そして、魔王の森の中まで逃げきるんだ!

 ブゴニアの民なら魔王の森の中までは、深追いしてこないはずだ」

 なんてことを言う。


 そして、楕円形のきれいな赤い石が埋め込まれたペンダントを、みんなに手渡していく。

 それから、カーウラ将軍は部屋に火をつけて、王様とソーニアの遺体ごと部屋を燃やし始めた!

 慌てて部屋を出て、ブゴニア国の国境の先にある魔王の森で落ち合うことにして、ブゴニアの兵士に取り囲まれている闘技場を、強行突破することになった。


 王様の影武者だったドレイクと、愛人のアグリーナを、カーウラ将軍と数人の兵士が取り囲んで、さらにその周りを駆けつけてきた十数人の兵士が取り囲んで、敵の兵士をけ散らしながら廊下を進み、闘技場の入り口をぶち破って外に出る。


 外に出ると私たちを殺すために敵の兵士たちが殺到してくるけど、闘技場の外で待機していた味方の兵士たちが、王様を救うためにその中に飛び込んできて、大混乱になって、次々と敵・味方の兵士たちが命を落としていく。ああ……。


 血なまぐさい匂いが充満し始めた混乱の渦の中に、でかい四つ足のモンスターが割って入ってきた!

 王様専用の乗り物のモンスターだ!

 モンスターの後ろの車に王様とアグリーナ、そしてカーウラ将軍を乗せて、先陣を行く兵士たちが切り開いた道を、雄たけびを上げたモンスターが突き進んでいく。

 後方に兵士を引き連れ、先頭を突っ走り出した王様一行を逃がすために、追手と王様一行の間に、駆け付けた味方の兵士が次々と盾になって、「俺たちを置いて、先に行け!」とばかりに討ち死にしていっているけど、走って逃げている私たちには振り返る余裕もない。


 味方の軍勢は散り散りになり、モンスターで逃げる王様一行の後ろは、私たちを含めて数人になってしまった。

 ここは! 不死身のヨーコこと私が、盾になってみんなを逃がさないと!

 よく考えたら、そんなことする必要ないけど、なんかノリで護衛の仕事を全うしようと思ったんだよね。

敵の兵士の束に向かって剣と盾を持って私に群がってくるのを、なんとか足止めしようと思ったんだけど。

 ものすごい数の敵兵に囲まれて、体中を切り刻まれて、血だらけになってその場に倒れてしまった。

「あ、これは終わった」と思いながら、つい首にかけていたペンダントを血まみれの手でぎゅっと握ると……。


「ヴィギャーン!!!」


という音とともに、私の体から光の力が、四方八方に輝いて解き放されて!

 近くにいた追手の兵士たちを、吹き飛ばした!

 私にトドメをさそうと群がってきた兵士たちが、今は私の周りに飛び散って倒れている。その周りにいる兵士たちは、私をおびえた目で見ている。


 ハッとした私は、急いで起き上がり、フラフラと王様たちの後を追う。

 私を追ってくる兵士はいない。振り向かず、そのまま走り出した。

 私の力? で飛ばされた兵士さんたちが軽傷だといいな……。


 すっかり先に行ってしまった王様一行を見失ってしまい、走りながら胸元のペンダントを握りしめると、なぜか進むべき道を感じることができた。

 あとでわかったけど、石の親玉みたいなペンダントがあって、それを王様が持っていて、他のペンダントは親玉ペンダントに導かれる仕組みになっているそうだ。


 しばらく走り続けて、混乱を極めていたブゴニア国の国境を、光の力を使って越えると、その先にあった魔王の森の入り口にたどり着いたのだった。

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