第29話 どうすればいいんだ……
私たちの話を聞いていたルコーラ神学長が、驚いた様子で「聖女を皆殺しですって! 何の話ですか!」と声を上げたので。
あわてて、私とリンターロの身に起こったことを、ルコーラ神学長とシーラちゃんに説明したんだけど、『こいつら、大丈夫か』という目でこっちを見てくる。
なので、特にシーラちゃんに、
「信じてもらえないかもしれないけど。
王様の暗殺も、ドラゴンの生まれ変わりも、ブゴニア国の反乱も本当にあったことで、私とリンターロは一度それを経験したの。
シーラちゃんにも、前に出会って、ドラゴンが生まれ変わることに協力してもらったの。
でも、結局ドラゴンは殺されてしまって、世界が闇の力に包まれようとしたときに、異世界転生者である私の『リセット』の力で、時間を巻き戻したの。
お願い、これだけは信じて!
私は、王様も、グンペーイ王国も、ブゴニア国も救いたい!
魔王様にも居続けてもらいたい!
私が、あなたのことを絶対に私が守るから、協力してほしい!」
と叫んで、手を握りしめたものの。
リセット前、結局シーラちゃんを守ることができなかった私が、何を言っているだろう。
でも、今度こそ、今度こそ、私の命に代えてあなたを守るから、お願いだから協力してほしい! 王様だけじゃなくて、だれも死なせたくないの!
と、心を込めて力強くシーラの手を握る。
すると、お互いが胸にかけたペンダントが、光り輝き始めた。
そして、それまでのびくびくした表情が嘘のように、しっかりとした表情に変わったシーラが、真剣なまなざしで私を見つめると、
「わかりました。
ヨーコ様には、自分では気づけなかった力を、引き出していただきました。
私は、あなたを信じます」
と言って、力強く手を握り返してくれた。
こうして、ちょっとシーラと打ち解けてきたところで、「これからどうする?」とリンターロに話を振ると。
「もし王族をそそのかしている魔道師を捕まえられたとしても、ダークエルフが民衆をバーサーカー化させるかもしれない。
どこにいるのか、何人いるのかもまだわからないが、とにかく魔導師とダークエルフを同時に探し出そう!」
ということで、二手に分かれることになり、王族の生き残り夫婦が耕している畑には、リンターロとルコーラ神学長ほか数名で出向き、ダークエルフは私とシーラちゃんほか数名で探すことになった。
ダークエルフに詳しそうという理由で、魔法使いのトモシゲさんも、こちらのチームのメンバーということになった(笑)。
それで、それぞれが商人に変装すると、昼前には秘密のアジトである宿屋を出かけることになった。
でも、探し出すといっても、畑仕事をしているという夫婦はともかく、ダークエルフのほうはどうやって探せばいいのか、まったくわからない!
とりあえず、魔法使いトモシゲの案内で、商談と称して怪しげなお店に行って、いろいろと聞き込みしたけど、成果はなし!
それで、聖女様の推薦状を持って、この国の聖神会にも行って話を聞いてみたけど。とても丁寧な対応をしてもらったけど、こちらも成果はなかった。
まあシーラは、グンペーイ王国の聖女候補として、これまでにない大歓迎を受けて、聖神会の図書館に案内されたり、お茶会に呼ばれていろいろ聞かれたりして、探索どころじゃなかったようだけど(苦笑)。
ただ、どこに行っても、なんとなくこの国の様子がおかしいと感じている人はいるようで、
「闇の力が活性化しているのを感じます。飼っているモンスターが狂暴化しているんです」
「最近、聖職者たちの間で、原因不明で体調を崩すものが増えています」
といった、似たような話はあちこちで聞くことができた。
「ねー、魔法使いのトモシゲさん。ダークエルフってそんなに闇の力がある存在なの?」
「私は、ツゥモシーゲです。
ダークエルフは、光の種族であるエルフが闇に落ちた存在で、数は少ないものの、光の力と闇の力の両方を操れるという、たいへんやっかいな存在なんです」
へー、意外と物知りなんだ、と違うところで感心してしまった(笑)。
それで、リンターロたちと落ち合う予定の時刻に宿場に戻ると、リンターロが暗い顔をして待っていた。どうかしたの?
