第31話 ドラゴンと王様
闘技場の横にある、大広場の真ん中にある塔にいた三人が、目の前に突然現れたドラゴンに呆然としていると、ゆっくりとドラゴンが塔の前に「ドスーン!」と降り立った。
大広場にいた人たちはすべて逃げ去ってしまい、ドラゴンと三人の様子を大広場の周りから、うかがっている。
そして、ドラゴンが「ゴオオオオオ」と大きく息を吸い出したので! 私はあわててペンダントを握りしめ、
『魔王様! 待ってください! そこにいる二人はダークエルフに操られているだけなんです! お願い! 殺さないで!』
と心の中で必死に叫んだ!
すると、ドラゴンは不満そうに上を向いたかと思うと、吸い込んだ息を吐き出すように、天空に向けて強大な火の玉を吐き出した!
何発も吐き出された火の玉が夜空を突き刺すと、少しして静かに消えていった。
その火の玉の残骸が降ってくるのをよけながら、私たちは急いで塔がある場所まで走って塔の上に登ったんだけど。
到着したときには、反乱の首謀者二人は呆然として残っていたし、赤色の鉱石も残ってたんだけど、ダークエルフは姿を消してしまった後だった。
『ふん、ダークエルフに逃げられたか。あのまま火の玉で燃やしてしまえばよかったな。
つい、お前の願いを聞いてしまった』
と不満げな魔王様。
確かに、魔王様の言う通りかもしれない。
だけど、目の前で人が殺されようとしているのを黙ってみているのは、耐えられなかったの。
首謀者の夫婦二人を拘束して。
ダークエルフには逃げてしまったけど、反乱自体は阻止できた!
だけど、大広場にはドラゴンが残っていて、その周りを離れた距離からブゴニア国の民衆が囲んで混乱している。
どうしよう! このままだとドラゴンが、ブゴニア国の兵士たちから攻撃を受けるかも?
すると闘技場の入り口から、グラーデウス王が出てきた!
よかった! 心配だったけど、王様の暗殺も防げたんだ!
そして王様が、ゆっくりとペンダントを持った手をかざして、
『偉大なる魔王よ!
私はグンペーイ王国の王にして、ドラゴンスレイヤーの血を引く、グラーデウス・アンダルーシア。
この度は、グンペーイ王国のピンチに、いろいろ手助けをいただき、感謝する。
ただ、ブゴニアの国民が動揺していて、このままだと魔王に刃を向けるかもしれない。
いったん、この場を立ち去っていただけるのであれば、後日、お礼の使者を魔王の森に向かわせようかと思うのだが、いかがだろうか?』
王様ってドラゴンスレイヤーの血を引いているんだ!
あれっ、前にそんな話を聞いたことあったっけ?
すると、ニヤっと笑ったようなドラゴンが、
『ドラゴンスレイヤーの血を引く、グラーデウス王よ。
お前の言いたいことはわかった。
だが、実は私の命はもうすぐ尽きるのだ。それに、この場所まで飛んでくるのにずいぶんと疲れてしまった。
ついでに、ここで面白い余興を皆に見せよう。
この余興は、お前にとって得することになるだろう』
というと、シーラを呼び寄せて、何かを伝えた。
そして、ゆっくりと強大な右手を上にかざすと、そのままゆっくりと大広場の地面に、右手の指の爪を突き立てて、巨大な円をぐるりと描いた。
ゲートだ! これは前に見たことがある!
ああやって、地面に大きな穴を開けるんだ!
まさか、ここで生まれ変わりの儀式を始めるつもりなの!
……大広場の地面に描かれた巨大な円は「ゲート」になって、目の前に巨大な穴が出現した!
穴の中は、少し前に見たことがある穴と同じで、とても深い穴で、下まで深い深い闇が広がっている。その奥底には、グツグツとなにかのどす黒い炎がゴーゴーと吹き上がっている。
『グラーデウス王、私は千年に一度、生まれ変わりの儀式を行う必要がある。
いまから、ここでその生まれ変わりの儀式を行う。
私は、闇の力をため込んでいる古い体をゲートで開けた穴に捨て去って、新しい体に生まれ変わるのだ。
グラーデウス王よ、その様子を見ている民衆には、お前がドラゴンを倒したように見えるだろう』
そう言うと、シーラを呼び寄せて、何かを指示したように見える。
すると、シーラがキッとした顔で、ペンダントを両手で挟んで、ドラゴンに向かって祈りを捧げ始めた。
すると! シーラの体が光り出し、その光がドラゴンにむかって一直線に向かう。
まっすぐに伸びた光は、ドラゴンの頭頂部に突き刺さった!
これは、前に見たことがある景色だ!
光が突き刺さった頭頂部から、光の玉のようなものが出てきた!
