第21話 やっと帰国できたけど
ブゴニア国から帰国した軍勢より、遅れること数日。グンペーイ王国に帰国した私たちは、すぐにお城に呼び出され、王妃様の前にひざまづいた。
リンターロが、「王妃様、ただいま戻りました」と挨拶する。
「成果は」
と王妃が冷たく聞いてきたけど、
「ございません」
と答えるリンターロ。
「どういうことだ」
「アグリーナの子が男の子だったら殺す、女の子だったら連れて帰ってくる、とのご命令でしたが、確認したところ男の子でしたが、殺せませんでした」
「そうか。それなら別の手の者を差し向けることにしよう。
お前たちは、命がないものと思え」
と私たちに冷たく言い放つ、王妃様。
なので、今度は私から、
「王妃様、私から一つ提案がございます」
「なんだ、ヨーコ。お前になど用はない」
「でも王妃様。王様が亡くなったのに、王様の血を引く男の子を後継ぎとして養子にしないで、殺そうとするのは、なぜですか?
おかしいですよね?」
「これは、高度に政治的な問題で、お前ごときが口をはさめるような話ではない」
「いいえ! 言わせてもらいます!
ひょっとして、別に隠し子がいるんじゃないですか?
アグリーナの子どもよりも、何年も前に生まれた男の子が!」
私がそう言うと、無表情になった王妃様は黙ったままで、何も答えない。
なので、話を続ける。
「そして、その子って、王様と聖女様の間に生まれた子ですよね? 王妃様!」
王妃様はなにも答えない。
「王様と聖女様との間に関係があったことは、以前、聖女様から直接うかがいました。
そして、気づいたんです。
王様との間に子どもができなかった王妃様は、他人が生んだ子どもを養子にするのなら、せめて自分と血のつながりのある子にしよう、と思ったんじゃないかって。
血のことだけで言えば、王様が愛人に産ませた子どもではなく、同じ一族の血を引く子どもになりますもんね。
バレたら、国中が大騒ぎになる大スキャンダルですけど。
でも、大スキャンダルすぎて、聖神会の屋台骨を揺るがすことになるから、炎の神を信じている貴族たちは、おそろしくてこのことを公表しようとする人はいない。
そうとうなギャンブルな気がしますけど!
それで、王様と聖女様との間に生まれた子どもを、王様が身分の低い人に過去に生ませた子だということにして、後継ぎにすることにしたんですよね!」
とここ数日ずっと考えてきたことを、ぜんぶ吐き出した。
リンターロが、話を引き継ぐ。
「身分は低いけど、アグリーナは別の貴族につながる家の人間です。別の有力な貴族に子どもに手を出されたら、厄介なことになります。
だから、王様が亡くなったことが分かった時点で、聖女様の子どもを王様が誰かに生ませた隠し子だと偽って、後継ぎにすることを決めた。
そして、その対抗馬になるアグリーナのお腹の中の子を、カーウラ将軍や俺に『男の子だった殺せ』命令したんですよね」
王妃様はなにも答えない。
本当は。
王様が死んだのは、偶然なんですか? 王様を暗殺したのも、王妃様ではありませんか?
という疑問が私たちにはあったんだけど、それを追及したら、さすがに危険すぎるので黙っていたけれど。
そこに、袖に隠れていたシーラが、小さな男の子を連れて、姿を見せる。
「リ、リウィーデウス! なぜ、お前がここに!」
と、それまでずっと黙っていた王妃様が、動揺した様子で声を出す。
私が、王妃様に、
「私たちは、ここに来る前に聖神会に行って、聖女様とお話ししてきました。
聖女様に、リウィーデウス君が王様の後を継ぐことに全力で協力するし、秘密は決して洩らさないので、それ以外のことには目をつぶってしてほしいとお願いしたところ、快くリウィーデウス君を聖神会から送り出してくださいました」
と伝える。
本当のことを言うと、聖女様は、リウィーデウス君が王様との間に生まれた子どもだと最初はなかなか認めなかったし、後継ぎにすることも嫌がったんだけど。
聖女様に、私たちが知っていることを全部話して、一つの質問をしたんだ。
「王様が暗殺されたとき、聖職者による蘇生を行わせないようにした者がいます。こころあたりはありますか」
さすがに指示したのは聖女様ですか? とは聞かなかったけど。
「それ、私じゃないわ」
と、ことも投げに応える。
「そうねぇ。私以外に王様付きの聖職者たちにそんな指示ができるのは……お姉様ぐらいかしら?」
と聖女様が答えると、さらに、
「もし王様を殺したのがお姉様だったとしたら、私は仇をとるべきなのかしら?」
と言ったことは、もちろん内緒だ。
そこまでして、王妃様や貴族たちがリウーディウス君を後継ぎにしたいのなら、しかたないかと、しぶしぶこちらの提案に了解してくれた聖女様だった。
それで、リウィーデウスという名前の少年が、王妃様の前に立つ。
「王妃様、すべてを聖女様から聞きました。
あなたが、僕の新しいお母さまになってくださるんですね。
聖女様と離ればなれになるのはとても寂しいのですが、男の子だからガマンします。
これから、よろしくお願いします」
そういうと、ぎこちなく笑った。
リウィーデウス君の登場に明らかに動揺している王妃様にリンターロが、
「王妃様。アグリーナは自分の子どもと離れ離れになることを望んでいません。
カーウラ将軍も、生まれた子を自分の子どもとして育てる、けっして秘密を漏らすことはない、と言っています。
どうか、二人にお慈悲を! 亡くなった王様のお子様は、リウィーデウス君、ただ一人! 私たちみんなで秘密を守り、王子様をお支えすることを約束します!」
とすがり付くようにお願いする。
すると、王妃様が深いため息を吐くと、リウィーデウス君を手元に招き寄せた。
そして、その亜麻色の髪をそっとやさしくなでて、
「この子が、本当に血を分けた私の子どもだったらよかったのにな」
と言うと、
「もういい。わかった。
リウィーアが、なかなかリウィーデウスを手放さそうとしなかったので、難儀していたのだ。
ここにリウィーデウスを連れてきたことに免じて、そなたたちの言うとおりにしてやろう。
リウィーデウス、そなたは、今日から『ディアーデウス』と名を変えて、私の息子になるのだ。
そして、この国の王になれ!」
「わかりました、お母さま」
そう言うと、リウィーデウス、あらためディアーデウス君は王妃の前にひざまづいたのだった。