「実は……畑に行ってみると、ブゴニア国の王族の生き残りという夫婦の姿が消えていたんだ。
それを見張っていたグンペーイ王国のスパイは、畑の近くにあった酒蔵の中で殺されていた……。それだけでなく、その一帯の農民たちごと姿を消した。いったいに、どこに行ったのか……」
と悲痛な表情で、大変なことになったと教えてくれた。
それからさらに数日が経ち、 魔法使いトニカクの助言を受けながら、ダークエルフがいそうな怪しげな場所をこっそりと探しまくったんだけど、なんの成果もないまま。
ついに征服の記念式典にお呼ばれしたグラーデウス王一行が、このブゴニア国にまで到着したのだった。
反乱の首謀者たちも、ダークエルフも見つからないまま、しかたなくグラーデウス王とカウーラ将軍に現状を報告して、暗殺を企んでいるかどうかわからない影武者のドレイクの監視と、反乱が起こったときの王様の逃げ道を、極秘に確保してもらったりした。
だけど、やっぱりドレイクにも暗殺なんてことはしてほしくないし、反乱は起こってほしくない。
反乱を起こそうとしている黒幕であるダークエルフと、暗殺の首謀者かもしれない王妃様がつながっているとしても、反乱が起こらなければ、暗殺も実行されないかもしれないし。
だけど、そのまま何も見つけられないまま、王様一行の歓迎の大宴会が毎日行われて、ついに征服を記念した闘技大会の開催日を迎えることになった。
当日は、正直それどころじゃなかったけど、剣闘士の一員として、大会に出て、リセット前と同じく、ビキニの鎧を着てスライムと戦って、その透明な体に取り込まれて、光の力を発動させて吹っ飛ばして、闘技場をスライムの体液でビシャビシャにしたら、一部の男性客から熱狂的な声援をもらったりしたけど。
試合が終わったら、さっさと浴場にいって、体にへばりついたスライムの体液などろくに落とさずに、闘技場の外に飛び出て、様子をうかがうことにした。
そろそろ、リンターロとブゴニア一の剣闘士による試合が始まる時間になり、闘技場の周りをぐるっとブゴニア国の民衆と警備のための兵士たちが取り囲んでいる。今日これから、ここで反乱が起こるような気配は見当たらない。
でも、そうだとすると、私やリンターロがリセットする前の世界で経験したことはなんだったんだ? ってことになる。
ひとまず闘技場の外の様子はわかったので、今度は王様がいる観覧席の様子を見に行くと、観覧席へ続く通路で、ばったりとソーニアと出くわした!
あれっ! ソーニア、王様のそばで警護してなくていいの!
「やー! ヨーコ! 王様の横で見ていたけど、さっきの試合は盛り上がったね!
私も王様の警護がなければなー。試合に出たかったなー!
この国のモンスターどもを血祭りにあげたかったんだけど!」
「ソーニア! それこそ王様のそばにいなくていいの!
それに、何その手に持っているのは!」
そう! 王様の警護中だっていうのに! ソーニアの手には明らかにお酒の入ったコップを持ってて!
「それがさー。トイレに行くのにうろうろしていたら、外から入ってきた人から『ふるまい酒です』って、これをもらっちゃってさー!
そう言われたら、友好のためにも、いただかないわけにはいかないじゃん!
それにヨーコも、私の酒の強さは知ってるでしょ!
こんな酒の一杯ぐらい大丈夫だって!」
といって、手に持ったお酒を、グイっとひと飲みする。
私、お酒のことはわからないよ、まだ、未成年なんだから(異世界だから、たしなむぐらいいいよね?)!
しかたないなーと思っていると、お酒を飲んだソーニアが、不思議そうな顔をして、空になったコップを見つめている。
そして、コップの匂いをクンクンと嗅いでペロペロと舐め出した。
「ソーニア! もう酔っぱらったの! 王様の護衛の仕事があるんでしょ!」
と私が注意すると、首をかしげながらソーニアが、
「この酒、どっかで飲んだことのある味がするなー。どこで飲んだんだっけ?」
なんてことを言い出す。
ソーニア、そんなんで王様の警護がちゃんとできるの!
こっそりと警護の人員を増やしているといっても、ドレイクが王様の命を狙っているかもしれないのよ!
と、声に出して怒ろうかと思った瞬間、ソーニアが変なことを言い出した。
「このお酒、私がいつも魔法使いからもらっている薬と同じ味だ」




