第30話 記念闘技大会の日
ふるまい酒を手に持ったソーニアが、私に変なことを言い出した。
「このもらったお酒、私がいつも魔法使いからもらっている薬と同じ味がする」
「もらっている薬と同じ味って……まさか『バーサーカー』になるための!?」
「ああ、試合の前にバーサーカー化するために、術をかけてもらうんだけど、『この薬を飲むと術の効き目が格段に良くなる』って言われて、いつも飲まされる薬があるんだけど。
妙に甘ったるい味の薬なんで、いつもは酒に混ぜて飲んでるんだけど。
ちょうどこんな味になるんだ。
ふるまい酒が、その薬を入れた酒と同じ味がするんなんて、奇遇だねー」
それ、たぶん奇遇じゃない!
「ソーニア! そのお酒は、これ以上は絶対、飲んじゃだめだよ!
そのふるまい酒をくれた人って、どこに行ったの!」
と聞いて、ソーニアが指さした方向に向かって私は走り出した。
それまで、反乱と無縁だったブゴニアの国民が、リセットする前の世界で今日、いきなり暴徒と化したのは、酒に混ざったバーサーカー化するための薬のせいだったんだ。
確かブゴニア国の旧・王家の生き残りの夫婦って、ブドウ畑の農園でお酒を造っていたんじゃなかったっけ!
それも、たまたまじゃなかったのか!
しかし、もう反乱の開始まで時間がない。
急いで、お酒を配ってるのを止めるために、闘技場の外に出たんだけど……。そこにいたのは、大量の酒樽から大盤ぶるまいされたお酒を飲んで、酔っ払っている人たちの姿だった。
呆然としつつ、酒樽の近くでお酒を配っている人たちを問い詰めてみたけど。
当日お金で集められただけの人で、首謀者の夫婦のことも、裏で操っている魔導師やダークエルフのことも、なにも知らないようだった。
そして、ついにその時が来てしまった。
そろそろ日が落ちようとしている闘技場の隣の大広場では、配られたタダ酒で酔っぱらっている大勢の人が、まだまだこれから盛り上がるぞっという様子で、歌ったり踊ったりして楽しんでいたけど。
大広場の真ん中に設置された高い塔の上に、三人の人影が現れた!
私が首にかけていたペンダントを握りしめて、視力を上げてその顔を確認すると……。
あ! あれはリセット前に見たことのある、反乱の首謀者の夫婦だ!
その後ろにいるのは、紫のローブをかぶって顔が見えないけど、例のダークエルフなんじゃないかな!?
塔の上に立った夫婦の男性のほうが、塔の上にあった大きな金を「カーン! カーン!」と、叩き始めた!
何ごとかと塔のほうに視線を集める民衆たち。そこに鐘を叩くの辞めて、剣を頭上に振り上げた男の大声が響き渡った。
「私は、ブゴニア国の王族の遺児、イングマンだ!
今ここに、ブゴニア王政の復活と、グンペーイ王国への反攻を宣言する!
ブゴニアの国民よ! いまこそ私とともに剣を取れ!
ここにいる、グンペーイ王国の王と兵士をすべて討ち果たし、グンペーイ王国へ進軍するのだ!」
なーんて、勇ましいことを宣言したんだけど、それを見ていた人たちの反応は微妙なかんじだった。
宣言に驚く人、戸惑う人、バカにする人など、ザワザワしているけど。
「なにを言っているんだ、あの男は?」
「王族? まだ生き残りがいたのか?」
「グンペーイ王国と戦う!? ろくに武器も兵力もないのに?」
「これって頭のおかしいやつのたわごとだよね?」
といった感じで、男の勇ましい宣言に対して、反応はあまりよくない。
すると後ろに控えていたダークエルフと思われる者が、なにか大きなものを両手で上に持ち上げた。
赤色の巨大な鉱石だ!
普段身に着けているペンダントの鉱石の同じ色をしているけど、人が持ち上げるには大変そうなぐらい、巨大な大きさをしている鉱石だった。
そして、持ち上げた鉱石が、黒い霧に包まれて、赤色からむ紫色に代わり、怪しく光り始めた。そして、ダークエルフが鉱石を持ち上げたまま、何かの呪文をつぶやいているように見えた、その時だった。
「バサッァ、バサッァ!」
と大きな、何かが羽ばたいている音が、大広場の上空から聞こえてきた。
驚いて上空を見上げた私を、いや広場にいた民衆すべてを、巨大な影が覆いつくす。
ドラゴンだ! 巨大なドラゴンが、大広場の上空にやってきたんだ!
突然、大広場の上空に現れた巨体のドラゴンに驚き、逃げ惑うブゴニア国の人たち。
「お待たせしましたー! ヨーコさ~ん!」
と上空から声が聞こえる! あれは、シーラの声だ!
実は、数日前、ダークエルフを探そうにも手掛かりがないまま煮詰まっていた私たちに、シーラから、ある提案があったんだ。
それは、「魔物のことは魔物に聞いてみましょう」というものだった。
「魔物のことは魔物って……それはひょっとしてドラゴン、魔王様のこと?」
「はい。魔王様だったら、ダークエルフを見つけるヒントをなにか知っているんじゃないかと思うんです」
「それは、私も考えたけど……。
じゃー、ペンダントを使って聞いてみるか……。
今回は、まだあまり仲良くなれてないけど。答えてくれるかなぁ?」
そう言って、ペンダントを握ろうとした私の手を制して、
「こういうことは、直接聞きにいったほうがいいと思うんです。
私、これから魔王の森に戻って、魔王様に会ってきます」
と言い出す、シーラ。
「シーラちゃん、魔王の森は、危ないよ!
それに闘技大会まで、もうあまり日にちがないし!」
「行きの旅はなんとかなりましたし、大丈夫ですよ。
でも、ヨーコさんは、ここに残ってください。
もし当日までに、私が戻ってこれなかったら、なんとかしてヨーコさんが、この反乱を止めてください」
そう言うと、私をブゴニア国に残して、ルコーラ神学長と魔法使いのトモシゲと、数人の兵士を連れて、再び魔王様に会うために、魔王の森へ向かったのだった。
それから記念闘技大会の当日まで戻ってこないし、ペンダント経由で連絡しても返事がないので、悪いことが起きてなければいいんだけど、と心配していたんだけど。
まさか、ドラゴンを連れて戻ってくるなんて!
シーラを背中に載せたドラゴンこと魔王様が、大広場に集まっていた人たちの上を優雅に旋回する。
急に、頭上に現れたドラゴンにパニックになって、みんな四方八方に逃げ惑う。
そして、みんな逃げ散って、誰もいなくなった塔の前の広場に、ゆっくりとドラゴンが降り立ったのだった。