光の玉は空の上で光ったまま浮いていて、光の玉が抜けた、巨大なドラゴンの体がゆっくりと倒れていき、目の前にあったゲートの大きな穴の中へと落ちていったのだった……。
そしてそのまま、奥底の黒い炎の中にドラゴンが落ちていき、その姿が見えなくなると、ゆっくりとゲートが閉じっていった。
そして、ドラゴンから飛び出した光の玉が、小さなドラゴンの形に変わっていったのであった。
その光る小さなドラゴンを、シーラがそっと抱きしめて、自分が着ているスケスケの服の中に包みこんだのだった。
そこで、グラーデウス王が、腰にあった剣を頭上に掲げて、
「ブゴニアの民よ! 安心しろ!
突如現れた魔王の森のドラゴンは、ドラゴンスレイヤーの血を引く、このグラーデウスが退治した! もう安心だ!」
と高らかに宣言したのだ!
その瞬間、広場の周囲にいた人たちから「うぉーーーーー!」と大歓声が沸き起こり、その場はグラーデウス王を称える言葉に包まれた。
そして、どこから運び込まれたかよくわからないふるまい酒を飲みながら、お祭り騒ぎは朝まで続いたのだった。
大歓声を受けながら、グラーデウス王が闘技場の中へ戻っていく。
私もいっしょに戻ると、カウーラ将軍とリンターロ隊長が王様を出迎えて、闘技場の観覧席の後ろにある控室へ向かった。
控室に入ると、そこには死んだドレイクがベッドに横たわっていた。
リンターロに、「ドレイクを殺したの!?」と私が聞くと、
「いや、ドレイクは自ら、毒を飲んで死んだんだ。
そして、何も語らずに亡くなった」
とだけ答えた。
後で詳しく聞いたところによると、闘技場での試合がすべて終わった後、酔っぱらった(ふりをしている)王様がユリアンといっしょに控室に移動したところで、闘技場の横の大広場で騒ぎが起こった。
それで護衛していた兵士たちが外に様子を見に行くと、兵士の中にいたドレイクがこっそりと一人で戻ってきて、アーテナに背後から襲いかかったんだけど。
リセット前に起こったことを聞いていて半信半疑だったものの、警戒していたから、ドレイクに気づいたソーニアが「アーテナ、後ろ!」と叫ぶと、背中越し狙って襲ってきたドレイクの腕をつかむと、背負い投げをぶちかましたそうだ。
それで、倒れたドレイクにソーニアがのしかかってぶんなぐりまくって、おとなしくさせたら、ベッドの下に隠れていたカーウラ将軍とリンターロ隊長が出てきて、捕まえたんだそうだ。
それで、酒に酔ったふりをした王様がベッドから起き上がると、
「正式な後継ぎを決めれば、私を襲ってこなくなると思ったんだがな」
と残念そうな顔で言ったそうだ。
それで、大広場の様子を見るために闘技場を出て、ドラゴンに遭遇していろいろあった後、いま王様の控室に戻ってきて、ドレイクの死を確認したのだった。
「グラーデウス王、申し訳ございません。
ドレイク自身が口の中に毒を仕込んでいたようで、自殺するのを防げませんでした。
ドレイクは、王様の命を狙った理由も、誰からの命令だったのかも、なにも言わずに亡くなりました」
と無念そうに報告する、リンターロ。
それで、カーウラ将軍が、
「グラーデウス王。後継ぎが決まったことで、グンペーイ国内の反対勢力が王を暗殺しようとしなくなると思っていました。
ですが暗殺が実行されたということは、暗殺を企んだのは、グンペーイ王国の人間ではなく、ブゴニア国の者ということになるのでしょうか?」
とグラーデウス王に聞くと、
「それはこの後、わかるだろう」
と厳しい顔をして、つぶやいた。
ドレイクは、口から血を吐いて死んでいた。
王様の命を狙った以上、どのみち死刑になったかもしれないけど、それでも救いたかったな。なぜ王様の命を狙ったのかも、聞きたかった。
王様を恨んでいたのかな? それとも命令されて従うしかなかったのかな?
リセット後の世界では、ほとんど接点がなかったけど、リセットする前は、王様より王様らしい行動をしていて、そのまま王様の代理が務まるんじゃないか、と思ったぐらいだったのに。
リセット後の世界で、たくさんの人を救えたからこそ、ドレイクを救ってあげられなかったことが悲しい。
目の前にある亡骸を前に、自然と涙がでてきた私のことを、リンターロ以外の周りの人が、不思議そうな目で見ていた。
こうしていろいろあった記念闘技大会が終わり、ブゴニア国からのグンペーイ王国への帰還の旅は、前にも増して各地で大歓待を受ける帰り道になった。




